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第5話「100円ショップで痛み止めって売ってたっけ?」



「私は、モエカ。

 見ての通り、剣士よ。

 主君はいないから……自由剣士かな」


 剣士か。

 現代日本に比べると、かなり文化的には遅れているようだ。

 日常的に殺し合いのある危険な世界なのかもしれない。


 俺は自分の身を守るものを何も持っていないことに気づいた。

 武器も持たずに無防備で歩いていて大丈夫なのだろうか。

 彼女が「自称」ではなく、腕利きの剣士なら助かるのだが……。


「さ、行きましょ。

 順調なら、日が暮れるまでに着くはずよ」


 モエカは踵を返して歩き始めた。

 他に頼れる人がいるわけでもなし、彼女を信じてついて行くしかないだろう。


 前方を見ると木陰から陽が差し込んでいるのが見える。

 明るいほうを目指して進めば、森から外へ出られそうだ。


「君は……なぜ町に行くんだ?」


「なぜって……シュライアンの町は、いちばん近い町だから。

 とりあえずの拠点にしようと思ってね」


「拠点か……。

 そこで君は、何をするわけ?」


 彼女の眼に影が差したのを、俺は見逃さなかった。

 まずいこと……聞いちゃったかな?

 しかしモエカはすぐに勝ち気な女の子の表情を取り戻した。


「剣士としての経験を積むことかな。

 実戦では常に想定外の事態が起こるって、いつも父が言ってたから」


 彼女が「言ってた」と過去形で表現したことで、何となく事情を察することはできた。

 もっと詳しく知りたい気持ちはあるが、彼女とはまだ出会ったばかりだ。

 これ以上、プライベートなことを追求すべきじゃないだろう。


 俺は話題を切り替えた。


「で、この世界――グリンフェルトだけど、何か困った事態になっているのか?」


「困った……事態?」


「ああ。

 いちおう俺、この世界を救ってほしいって頼まれたからさ」


 モエカはまた、きょとんとした表情をして、俺の姿を頭から足先まで値踏みするように見回した。

 とうてい信じられないといった様子だ。


 まぁ、無理もないか。

 俺もいまだに半信半疑だしな。


 しかし彼女は笑い飛ばすわけでもなく、真面目に答えてくれた。


「特に……困ってはいないけどね。

 最近は戦争も疫病も飢饉も、あまり聞かないし……。

 もっとも、私は田舎にこもってたから、世相には疎いけど」


 モエカは自嘲気味に笑った。

 おそらく今までは親と暮らしていて、故郷から離れることもなかったのだろう。


「そっか。

 それじゃあ俺、当面はどうしようかな。

 寝床を確保するにも先立つものが必要だろうし……」


 実は心の中で、彼女が金持ちだったら……と少し期待したのだが、徒歩で旅してる若い剣士が裕福とも思えない。

 モエカも困った表情をしていたが、ふと思いついたようで、腰にぶらさげたバッグから、空き缶を取り出した。


「このコップ、あなたの国のもの?

 穴が小さくてちょっと飲みづらいけど、軽くて、表面が金属みたいに光っててとっても綺麗。

 これ売ったら、宿代ぐらいは稼げると思うけど」


 なんと!

 缶ジュースの空き缶が、この世界では価値を持つのか!


 俺は100円ショップの商品なら、いくらでもこっちの世界に持ってくることができる。

 これは……グリンフェルトでは金に困ることは無いかもしれないぞ。


 空き缶のようなタダ同然のものを高値で売るのはちょっと後ろめたさも感じるが、安く仕入れて高く売るのは商売の基本だ。

 問題ない……たぶん。


「じゃあ、町に着いたら買い手を探して……」


 俺が言いかけたとき、彼女が全神経を集中させて警戒していることに気がついた。

 耳をすませながら、腰の鞘から剣をゆっくりと引き抜いている。


 危険が迫っているのか?


 俺は音を立ててはいけない状況を察して、その場で静止しようとしたが、そのとき意に反して100円ショップのレジ袋がシャワシャワと音を立ててしまった。


 ギロっと彼女に睨まれる。


 表情だけで詫びようとした瞬間、俺の背中に何者かが激突した。


 ガウッ!


 勢いでそのまま前方に突っ伏す。

 背中に激痛が走る。


「ミノル!!!」


 俺は痛みに耐えながら、なんとか状況を把握しようと身を起こした。

 そこに再び灰色の影が襲いかかってくる。


 狼だ!

 もしくは狼に似た獣?


「ミノル!

 逃げて!!」


 モエカは剣を振り上げて狼を斬りつけようとしたが、間に合わない。

 身を守ろうと思わず振り上げた俺の右腕に、狼の強靭な牙が食い込んだ。


 痛っ!


 肉が削がれ、鮮血がほとばしった。


 ようやくモエカの攻撃が獣の胴体を貫いた。

 しかし、ちょっと遅かったようだ。

 薄れゆく意識の中で、俺はぼんやりと考えていた。


「100円ショップで痛み止めって売ってたっけ?」




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