13話
「く…そ」
油断した。このゴーストの実力をなめてた。
体中に激痛が走っている。でも、立ち上がらない
と。まだ戦える。
「おい、大丈夫かい?少年。」
ゆらゆらと立ち上がる僕をみて、つまらそうな顔
で、心配の言葉をかけてくる。
「はは、大丈夫じゃないかも。」
剣を再び構え、斬りかかる。
「はああ」
ゴーストは避けようともせずに、腰に下げていた
折れている剣で塞いだ。
「な!?」
僕は、刃渡り10センチ程の剣で僕の剣を簡単に塞
いだことに驚きの声を上げた。
「驚いたかよ。こんなの当然だ。お前の剣は、基
本が整っていてきれいなもんだが、遅すぎる。」
「ぐふ」
ゴーストに膝蹴りされ、蹴飛ばされる。教会内に
備えてあるボロボロの木製の座席と衝突する。座
席がバキバキと音を立てて、板くずへと成り果て
る。
「ああ、つまらん。結局、お前もそこらの剣士と
変わらんか。」
見るからに落胆して僕を見下ろしている。まずい
状況だ。さっきから一度も有効な一撃を与えられ
てない。ただただ、純粋にこのゴーストと戦いを
挑んでも、今のような状況からは、代わり得な
い。なら、考えて思考して、行動を起こすしかな
い。今の僕にできるのはどう戦うのかを考えるこ
とだ。ふと、ボロボロに砕けた木製の座席をみて
あることを思いついた。だが、このゴースト相手
に通用するかどうか分からない。しかしこれなら
いけるかもしれないという思いも抱く。結局、他
にいい案は思いつかず実行することに決める。体
のあちこちが痛む。おそらく、骨も折れているで
あろう。これで決めるしかない。
「ん?立ち上がれるのか。」
相変わらず興味のなさそうにしている。
「ええ。体中が痛いけどまだ戦える。」
「…」
ゴーストは無言。
「いくぞ。」
僕は駆け出した。ゴーストの方向ではなく、右方
向へと。目的の木製の座席の脚を切り裂き、自由
になった座席をゴーストの元へと投げ飛ばす。
「ものを使うか。」
投がった座席をゴーストが斬る。
「まだだ。」
そのまま僕は一列分の座席を切り裂いては投げ飛
ばすことを繰り返す。
「くだらねえ。ものに頼った時点で下らないが、
それを何度も何度も繰り返すとはな。」
この僕の行動には、もちろん意味がある。僕は決
して、剣の戦いを諦めた訳じゃない。遠距離から
の攻撃に切り替えたと思わせるためだ。そう、言
ってみればこれは僕のはった一種の「罠」だ。相
手が、近づいてこないと思い込んでくれれば、自
然と間合いの警戒は薄くなり、隙を生み出す。そ
の隙を作り出すための行動であった。砕けた破片
により、視界が悪くなる一瞬でゴーストの間合い
へと斬り込む。これで最後。ゴーストへ向かって
最後の座席を投げ飛ばす。と同時にゴーストへと
向かって駆け出す。案の定、ゴーストは座席を
粉々に粉砕した。決まった。そのまま間合いに入
り込み、そのままゴーストの心臓へと斬り込む。
ビシュッと斬った感覚があったが、すぐに何を斬
ったのかが分かった。ボトッビチャと生々しい音
を立てて何かが地に落ちた。視線を向けるとそれ
は、ゴーストの左腕であった。
「どうして...」
成功したと思ったのに。決まったと終わったと思
ったのに。殺される。殺られる。だが僕を襲った
のは決められなかったことへの衝撃だけであっ
た。すぐに後方へと下がり、体勢を整える。
「なぜ、反撃しなかった。間違いなく僕に致命傷
を与えられたはずだ。」
僕が抱いた当然の疑問をゴーストへと問う。
「どうでも良くてな。反撃なんてしなくても、俺
の勝利は揺るがないしな。」
絶体の自信があることを自白し、続ける。
「だが、今のは流石に焦った。ユニークを無意識
の内につかっちまったからな。惜しかったな少
年。」
まずいぞ。本格的にまずい。もう、打つ手立てが
ない。同じ手はもう使えない。もうあれだけの隙
を見せることはないだろう。……ダメだ。もう何
も思いつかない。この状況は詰みだ。僕の中にい
よいよ「死」という言葉が、脳裏によぎる。冷や
汗が流れ出る。
「もう、終わりか?」
「え?」
「もう、出し尽くしたかと聞いている。」
静かな口調で僕へと問いかけてくる。
「何もないなら、お前をここで屍に変える。」
「くっ」
限界に達した体で剣を構える。背筋に冷たいもの
が走る。剣先がぶれる。僕の握る手が震えている
からだ。恐怖だ。僕は、初陣で呆気なく殺され
る。何も残すことができずに。何も果たせずに。
「じゃあな。」
どこまでも静かな口調でゴーストが剣を構える。
その瞬間、ゴーストの姿が消え失せた。同時に無
重力の感覚を覚える。しかし、それも一瞬だっ
た。先程とは比べものにならない勢いで壁へと激
突する。見る見るうちに壁面にヒビが入り始め
る。斬られた胸から、血が溢れ出る。意識が遠の
くなか、
「やりすぎたか?崩れ始めやがった。」
というゴーストの発言を耳にした。数秒の後、ゴ
ゴゴガガと崩れ落ちる壁が目前に迫る。
兄さん……ごめん。
そこで、僕の意識は途絶した。