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第28話「諦めろ。ここばっかりはしかたないよ」



「ミノルさん、モエカさん、マロンさん!」


 ミリアンは元気そうだった。

 ほんの少しのあいだ会わなかっただけなのだが、妙に懐かしい。

 彼女は待合室の椅子から立ち上がると、俺の胸に飛び込んできた。


「お会いしたかったです!」


 ミリアンの大胆な行動には少し驚いた。

 出会ったころは大人しい娘だと思っていたが、あの頃は祖父が行方不明で不安だったろうし、これが本来の彼女なのかもしれない。


「げ、元気そうだな。

 どうしてた?」


「おじいちゃんから、魔法を教わってました。

 いろいろ覚えたんですよ!」


「おお、そりゃすごい」


 待合室には祖父のレバリスも来ていた。


「旅の疲れは癒やせたかな?」


「はい。

 いただいたお金でいい部屋に泊まれましたし、温泉にもつかりました」


「ほっほっほ。

 そうか、それはよかった」


「温泉!

 いいなあ……」


 レバリスはふてくされるミリアンの頭をぽんぽんと叩いた。


「孫は、あなたがたのことばかり話してますよ。

 凄い、凄いとね」


「そ、そうですか。

 あはは」


「それでは、行くとするかの」


 俺たちはレバリスの後に続いてエスラーダ政庁舎の受付へと進んだ。

 マジックギルド襲撃事件の法廷に証人として出廷する前に、フローラム執政官に会うためだ。

 彼女はエスラーダの最高権力者で、高位の魔法使いでもある。


 受付の先には、甲冑に身を固めた大男が待ち構えていた。

 マジックギルドの事件のあとで現場検証に来た、グレイドとかいう態度の大きな兵士だ。


「武器はここで預からせてもらう」


「ええっ?」


 モエカが身構えた。

 常に身につけていないと安心できないのだろう。

 しかしさすがに民間人が帯刀したまま政庁舎に入ることは許されそうにない。


「モエカ、諦めろ。

 ここばっかりはしかたないよ」


「うぐぐ」


 俺に言われてモエカは観念し、腰のベルトを外して鞘ごと剣をグレイドに手渡した。


「ん?

 この剣は……」


「どうかした?」


「娘よ、どこから来た?」


「ウォーリンの村だけど?」


「ふむ……なるほどな」


 グレイドは不愛想な表情でモエカの全身をジロジロと見回した。


「それがどうかしたの?」


「いや、なんでもない」


「……」


 モエカはグレイドの態度がどうにも腑に落ちないようだったが、催促されて先へと進んだ。

 マロンも背中のクロスボウを渡し、俺もリュックサックを預けた。


「こっちに来い」


 グレイドの横柄さには苛つかされるが、ここでは黙ってついていくしかない。

 赤い絨毯が敷かれた長い階段を上っていくと、金色の玉座があった。


「よくぞ、おいでくださいました。

 マスター・レバリス」


 フローラム執政官は小柄な女性で、恐らくは年配なのだろうが、年齢を超越した美しさがある。


「執政官、こちらが、捕らわれていた私どもを救出してくださった方々です」


 レバリスが紹介すると、執政官は微笑みながら俺たちの顔を丁寧に見つめた。


「このたびはマジックギルドの危機を救ってくれてありがとう。

 いろいろあってお礼を申し上げるのが遅れてしまいましたが、本当に感謝しています。

 事件の詳細はまだ謎に包まれていますが、首謀者と思われるメタルギルドの幹部アルフォンを捕らえました。

 いずれすべてが明らかになるでしょう」


 おお。

 これは朗報だ。

 裁判もすんなり決着するかもしれない。


 そのとき……背後で物音がした。


「伝令!」


 振り返ると、部屋に激しい息遣いとともに兵士が駆け込んできた。


「何事か!」


「敵襲です。

 何者かに町が襲撃されています」


「なんだと!」


「執政官をお守りしろ!

 お前とお前、俺について来い!」


「はっ!」


 グレイドは部下を引き連れて外の様子を確認しようと走り出した。


 そのとき――


 ドンッ!


 玉座の間の扉が荒々しく破壊され、甲冑の兵士たちがなだれ込んできた。


 ……兵士?


 人間にしては大きすぎる。

 兜のフェイスプレートが下りていて、顔は確認できない。

 鎧をまとった怪物なのかもしれない。


「きさまら、何者だ!」


 グレイドは大剣を引き抜いて敵に斬りかかった。


 キンッ!


 グレイドの剣が敵の甲冑に弾かれた。

 強固な鎧だ!


 続いてグレイドの部下たちも攻撃をしかけたが、やはり効かない。

 敵集団はじわりじわりと玉座へと近づいていった。


 やつらの狙いは執政官か!?


 なんとかしたかったが、あいにく荷物を預けてしまって武器がない。

 モエカとマロンも同様だ。

 なすすべもなく、身を固めているしかない。


 頼りはグレイドと衛兵だけだ。


「これ以上、先には行かせんぞ!」


 グレイドは敵の脚目掛けて剣を打ちつけた。

 せめて動きを鈍らせようという作戦だろう。

 しかし甲冑の敵は、多少ぐらついたものの、そのまま剣を振り上げ、グレイドの胴体に向けて振り下ろした。


「ぐあっ!」


 グレイドの体は弾き飛ばされた。

 恐らくはエスラーダで最強の剣士と思われる男でも、まるで歯が立たない。

 力の差は歴然だった。


 敵は横たわるグレイドには興味を失い、玉座へと進んだ。

 そのうちの1人が、こっちに向かってくる。

 まずい!

 モエカは走り出すと、倒れた兵士が落とした剣を拾い上げ、敵に斬りつけた。


 キンッ!


 剣が弾かれた。


「くっそう、ダメかあっ!」


 モエカが諦めかけたとき――


 ドンッ!


「ギャッ!」


 敵兵の兜が炎に包まれた。

 何が起きた!?


 振り返ると、ミリアンが100円ショップの「ウォーターショットガン(200円)」を構えていた。


 そうか!

 水鉄砲はオモチャと見なされて没収されなかったのか!


「いっけーっ!」


 彼女は続けて敵兵に魔法水を浴びせた。


 ドンッ!


「ギャアッ!」


 いいぞミリアン!

 魔法水は着弾するとともに爆炎を巻き起こす。


「今だ!」


 モエカが敵の兜のフェイスシールドに剣を突き立てた。


「グアッ!」


 敵の巨体が床に崩れ落ちた。

 さすがはモエカ。

 敵の鎧の唯一の弱点を突いたのだ。


「やった!」


 俺は思わずガッツポーズをした。


 しかし……甘かった。


 これだけ苦労して倒したのはわずか1匹。

 敵の総数は数えられないほどいる。

 とてもじゃないが勝ち目は無さそうだ。


 これまでか……と諦めかけたとき――


 白いスーツを着た男が、数人の兵士を引き連れて部屋に入ってきた。

 敵兵は動きを止め、道を開けた。


 敵のボスの登場か?


 スーツの男は、カツンカツンと靴音を立てながら玉座の前まで一直線に進んだ。

 執政官は男の顔を睨みつけると、怒りに声を震わせながらその名を呼んだ。


「……アルフォン」




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