11話
さすがの夏の夜でも6時となると、薄らと空が鮮や
かな紫色へと模様替えをする。おまけにひんやり
とした夜の空気が辺りを満たしだす。
その夜が始まろうとしている中、僕は昼間にオー
レンさんと約束したあの場所へ足を向けていた。
やがて、すでにオーレンさんたちが来ていること
を確認できた。そう、そこにいたのはオーレンさ
ん1人だけではなく、2人のいずれも30ぐらいに見
える女性を含めた3人であった。誰だろう?などと
思いながらその場へと向かい声をかける。
「すみません。遅れました。」
オーレンさんが答える。
「いえいえ。まだ6時前ですから」
と軽い笑みで今の時間帯を教えてくれた。
「そうでしたか。それならよかったです。ところ
で、そのお二人は?」
そう僕が尋ねると女性2人は、申し訳ございません
と謝りながら名を名乗る。
「すみません。私はアナの母親のシーナです。」
「はい。私はエメリの母親のカリアです。」
「は、はぁ」
つまり、どう言うことだ?と思っているとそれを
見かねたオーレンさんが詳しく教えてくれる。
「すみません。クロトさん。このお二方は、私の
娘と同じく攫われた娘さんの母親たちなんです」
なるほど。そう言うことか。納得がいった。そん
な僕の様子を見てほっとしたオーレンさんは続け
る。
「私がクロトさんに頼んだことを聞いたらしく、
あいさつをしておきたいとのことでしたので。こ
こまで。」
別に大丈夫なのになぁと思いつつも、わざわざ来
てくれたのだからそれに答えないとね。
「自分が力になれるかどうか吝かではありません
が、必ず娘さん方は取り返してきます。どうか信
じて待っていてください。」
と言うが、
「クロトさん。あなたもですよ。」
とオーレンさんに続いてシーナさんとカリアさん
も僕に対してそう伝える。困ったなぁ。正直言っ
て、どんな相手なのか不確かなことが多い上に、
実力を伴っているらしいため勝てる見込みが無い
ために、娘さんたちはと言ったのだけれど。ダメ
だったか...でもこう言われたら戻れなくなるなん
てことできないね。
「はい。分かりました。僕もここに返ってきま
す。約束します。」
「ええ。絶対ですよ。」
「戻ってこないなんてやめてくださいね。」
「待ってますからね。クロトさん。」
オーレンさんとシーナさん、カリアさんが笑みと
共に励ましてくれる。心強いな。
「それでは行きましょうか?」
「ええ。行きましょう。」
途中まで道を案内してくれることになっているの
で、危険の及ぶ場所から十分に離れた場所まで同
行するのだ。ちなみにゴーストがいる場所は聞き
込みがそうをなしすでに割れていて、区の外れの
廃れた教会だ。僕たちのいるこの場所からは馬を
使って20分程。教会へと着くまで緊張しないよう
にと気を遣ってくれた3人と世間話に花を咲かせつ
つ、出来るだけ早く教会へ急ぐ。娘さんたちに何
かが起こってしまう前に。
本格的に夜が深まり始めた頃、僕たちは遂に教会
の姿を確認する。その姿は、みるも無残な姿だっ
た。かつての姿を今の廃れた様からは想像するこ
とはできない。壁は所々崩れ落ち、穴が穿たれて
いる。入り口であったであろう石造りの扉は外れ
今にも倒れてしまいそうであった。
ここにいる。娘さんたちが。ゴーストが。
「オーレンさん。この辺で。」
「うん」
と簡単にやりとりをしてこの辺が引き際だと伝え
る。もう一度僕は3人に伝える。
「きっと、戻ります。信じて待っていてくださ
い。」
「ええ」
とシーナさんが代表して答える。
「娘が戻ってきたら、お付き合いを考えてもいい
ですから頑張ってください。親の私が言うのも何
ですがアナはかなりの人気があって整のった顔を
していると思います。」
「な?!」
いきなりそんなことを言ってきたので変な反応を
してしまった。それを見たカリアさんも笑いなが
ら、僕に伝える。
「私のエメリも負けず劣らずだと自負しています
よ。私もお付き合いの件考えてもいいですよ。」
「これこれ、2人ともそんなことを言ってる場合
か?困ってるだろう。でも私のエナも負けてない
ですよ。」
何なのだろう?止めてくれたんじゃなかったんで
すか!反応に困る。というか、区長さんの娘さん
は、エナさんというのか。
「えと、それじゃ行きますね。」
こんなやりとりをしていたためか、すっかり緊張
は解れてしまった。そうか、分かったぞ。僕の緊
張を解くためにわざとあんなことを。そう、です
よね?
ふぅ。深呼吸して自分を整える。今考えるのは、
これからの戦闘の立ち回りとビジョン。
別れを告げた3人はすでに馬に乗って元来た道を戻
っている。十分な距離を取った場所で待っている
らしい。さあ行こうか。辺りが闇に包まれた中、
一人の剣士が歩みを進める。囚われた少女たちの
光となるために。