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第7話「そ、そんなに安いわけないでしょ!」



 森を抜けたところで視界が開け、シュライアンの町が見えてきた。


 なだらかな山の斜面に大小様々な建物が見える。

 褐色の壁と赤い屋根の建物が多いが、もっとも高い場所に建っているドームだけは、白い壁がひときわ目立っている。

 市庁舎か、あるいは地主の宮殿だろうか。


 さらに町に近づくと、行き交う人々の姿も目に入った。


 大小様々な荷物を運ぶ男たち、屋台で何かを売っている商人、買い物客らしき女、走り回る子どもたち。


 現代日本の規模に比べると、決して大きな町とは言えなかったが、活気があり、平和そうだった。

 だいたい、俺のような見ず知らずの男が、何のチェックも受けずに入れるのだから、治安はいいし戦時下でもないのだろう。


「モエカは、ここに来たことはあるのか?」


「うん。

 かなり前だけどね。

 父にねだって連れてきてもらった」


 町のメインストリートらしき通りを歩いていると、ときおり男たちがモエカの姿に眼を奪われていることに気づいた。

 彼女は俺の主観でも可愛い娘だと思っていたが、この世界の基準でも、そうとうイケてる女性のようだ。


 ただ、本人はそんな男どもの目線など、まったく気にしていない。

 剣士としてのプライドなのか、田舎者だとバレないように虚勢を張っているのかはわからないが、長い髪をなびかせ、さっそうと歩いている。


「どこへ向かってるんだ?」


「まずは、道具屋さんを探してる。

 ミノルのコップを買い取ってくれそうな店」


 コップじゃなくて空き缶なんだが……まあいいか。


 町の入口には屋台が多かったが、さらに奥まで進むと、戸建ての商店がいくつも並んでいた。

 服屋、靴屋、魚屋、八百屋、料理屋……。

 店の看板に書かれた文字は暗号のようにしか見えないが、なぜかその意味が頭に入ってくる。

 モエカと普通に会話ができているのも不思議だが、世界転移する際に、脳の言語中枢も再構成されるのだろうか。


「ここなら、買ってくれそう。

 入ってみましょ!」


 モエカは道具屋らしき店を見つけると、階段を上り、扉を開いた。

 俺も後に続いて店に入る。

 店内には腰ぐらいの高さのテーブルが並んでおり、鍋や皿、袋や箱などが陳列されていた。


「いらっしゃーい!」


 店の奥から出てきたのは、前かけをつけた元気のいい中年女性だった。

 モエカは腰のバッグから空き缶を取り出すと、店主に渡した。


「これを買い取ってほしいの。

 いくらになる?」


 店主は空き缶を持ち上げると、眼をこらしてしげしげと観察した。


「へえ。

 これは珍しい品ね。

 まるで金属みたいに光ってるのに、軽くて薄い……」


「でしょ。

 彼の故郷の名産品なの。

 もうひとつあるわ」


 モエカが目配せするので、俺はリュックサックから自分のぶんの空き缶を取り出し、店主に渡した。


「2つでいくらになる?」


 店主は頭の中で計算を巡らせている様子だ。


「そうね……。

 80ルビイってところかしら」


「は!

 はちじゅう~!?」


 モエカは全身の力が抜けたようにふらついた。

 ショックのあまり、わなわなと震えているのがわかる。


「そ、そんなに安いわけないでしょ!

 こんなに軽いコップ、今まで見たことある?

 ないよね?

 しかもこの表面の光沢、色彩の鮮やかさ!

 これは匠の技の結晶よ!」


 いや、量産品だけどな。


 まあ、それはともかく、モエカの必死の訴えにも関わらず、店主は冷静だった。


「それはそうなんだけどね。

 穴の大きさが小さくて、洗うとき不便そう。

 実用性は低いかな。

 大サービスしても、100ルビイが限界ね」


 空き缶を机の上に並べ、腰に手を当てて「もうお手上げよ」のポーズをとる。


「そん……な」


 モエカはがっくりと肩を落とし、俺に申しわけなさそうな眼を向けた。


「ごめんね、ミノル。

 あなたの国の貴重な品物なのに……」


 彼女がここまでしてくれるとは、意外だった。

 むしろ俺のほうが申し訳ない気分になってくる。


 そもそも空き缶は俺の世界ではゴミなのだ。

 高く売れないのが普通であり、彼女に責任は無い。


「気にすんな。

 ありふれたものだし、

 値がついただけでもラッキーだよ」


 俺は店主に向かって頷くと、1枚のコインを受け取った。

 青銅の硬貨で、人物の横顔が刻まれている。

 これがこの世界の通貨なのだろう。


   ***


 店を出たあと、モエカは無言のままうつむいて、歩き続けた。

 確かに、空き缶を売って当面の宿代が得られたら楽だなあと期待はしていた。

 だが、そもそもそんなウマい話があるはずもない。

 結局、人間は地道に稼ぐのがいちばんなのだ。


 俺はモエカを元気づけようと話しかけた。


「なぁ、モエカ……」


 彼女の顔を覗き込むと、彼女は――笑っていた。


 え?


 というか大笑いを始めた。


「あはは!

 やったわねー、ミノル。

 100ルビイだってー!

 やっほーい!!」


「え?

 ……え?」


 俺は一瞬、彼女が悲しみのあまりイカれてしまったのかと心配した。

 しかし、次第にもうひとつの仮説が頭の中で浮上してくる。


「演技……だったのか!?」


「あれ?

 気づかなかった?

 私の演技力もなかなかのものね。

 やっぱりモノを売るときは、足元を見られないようにしないとねー(笑)」


「じゃあ、100ルビイの価値って……」


「宿代には十分な額よ。

 南向きの部屋を2部屋借りれるはず!」


 彼女は悪びれた様子もなく、笑顔でガッツポーズを決めた。


 お……恐ろしい女……。




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