混濁
………………
……ルス、こっちへおいで。
一緒に寝よう。
……ルスの手は、冷たくて、柔らかくて、気持ちいいね。
これ、ヤモリのテ、だよね? ケイサクがルスをデザインした。
……そうだよ。
ヤモリの手も、魚の背びれも、蛇の尻尾も、ヘラジカの角も……僕が与えた。
きみを、世界で唯一のものにしたくて……
それは、カナった?
大成功さ。きみは美しい。
この世で最も美しい獣だ。
ルス、ホめられた。
うん。……でもね、だからこそ失敗もしている。
きみを、この世の何にも似ていない、ひとりぼっちの生き物にしてしまった。
今の僕と同じ。
もう……死ぬまでひとりぼっちだ。
そんなことない。
ルスがいる。
ルス、ケイサクと、ずっとイッショにいる。
ヤクソクした。
ああ、そうだね。
そう。
僕はきみと、ずっと一緒に……
………………
翌朝。
一階の和室に布団を敷いて眠っていた真奈美さんは、ばたばたと騒々しい足音に、目を覚ましました。
居間に出ると……歯ブラシを咥えた慶作くんが、靴下を履いていました。
「あれ? 真奈美先生? どうして朝からうちにいるの?」
慶作くんのそばにはランドセルがあり、真奈美さんはめまいを起こしそうでした。
その日の朝は、〈わかっていない〉慶作くんでした。
慶作くんは、昨晩とは打って変わって、朗らかな笑顔を浮かべていました。
「おはようございます。もしかして昨日は、リーさんと遅くまでお酒でも飲んでたの?」
「……おはよう。……慶作くん、どこに行くの?」
「どこって、学校だよ。遅刻しちゃいそうだから急がないと」
そういって慶作くんは、洗面所に走りました。
歯磨きを終えて口をすすいで戻ってきた慶作くんは、ランドセルを背負いました。
「それじゃ、いってきます。……あ、真奈美先生。もしもお父さんが帰ってきたら『そろそろ資源ごみの回収日だよ』って伝えてくれる? 月に一回だからちゃんと処分しないと、書斎がいらない本で溢れちゃう……から……?」
家を出ようとする慶作くんを、真奈美さんは抱き止めました。
「……ごめんなさい。……ごめんね、慶作くん。……家族になれなくて……」
嗚咽交じりに謝る真奈美さんに抱きしめられ、慶作くんは、大きく目を開きました。
「……ああ……そうだ……今は、夏休みで……お父さんが、死んじゃって……僕は……僕は、学校に行く必要はなくて……」
我に返る……我に返ったかのように見える慶作くんは、それでも表情は、未だ現実を受け止められずに呆然としていました。
ごめんなさいと謝り続ける真奈美さんに抱きしめられながら、慶作くんは、
「……僕は、どこに、いればいいんだろう……」
誰にも答えられない問いを、口からこぼしました。




