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第40話「そろそろ処刑を始めるとしよう」



 バシャッ!


 俺は「水風船(100円)」を次から次へと衛兵に投げつけた。

 案の定、奴らは盾を前に差し出し、水風船はことごとく弾け散った。

 だが、マロンがクロスボウで打ち出した、「試験管3本セット(100円)」に封入された火炎の魔法水が着弾すると、彼らの盾はメラメラと燃え上がった。


「やった!」


 それもそのはず。

 俺が投げつけた水風船に仕込まれていたのは水ではなく、「ライターオイル(100円)」だったからだ。

 火炎の魔法によって引火したオイルは燃え続け、金属の盾の温度を上げていく。


「ぐあっ!」


「熱いっ!」


 金属は熱伝導率が高い。

 衛兵たちは、もはや自慢の盾を構えることができなくなっていた。

 堅牢な防御が崩れたことで、衛兵たちの陣形が乱れる。


「えい、えいっ!」


 距離が縮まったところで、ミリアンの水鉄砲が衛兵たちの頭部に向けて放たれた。

 氷結の魔法水はフェイスシールドに命中するやいなや氷結し、奴らの視界を奪った。


「くそっ!」


「見えないっ!」


 熱と氷の連続攻撃に混乱する衛兵たちは、もはや統制を失っていた。

 剣を振り回してはいるが、目が見えなければ味方を斬るのが関の山だ。


 そんな混戦の中を、モエカだけが真っ直ぐに駆け抜けた。

 衛兵には目もくれず、アルフォンに向かって一直線に走っている。


 俺は、彼女がまだ剣を抜いていないことに気づいた。

 そうだ。

 鞘の中には、火炎の魔法を宿したシャンプーが満たされている。

 抜いた瞬間から勝負が始まる。

 だから、ぎりぎりまで鞘に収めておくつもりなのだ。


「アルフォン!」


 モエカは走りながら剣を鞘から引き抜いた。

 刃にまとわりついたシャンプーが、薄暗い洞窟の中でかすかに赤い光を放つ。

 全身をバネのように使い、敵に向けて全力で振り下ろした。


 ガキッ!


 アルフォンの盾が、モエカの剣を受け止めた。

 両者の動きが止まる。


「ふん……なかなか、よい剣だな。

 だが、私の盾も特別なのでね」


「うあああああっ!」


 モエカが剣を敵の盾に押し当てたまま雄叫びを上げたとき、ありえないことが起きた。

 接触面が溶鉱炉のように赤く発光し、アルフォンの盾が真っ二つに割れたのだ。


「な、なにいっ!?」


 シャンプーに宿された火炎の魔法が、衝撃によって発動したのだ。

 世界中の金属製品を独占的に生産しているメタルギルドの最高品質の盾が、女性剣士の一撃で溶かし割られた。


 動揺するアルフォンに対し、モエカは躊躇することなく追撃を加えた。


「せいっ!」


 キンッ!


 次の瞬間、モエカの剣は敵の鎧の腹部に食い込んでいた。

 刃に残ったシャンプーが再び発動し、鎧の表面が赤熱している。


「そんな……ばかな……」


 アルフォンはその場に崩れ落ちた。


「や……やった」


 モエカは自分でも信じられない様子だった。

 事前の実験もせずに、いちかばちかの勝負だったのだ。

 一撃に全てを賭けるという覚悟がなければ、できない芸当だった。


 ミリアンの氷結攻撃に悩まされ、たまらずヘルメットを外した衛兵たちも、雇用主の敗北を目の当たりにして戦闘意欲を失っていた。


「やったな!」


「ああ!」


「やったあ!」


 俺たちはモエカのもとに集まり、肩を叩き合った。


 俺は黒煙を上げながら横たわっているアルフォンの鎧にペットボトルの水をありったけぶっかけると、フローラム執政官のもとに駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


「……ありがとう」


 手足を固定していた金具を外すと、執政官は微笑んだ。

 だが体はひどく衰弱しており、自力で立つこともできない。


「これをどうぞ」


 ミリアンが差し出した治癒の魔法水を、執政官はゆっくりと飲み干した。

 顔に血の気が戻り、瞳に力が宿っていく。

 俺たちはほっと胸をなでおろした。


「あなたがたは……あの日、政庁舎にいた……」


「はい。

 助けに来ました」


「たった4人で……ここまで?」


 執政官は信じられないという表情で俺たちを見つめた。

 無理もない。

 メタルギルドの本拠地に乗り込んで、首領を倒し、最強の魔法使いを救出した。

 自分たちでも信じられないくらいだ。


「みんな、怪我はないか?」


 俺が問いかけると、モエカ、マロン、ミリアンは頷いた。

 みんな元気そうだ。


 メタルギルド相手にここまで善戦するとは、俺たちかなりイケているのではないか?

 俺は、今までの人生で感じたことのないほどの達成感を味わっていた。

 日本でサラリーマン生活を続けていたら、一生かかっても、こんな気分になることはなかっただろう。

 大天使ザクウェル!

 俺を選んでくれてありがとう!


 俺が悦に入っていると、突然、背後で声がした。


「そこまでだ!」


 振り向くと、アルフォンが衛兵たちに支えられながら立ち上がっていた。

 手で腹を押さえているが、命に別状はなかったようだ。

 しかも、広間の左右の扉からドヤドヤと多数の衛兵たちがなだれ込んできた。


「私にとどめを刺さなかったのは失敗だったな。

 この鎧は特別だと言ったろう?

 くくく……。

 少々、名残惜しいが、

 そろそろ処刑を始めるとしよう」


 アルフォンは痛みに顔を歪めながらも、嘲るような笑みを浮かべていた。



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