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第4話「ほら、友情のしるしだ。飲めよ」



 俺は100円ショップの店内に立っていた。


 学校の教室の3個分ぐらいはある。

 割と大きめの店舗だ。

 客も普通に10人ほどいて、2台のレジと数人の店員もいる。

 まるっきり、家の近所の「タイゾー」そのものだ。


 次第に記憶が蘇り、状況が飲み込めてきた。


 俺は100円ショップの店内で意識を失った後、まばゆい光にあふれた部屋に召喚され、白い彫像のような姿の人物から、世界を救ってほしいと頼まれたのだ。


 彼の名は、大天使ザクウェル。

 世界の名はグリンフェルト。

 いきなり無茶を言うなと思いつつも、日々の生活に退屈しきっていた俺は、条件をひとつだけ要求して承諾した。


 その条件こそが、「100円ショップにいつでも出入りできる能力」だったのだ。

 俺は頭の中で100円ショップを強くイメージするだけで、異世界からこの場所へと戻ってきた。


 要求は、受け入れられたのだ。


 ふと気がついて、俺はズボンのポケットをまさぐった。

 1000円札と、500円玉と、100円玉が1枚ずつ入っていた。

 合計1600円。

 店内で倒れたときのままだ。


 さて、これからどうすべきか。

 俺は店内を歩きながら考えた。


 今後どんなことが俺の身に降りかかるのか、まったくわからない。

 だが、まずは空腹を満たすことが先決だろう。


 最近の100円ショップは飲料や菓子も扱っているようだ。

 俺は店の奥の食料品売場で缶ジュースとチョコバーを両手いっぱいにかき集めると、レジで現金を支払った。


「ありがとうございましたー」


 店員は笑顔を浮かべているが、他の客と同様に、なぜか感情を読み取れない。

 未来の超絶リアルなシミュレーターの中にいるような感覚だ。


 出口の前に立つと、普通に自動ドアが開いた。

 外には見慣れた日本の風景が広がっているが、これもどこか作り物のようで不自然に感じる。


 迷っていてもしかたない。

 意を決して、俺は足を踏み出した。


 するとふたたび風景が轟音とともに渦を巻き、視界が光に包まれた。


   ***


「ね、大丈夫なの?」


 まぶたを開けると、俺の顔を覗き込んでいる、彼女の不安そうな顔が見えた。

 また、あの異世界へ戻ってきたようだ。


 俺はゆっくりと身を起こしたが、側頭部の痛みは完全に消えていた。

 むしろ以前より、全身に力がみなぎっている。


「ああ。大丈夫だ。

 世話をかけてしまって、悪かったな」


「そう。

 なら、いいんだけど……」


 彼女はちょっと恥ずかしそうな表情をした。

 俺が意識を失っていた間、かなり取り乱していたのかもしれない。


「おかげで、いろいろ思い出したよ。

 俺の名はミノル。

 田中ミノルだ」


「……ミノル」


「そう。

 グリンフェルトって世界を救ってほしいと頼まれてやってきたんだが……ここはグリンフェルトか?」


「そうだけど……誰に頼まれたの?」


「なんか……彫刻みたいなおっさんだ。

 大天使とか言ってた」


「……はあ?」


 彼女はあからさまに疑わしそうな顔をした。

 大天使の名を出したことで、怪しさに拍車がかかってしまったか?


「まぁ、夢かもしれないし、信じなくてもいいよ。

 ただ、これからどうしたらいいのかさっぱりわからない。

 すまないけど、この世界のことについて教えてくれないか?」


「……」


 彼女はどう返事をしたらいいかわからなくなったようで、俺の顔を見ながら黙ってしまった。

 俺が頭のイカれた危険な奴なのか、オツムの弱い可哀想な奴なのか、決めかねているのだろう。


 どうするかな……。


 俺は100円ショップの白い袋を手に持っていることを思い出し、中から缶ジュースを取り出した。


「ほら、友情のしるしだ。

 飲めよ」


「……」


 彼女は恐る恐る缶を受け取ったものの、まだ怪訝そうな表情をしている。

 どうやら毒が入っていないことを示す必要があるようだ。


 俺は自分のぶんの缶を取り出すと、タブに指先をかけて、プシッと開けた。

 そのままグイグイと飲み込む。

 マジで美味い!


「えぇーーーっ!

 なにそれ!

 すごい、すごい!」


 彼女の態度が一変した。

 歓喜の声を上げると、子供のように好奇心いっぱいの目で、手に持った缶をいろいろな角度から観察している。


 もしかして……プルタブ式の缶を見たことがない……のか?


 俺は彼女の缶ジュースをいったん奪い取り、プシッと開けて返してやった。

 彼女は緊張に震えながらジュースを少しずつ飲み込む。


「冷たい!

 美味しい!

 サイコー!」


 彼女の恍惚とした表情を見て、俺の中でわずかに残っていた緊張感も完全に解けた。

 彼女とはいい関係が築けそうだ。


「だろ?

 俺の国の名産品だ」


「……わかったわ。

 とりあえず町まで案内してあげる。

 シュライアンの町。

 どうせ私も行くつもりだったしね」


 彼女は最後の1滴まで完全にジュースを飲み干したことを確認すると、大切そうに缶をバッグに収め、スタスタと歩き始めた。

 俺は大事なことを忘れていることに気づき、慌てて彼女を呼び止める。


「あ、ちょっと……」


 今さらではあるが、どうしても確認しておく必要がある。

 俺は、振り返った彼女に問いかけた。


「君の名は?」




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