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キマイラに捧ぐ  作者: 春戸稲郎
八月・終わりの物語
29/31

しあげ

 

 それから二時間後。

「ただいま」

 真奈美さんが家に戻ってきました。

 鍵をかけつつ、玄関の靴脱ぎを見て、真奈美さんは首を傾げました。

 そこへ、慶作くんが居間から顔を出しました。

「お帰りなさい。真奈美先生」

「うん。ねぇ慶作くん。リーはまだ帰ってないの? 愛海ちゃんは帰ったようだけど」

 玄関の靴脱ぎには慶作くんの靴しかありませんでした。

「リーさんはね、そこのコンビニに行ってるよ。今出たところ。なにか、買い忘れがあったみたい。すぐ戻ってくるって」

「ふぅん。何も変わったことはなかった?」

「なんにも。今、テレビ見てたところ。明日から天気が悪くなるみたい」

「そう。……ねぇ、なんか、変な匂いしない?」

 真奈美さんが鼻をひくつかせて顔をしかめると、慶作くんは困ったように頭をかきながら、そうなんだ、といいました。

「たぶん、洗面所だと思う。昨日、お風呂に入ってなかったから、さっきシャワー浴びたんだ。そのときにはもう、こんな感じで」

「いやね。なんなのかしら」

「真奈美先生、ちょっと見てくれる? 僕じゃわかんなかったからさ」

「……わたしにわかるかしら……」

 真奈美さんは靴を脱いで、そのまま洗面所へ向かいました。

 慶作くんは、背中に隠していた、血のこびりついた金属バットを持って、そのあとに続きました。

 ふたり分の足音が止まり、がらりと引き戸が開かれる音。

 ごん、という鈍い音。

 そして、どさりと、何かが倒れる音。

 また鈍い音が、今度は水気も混じって、もう一度。

 再び静かになった家の中で、慶作くんは、服を脱ぎながら居間に戻ってきました。

 居間で裸になった慶作くんは、右手に鋏を持って、風呂場に向かおうとしました。

 そこで、足を止めました。

「……先に、ルスのご飯にしようかな」

 ひとりでそう呟くと、慶作くんは居間に戻りました。

 冷蔵庫からルスの餌を取り出し、階段を上りました。


 その皿に載せられていたのは、白い骨の飛び出した、血の滴る生肉でした。


 居間のテレビでは、台風の接近が警告されていました。


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