第2話「俺の半日の苦労が100円だと?」
俺は田中ミノル。
小さい頃からモノ作りが大好きで、地元の高専に進んで機械油にまみれた青春時代を過ごし、今は無名の町工場で設計の見習いをしながら暮らしている。
休日はパチンコやビデオゲームで時間をつぶし、テレビを見ながらインスタントラーメンを食って何となく過ごす。
不思議なもので、ひとたび会社の従業員になってしまうと、昔のように何かを作ろうという気分にはなれなかった。
だが、そんな俺の人生を豹変させる事件が起きた。
きっかけは「土鍋」だ。
正月に近所の商店街で買い物をしたところ、スタンプラリーのカードをもらった。
各所でミニゲームをクリアしながら商店街をめぐり、コンプリートすれば賞品として「土鍋」がもらえるというイベントのようだった。
まぁ、ぶっちゃけ暇だったからなのだが、俺は正月の貴重な時間をまるまる半日つぶしてスタンプをそろえ、ついに賞品をゲットした。
商店街の長老から手渡されたその土鍋はズシリと重く、俺の労力そのもののように感じた。
ところが……だ。
心地よい疲労感とともに満足感を覚えたのもつかの間、俺は土鍋のパッケージに「タイゾー」の文字を見つけてしまったのだ。
「え、タイゾーって……あの100円ショップの?」
俺はむさぼるようにパッケージに貼られた商店街のシールをはがした。
するとそこには印刷された「100円」の文字があったのだ。
「俺の、半日の苦労が……100円……だと?」
全身が脱力し、土鍋の重量が、単なる重さに変わるのを感じた。
しかし、こんな立派な食器が100円などということがあるのだろうか?
俺は、事実を確認するため、駅前のタイゾーへと足を運んだ。
***
店内は思ったよりも広い。
コップのような小さなものから、傘やクッションのような大きなものもある。
価格は100円とは限らず、150円や200円といった値付けの商品も多かった。
土鍋もあった。
これほどの商品群の中で陳列されていると、もはやその値付けが事実であることは、認めざるを得なかった。
俺を驚かせたのはそれだけではない。
以前、園芸用品店で700円で買ったスコップが、わずか100円で売られていたのだ。
さらに、いつかは買いたいと憧れていたBluetoothスピーカーがわずか300円!
「ばかな……ありえない」
俺の中で常識だったはずの価値観が音を立てて崩れていくのを感じた。
今まで高い金を払って買っていた商品は、いったい何だったのか。
無駄に使ってしまった金の総額は、いくらになるのだろうか。
そもそも価値とは、いったい何によって決まるのか……。
世界が……俺のパラダイムが……変異していく。
店内の風景がぐるぐると回りはじめ、俺は脱力してその場に崩れ落ちた。
***
そんなわけだから、大天使ザクウェルに召喚され、「グリンフェルトの世界を救ってほしい」と頼まれたとき、俺はたったひとつの条件として「100円ショップでいつでも買い物できるようにしてほしい」と要求したのだ。
ザクウェルは一瞬とまどったような表情を浮かべたが、彼の能力をもってすれば造作もないことであり、また召喚のルールに抵触する要求でもなかった。
せっかくなら、「無料で買い物できるように」と付け加えればよかったと思うこともある。
だがそれでは違うのだ。
金を払って買うからこそ、その価値を噛みしめることができるのだから。




