しあげ
それから二時間後。
「ただいま」
真奈美さんが家に戻ってきました。
鍵をかけつつ、玄関の靴脱ぎを見て、真奈美さんは首を傾げました。
そこへ、慶作くんが居間から顔を出しました。
「お帰りなさい。真奈美先生」
「うん。ねぇ慶作くん。リーはまだ帰ってないの? 愛海ちゃんは帰ったようだけど」
玄関の靴脱ぎには慶作くんの靴しかありませんでした。
「リーさんはね、そこのコンビニに行ってるよ。今出たところ。なにか、買い忘れがあったみたい。すぐ戻ってくるって」
「ふぅん。何も変わったことはなかった?」
「なんにも。今、テレビ見てたところ。明日から天気が悪くなるみたい」
「そう。……ねぇ、なんか、変な匂いしない?」
真奈美さんが鼻をひくつかせて顔をしかめると、慶作くんは困ったように頭をかきながら、そうなんだ、といいました。
「たぶん、洗面所だと思う。昨日、お風呂に入ってなかったから、さっきシャワー浴びたんだ。そのときにはもう、こんな感じで」
「いやね。なんなのかしら」
「真奈美先生、ちょっと見てくれる? 僕じゃわかんなかったからさ」
「……わたしにわかるかしら……」
真奈美さんは靴を脱いで、そのまま洗面所へ向かいました。
慶作くんは、背中に隠していた、血のこびりついた金属バットを持って、そのあとに続きました。
ふたり分の足音が止まり、がらりと引き戸が開かれる音。
ごん、という鈍い音。
そして、どさりと、何かが倒れる音。
また鈍い音が、今度は水気も混じって、もう一度。
再び静かになった家の中で、慶作くんは、服を脱ぎながら居間に戻ってきました。
居間で裸になった慶作くんは、右手に鋏を持って、風呂場に向かおうとしました。
そこで、足を止めました。
「……先に、ルスのご飯にしようかな」
ひとりでそう呟くと、慶作くんは居間に戻りました。
冷蔵庫からルスの餌を取り出し、階段を上りました。
その皿に載せられていたのは、白い骨の飛び出した、血の滴る生肉でした。
居間のテレビでは、台風の接近が警告されていました。




