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ルーゼスの町

 ルーゼスの町はファーゼの町よりもひと回りほど規模が小さい。

 二階建ての石造りの建物が多いという点は同じである。


「おや?」


 ケントが興味深そうに周囲を観察しながら歩いていると、前方のタンドンが彼とシロに気づいて振り向く。


 護衛二人とも町に入って別れたらしく、彼は一人だけだった。


「ケントさん。どうかなさいましたか?」


 依頼が終わったはずなのに、この町に何の用なのかと思ったのだろう。


「せっかくだからここのハンター組合にも顔を出しておこうかと思いまして」


「なるほど。受けられる依頼は町ごとで違いがあると聞きますからな」


 ケントの答えに納得したらしく、タンドンはくり返しうなずいている。


「黒鉄だとそんなに影響はないかもしれないですが、それでも顔つなぎはしておきたいなと思いまして」


 彼の説明に共感したらしく、タンドンは破顔した。


「わかりますとも。商人はまず顔と名前を覚えてもらうことが、仕事の第一歩なので」


「商人もハンターもやることは同じかもしれませんね」


 黒鉄ハンターと旅商人は言葉と笑みをかわす。


「ですが、そういうことならお力になれるかもしれません。この町のハンター組合や宿屋には知り合いがいるので」


 とタンドンは言い出した。


(よしよし、狙い通り)


 ケントは期待していた展開になったので、喜びが表に出ないよう抑えるのに苦労する。


「ではお願いできるでしょうか」


「ええ。二日後の夜に到着する予定だと伝えてありましたから、みんなきっと驚きますよ」


 とタンドンはいたずら小僧のような笑みを浮かべて言う。


「ははは」


 ケントは笑いながら、意外とおちゃめなところがある人なんだなと感じる。

 二人プラス一匹は連れ立ってルーゼスの町のハンター協会へと顔を出す。


「あら、タンドンさん? 到着はまだ先のはずでは?」


「こんにちは」


 顔なじみらしい受付嬢が旅商人の姿を見て目を丸くする。

 タンドンは笑みを向けつつ視線をケントへやった。


「こちらのケントさんに送ってもらえたおかげでね、予定よりも早くつけたんだ」


「へえー……でも、知らないハンターの方ですよね?」


 受付嬢は興味深そうな視線をケントに映しつつ、怪訝そうに首をひねる。


 移動時間を短縮できる手段を持つのは、高名なハンターにかぎるという常識が彼女の頭にはあった。


「ああ。何しろ外の大陸からやってきたホワイトライダーだから」


「え!? ホワイトライダー!? この人が!?」


 受付嬢は口に手を当てて、目を大きく見開いて叫ぶ。

 そのせいで建物の中にいた者たちの視線が彼らに集中する。


「おかげで貴重な体験ができた上に、想定よりも早く到着できたんだよ」


 タンドンは彼女を制止することもなく事情を話していく。

 受付嬢が驚いて周囲の耳目を集めるのは計算通りのようだった。


「そうだったのですね」


 ケントにとって意外なほど簡単に受付嬢はタンドンの話を信じたらしく、興味津々という顔で彼を見る。


(レアドロップを最初に獲得した時の、周囲の反応がこんな感じだった気がする)


 ケントは周囲からの視線を集めている現状を、過去の体験になぞらえた。

 仕事の時も似たようなことはあったのだが、思い出したくない。


 ともかくタンドンは彼を売り込むために話しているのだろうから、制止するのはやめておいたほうがいいだろう。


「そんな方がよくタンドンさんの依頼を引き受けてくれましたね?」

 

 受付嬢は当然の疑問をぶつけてくる。


「ケントさんはこちらの大陸に来たばかりだから、まだ黒鉄ランクなんだよ」


「あ、そうか」


 タンドンの答えに彼女は納得した。

 大陸が変わるとランク制度は最初からというルールは、彼女も知っている。


「つまり今のうちに頼んだほうがお得かもな」


 と商人はいやらしいことを言う。

 

 だが、これは悪ぶっているだけで、ケントが仕事をもらえるようにという配慮だとわかる。


 報酬が少なくて申し訳ないという分を、こういう形で返してくれたのだ。

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