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第30話「実験が終わるまで我慢しろよ」



「やきとりの缶詰(100円)」

「するめスティック(100円)」

「ドライソーセージ(100円)」

「うめえ棒やきとり味(100円)」


 俺は道具屋のベッドの上に、100円ショップで買ってきた4種の食材を並べた。


「よし、準備はできた。

 オヤジ、たのむ!」


「おうよ!」


 道具屋の主人は抱きかかえていたオークのミーちゃんを床の上に降ろした。

 ミーちゃんは警戒してキョロキョロとしていたが、やがてベッドの上に飛び乗り、鼻をくんくん言わせながら食材に向かっていく。

 俺たちはベッドを取り囲んで、ミーちゃんの動静を固唾を飲んで見守った。


「まあ……鶏肉だろうな。

 いろいろなエサを試してみたが、ミーちゃんは鶏肉が好みだった」


「あの黄色い棒はなに?」


「とうもろこしの粉を熱して固めたものだ」


「お……美味しそう……」


「実験が終わるまで我慢しろよ」


「うぐぐ……」


 ミーちゃんのヒット&アウェイは一瞬だった。

 ドライソーセージに駆け寄ると、口にくわえ、ベッドから棚の上へと飛び移った。


「え!?」


「そっち!?」


 道具屋の主人は予想が外れて悔しそうな顔をした。

 オークの習性については自分が誰よりも深く理解していると自負していたのだろう。

 ミーちゃんは棚の上で両手を使って獲物を美味しそうに食べ始めた。


「か……かわいい……」


 え?

 マロンの発言だった。

 食事するミーちゃんの姿に見とれながら、目をトロンとさせている。

 彼女の変わった感覚には驚かされたが、次第に俺もこの奇怪な獣に愛着がわいてきている気がした。


「しかし、ソーセージを選ぶとはな。

 意外だった」


「このドライソーセージは豚肉だけでなく鶏肉も含まれているし、調味料も入っているからな。

 特別な効果があるのかもしれない」


「これは、メタルオークを惑わすのに使えるかもしれないね!」


 『メタルオーク』というのは、俺たちがメタルギルドの大型オークにつけた名前だ。

 魔法によって強化されているので、オークとしての習性がどれだけ残っているのかはわからないが、奴らをエサで釣ることができれば、戦局は有利に傾くだろう。


「……ところで、あれ、もらってもいい?」


「あれ?」


 モエカが指さす方向を振り返ると、例の黄色い棒があった。

 見ただけで「うめえ棒」の美味さに気づくとはさすがだ。

 俺の影響を受けて、順調にジャンクフーダーとして成長しているのだろう。


「いっぱいあるから、あとでやるよ」


「え!?」


 俺はモエカにリュックサックの中身を見せてやった。


「うめえ棒」は10本で100円。

 ついでに「コーンポタージュ味」「チョコレート味」「たこ焼味」「めんたい味」「チーズ味」「とんかつソース味」「やさいサラダ味」「サラミ味」「チキンカレー味」も買ってあったのだ。


「す……凄い」


「ただし……1日1本な」


「う……うん。

 ありがとう!」


 モエカは目を潤ませて嬉しそうな顔をした。

「うめえ棒」は子どもの頃から無数に食ってきたので、俺にとっては日常のいちぶに過ぎない存在だが、人生で初めてこれを味わうモエカのことが、ちょっとだけうらやましくなった。


「オヤジ、ありがとな。

 おかげで参考になったよ」


「とんでもねえ。

 オークをあんな怪物に変えちまったメタルギルドの奴らは、俺も許せねえんだ。

 応援してるぜ」


 オークはもともと怪物じゃないのか? と心の中で思ったが、この男にとっては違うのだろう。


 俺たちは道具屋を出て、マジックギルドへと向かった。

 今後の戦いに備えて、魔法水を補充してもらうためだ。

 モエカには剣、マロンにはクロスボウがあるが、俺の武器はフルーツナイフしかない。

 充分な魔法水が無ければ、ただの足手まといになってしまうだろう。


 町のそこかしこでは、メタルオーク軍団によって破壊された建物の修復工事や、片付け作業が行われていた。

 とはいえ、半壊に近い状態にまで破壊されてしまったエスラーダの政庁舎に比べると、町のダメージは軽微だったと言えるだろう。

 アルフォンにとって町は、フローラム執政官に言うことを聞かせるための『人質』に過ぎないからだ。


  ***


「ミノルさん!」


 マジックギルドでは、ミリアンが出迎えてくれた。

 背後には祖父のレバリスの姿も見える。

 俺たちはここでは英雄扱いなので、いまや顔パスで出入りすることができるのだ。


「状況はどう?」


「エスラーダに駐留していた王国軍は壊滅的だったようです。

 市民の被害が少なかったのは幸いでしたが……」


「……そうか。

 被害を抑えられたのはマジックギルドのおかげだな。

 お疲れさま」


「いえ……私はお手伝いしているだけですから」


 レバリスの周囲には、魔法使いたちが疲れた表情で休憩をとっていた。

 負傷者を救うため、治癒の魔法水を量産したのだろう。


「ミリアン、俺たちはアルフォンを追うことにしたよ。

 メタルオークの体重は重い。

 奴らの足跡をたどれば、きっと目的地がわかるはずだ」


「……そうですか」


「そこで頼みがあるんだが、これいっぱいに火炎の魔法水を作ってくれないかな?」


 俺は「ウォーターポット2リットル(100円)」を2つ、ミリアンに渡した。

 合計4リットルあれば、当分は戦えるだろう。


「はい。

 お任せください!」


 ミリアンは嬉しそうにポットを受け取ると、奥の「呪文室」へと消えていった。


 いっぽうモエカは、休憩中のレバリスのそばに近づき、質問を投げかけた。


「マスター。

 お休みのところ恐縮ですが……」


「ん……なんじゃ?」


「メタルギルドの目的は何だと思われますか?

 なぜ彼らは執政官をさらっていったのでしょう?」


「うむ……」


 レバリスは長い顎髭をこすりながら考え込んだ。

 博識の彼でさえ、事態を完全には把握できていないのだろう。


「長きにわたって我々マジックギルドとメタルギルドは互いに干渉することを禁忌としてきた。

 マジックギルドは金属は使わず、メタルギルドは魔法を使わない。

 それは、遥か昔、世界を壊滅させた恐ろしい戦争から、人類が学んだ生き延びるための知恵じゃった。

 だが……メタルギルドはそれを破ったのじゃ。

 わしらの魔法水を使い、オークを強化した。

 今度はエスラーダ最強の魔法使いである執政官を利用し、何かを企んでいる。

 それが何であろうと、

 この世界にとってはこの上もなく危険なことじゃろう……」


 世界戦争!

 平和に見えたこの世界も、かつては戦乱の時代があったということか。

 メタルギルドを阻止できなければ、世界は再びそうなってしまう。


「誰も信じてはくれませんけどね……。

 俺は大天使ザクウェルによって、この世界に召喚されてきたんですよ」


「な……なんと!」


「だから大丈夫です。

 俺がなんとかします。

 だって大天使ザクウェルが俺を選んだのには、きっと理由があるはずですから」


「おお……」


 大天使の名を口にしたことで怒られるんじゃないかと少し不安だったが、意外にもレバリスは俺のことを疑わなかった。

 彼が疑っていないのなら、俺は本当に救世主になれるのかもしれない。


「じゃ、行くとするか?」


 俺が振り返ると、モエカとマロンも力強く頷いた。


「私もね!」


 え?


 呪文室から出てきたミリアンは、完全に旅支度を終えていた。




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