7話
最後に兄の使っていた漆黒の剣についてだが、こ
の剣は紅、藍、翡翠、白銀の剣のように剣の持つ
真価を発揮できない。否、漆黒の剣には真価が、
特殊な能力が無いのだ。これは確定的なことでは
ないのだが、今までの漆黒の剣を使っていた剣士
から、一度も特殊な能力があるといったことが聞
こえてこないことから一般にそういった能力が漆
黒の剣には無いのだと認識されている。それはも
ちろん、紅、藍、翡翠、白銀の剣士も含まれてい
て、彼らの間で漆黒の剣を使う剣士を最弱剣士と
呼び漆黒の剣を「最弱剣」と呼んでいる。
このような現状であるから当然漆黒の剣士になろ
うと思うものは稀なケースで日々漆黒の剣士の数
は減り続けている。中には漆黒の剣を持っている
のにもかかわらず他の剣に持ち替える輩もいるら
しい。だが、こんなことは僕からしたらどうでも
いい些細な問題だった。
日々の鍛錬と勉学に励み続けて3年。僕は17にな
っていた。いよいよこの場所を巣立つ時が明日に
迫っていた。今、僕はクロバさんと語り合ってい
た。その内容は以前に伝えきれなかったという剣
士の可能性についてだ。
「はじめにお前に言っておくが剣士に限界は存在
しない。剣士として戦い、経験を積むことで成長
が止まることがない。これは、一種の可能性と呼
べることだろうな。」
と言い、続けて言葉を紡ぐ。
「剣士は、強い思いをトリガーとして一時的に身
体能力が上昇することがある。それは決してゴー
ストにも劣ることはなく、ゴーストの持つ身体能
力と同等の、もしくは、それ以上にまでの身体能
力の上昇だ。この剣士に起こる現象を、剣士の境
地と呼ぶ。」
「剣士の境地...」
「剣士の境地は、言ってみれば剣士なら誰でも至
ることができる。まぁ、個人差は生まれるが
な。」
お前も剣士の境地に至れるかもなと言い、続け
る。
「急に話が変わると思うかもしれないが、レイラ
イン王国の区は、5つに分類されている。それぞ
れ紅の剣士、藍の剣士、翡翠の剣士そして、漆
黒、白銀の剣士によって守られている。と同時に
剣士の拠点にもなっている。だが、実際には先に
挙げた3剣士が大部分の領域を担っていて、漆黒と
白銀の剣士の守るべき領域はそれぞれ1区だけ
だ。」
白銀の剣士と漆黒の剣士が守る区がないのは、そ
もそもの剣士の数が少ないからであろう。もちろ
ん、拠点となる区は、今いるレイズ区だけで、白
銀の剣士の拠点となる区は現在、紅の剣士が事実
上所有し守っている。
「そして、紅、藍、翡翠の剣士にはセイバーと呼
ばれるものがいる。セイバーは、自身の振るう剣
色の剣士の中で頂点に至っている者のことで、簡
単に言うと、紅、藍、翡翠の剣士の中のトップに
立つ者だ。彼らは剣士の境地を極めている。そ
う、完全な形でな。さっきに、誰でも至ることが
できるとは言ったが、そもそも強い思いを抱く機
会がなければ、もちろん至ることはできない。至
っても不完全な形なものや、強大すぎる力故に力
に溺れてしまうものもいる。彼らは様々な苦し
み、悲しみを乗り越え、自身に打ち勝ち、今に至
る。」
つまり、完全な形で剣士の境地に至ることがそも
そも困難で仮にできても大きなリスクを伴うも
の。そして剣の腕だけでなく、人間としても優れ
た人たちだということも分かった。
ふーと息を吐いて話を終えたクロバさんは、
「俺から伝えるべきことはこれで全て伝えたはず
だ。今までの日々と合わせてな。何か疑問とかあ
るか?」
と僕に問いかける。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」
特に疑問点はなかったのでお礼を言って明日の出
発の準備を始めた。