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キマイラに捧ぐ  作者: 春戸稲郎
八月・終わりの物語
24/31

混濁

 

 ………………

 ……ルス、こっちへおいで。

 一緒に寝よう。

 ……ルスの手は、冷たくて、柔らかくて、気持ちいいね。

 これ、ヤモリのテ、だよね? ケイサクがルスをデザインした。

 ……そうだよ。

 ヤモリの手も、魚の背びれも、蛇の尻尾も、ヘラジカの角も……僕が与えた。

 きみを、世界で唯一のものにしたくて……

 それは、カナった?

 大成功さ。きみは美しい。

 この世で最も美しい獣だ。

 ルス、ホめられた。

 うん。……でもね、だからこそ失敗もしている。

 きみを、この世の何にも似ていない、ひとりぼっちの生き物にしてしまった。

 今の僕と同じ。

 もう……死ぬまでひとりぼっちだ。

 そんなことない。

 ルスがいる。

 ルス、ケイサクと、ずっとイッショにいる。

 ヤクソクした。

 ああ、そうだね。

 そう。

 僕はきみと、ずっと一緒に……

 ………………


 翌朝。

 一階の和室に布団を敷いて眠っていた真奈美さんは、ばたばたと騒々しい足音に、目を覚ましました。

 居間に出ると……歯ブラシを咥えた慶作くんが、靴下を履いていました。

「あれ? 真奈美先生? どうして朝からうちにいるの?」

 慶作くんのそばにはランドセルがあり、真奈美さんはめまいを起こしそうでした。

 その日の朝は、〈わかっていない〉慶作くんでした。

 慶作くんは、昨晩とは打って変わって、朗らかな笑顔を浮かべていました。

「おはようございます。もしかして昨日は、リーさんと遅くまでお酒でも飲んでたの?」

「……おはよう。……慶作くん、どこに行くの?」

「どこって、学校だよ。遅刻しちゃいそうだから急がないと」

 そういって慶作くんは、洗面所に走りました。

 歯磨きを終えて口をすすいで戻ってきた慶作くんは、ランドセルを背負いました。

「それじゃ、いってきます。……あ、真奈美先生。もしもお父さんが帰ってきたら『そろそろ資源ごみの回収日だよ』って伝えてくれる? 月に一回だからちゃんと処分しないと、書斎がいらない本で溢れちゃう……から……?」

 家を出ようとする慶作くんを、真奈美さんは抱き止めました。

「……ごめんなさい。……ごめんね、慶作くん。……家族になれなくて……」

 嗚咽交じりに謝る真奈美さんに抱きしめられ、慶作くんは、大きく目を開きました。

「……ああ……そうだ……今は、夏休みで……お父さんが、死んじゃって……僕は……僕は、学校に行く必要はなくて……」

 我に返る……我に返ったかのように見える慶作くんは、それでも表情は、未だ現実を受け止められずに呆然としていました。

 ごめんなさいと謝り続ける真奈美さんに抱きしめられながら、慶作くんは、

「……僕は、どこに、いればいいんだろう……」

 誰にも答えられない問いを、口からこぼしました。


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