第42話「見てからのお楽しみだ」
フローラム執政官からは、報酬として何を望むかと聞かれた。
俺たちは相談したうえで、マロンの村の人々をエスラーダに呼び寄せ、「メイカーギルド」の本部を作る許可を得た。
メイカーギルドは「ものづくり」を愛する者たちのギルドだ。
俺が提供する100円グッズを参考にしながら、様々な工作機械を駆使して便利なものを試作し、それを独占することなく人々に公開していく。
もはやメタルギルドによる制約は存在しない。
何を作ろうと完全に自由だ。
「まだちょっと歪んでるな。
もう少し芯を削って」
「了解!」
マロンは村から駆けつけた仲間たちと協力しながら、朝から晩まで作業場に立っていた。
クロスボウを改良した連射式の弓、ミリアンの魔法水を遠くまで飛ばせる大型の噴射装置。
エスラーダを外敵から守るための防衛システムが、少しずつ形になっていく。
「マロン、すごいペースだな。
ちゃんと寝てるか?」
「寝てるさ。
……楽しくて目が覚めるだけだ」
マロンの目は輝いていた。
故郷の村では、メタルギルドの目を恐れながら、こっそりとものづくりをするしかなかった。
それが今は、堂々と、仲間たちと一緒に好きなものを作れるのだ。
彼女にとってこの場所は、夢にまで見た環境なのだろう。
ミリアンはマジックギルドで魔法の修行を続けながら、メイカーギルドにも頻繁に顔を出していた。
「これ、見てください!」
ある日、彼女が嬉しそうに持ってきたのは、小さな木箱だった。
蓋を開けると、ひんやりとした風が吹き出してくる。
「冷却と加熱の魔法水を、交互に循環させる仕組みです。
おじいちゃんに原理を教わって、マロンさんに箱を作ってもらいました」
「……エアコンじゃないか」
俺は思わず唸った。
魔法と工作技術の融合。
まさにメイカーギルドが目指す方向そのものだ。
この設備が一般家庭に普及すれば、人々の暮らしは大きく変わるだろう。
いっぽうモエカは、意外な人物から声をかけられていた。
「ねえミノル、相談があるんだけど」
「どうした?」
「グレイドに技術顧問を頼まれたの。
王国軍がメタルギルドとの契約を打ち切って、剣術と魔法を組み合わせた新しい軍備体制に移行するらしいわ」
「剣と魔法の融合か……。
まさにお前がアルフォン戦でやったことだな」
「うん。
受けようと思ってる。
でも、ひとつお願いがあるの」
「どんな?」
「私だけじゃ不十分よ。
魔法の専門家が必要だわ。
ミリアンにも協力してもらえないかしら?」
「なるほどな。
了解。
俺からマジックギルドとグレイドに掛け合っておくよ」
かつて魔法を邪悪だと信じていたモエカが、自ら魔法使いとの協力を求めている。
彼女は確実に変わったのだ。
そして俺はといえば、寝食を忘れてある「大物」の設計に没頭していた。
マロンの作業場の隅を借り、100円ショップと現場を何十往復もしながら、図面を引き、部品を組み合わせ、試作と失敗を繰り返す。
「ミノル、また徹夜か?
目の下に隈ができてるぞ」
「もうちょっとなんだ。
あと少しで完成する」
「……何を作ってるんだ?」
「まあ、見てからのお楽しみだ」
マロンは呆れたように笑ったが、資材の調達には惜しみなく協力してくれた。
車輪の軸受け、ボディーの骨格、座席の取り付け金具。
彼女の工作技術がなければ、俺の設計図はただの絵に終わっていただろう。
ミリアンには魔法エンジンの核となる部分を頼んだ。
火炎の魔法水を燃料として、継続的に動力を生み出す仕組みだ。
何度も失敗したが、レバリスの助言もあって、ようやく安定した出力を得ることに成功した。
日本にいた頃の俺は、設計の仕事をしていたわけでもない。
ただの平凡なサラリーマンだった。
しかし今は、100円グッズという「種」と、マロンやミリアンという最高の仲間がいる。
種を蒔き、育て、実らせることができる土壌がここにはあるのだ。
そんな忙しくも充実した日々が続いていたある朝、グレイドがメイカーギルドの作業場に現れた。
その手には、金色の封蝋で閉じられた手紙が握られている。
「ファウエル王都からの召喚状だ。
国王が、お前たちに会いたいそうだ」
俺はマロンと顔を見合わせた。
「国王!?」
「ああ。
お前たちの噂は、ついに国王にまで届いたということだな」
もちろん断る理由はない。
むしろ、メイカーギルドの活動を王国全体に広げるための、またとない機会だ。
俺は作業場の奥に目をやった。
大きな布をかけられた「それ」が、静かに出番を待っている。
間に合った。
こいつのお披露目には、最高の舞台が用意されたというわけだ。
「よし。
みんなを集めてくれ」




