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キマイラに捧ぐ  作者: 春戸稲郎
四月の物語
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西江賀慶作

 慶作くんは、気弱というよりも、気を遣う子でした。まだ小学五年生なら、もっと遠慮なく振る舞ってもいいのに、友達にも家族にも気を遣ってしまう優しい子でした。

「よかったね、クラス替え。また同じ教室だよ」

 その日、下校を共にしてくれるクラスメートの女の子にそんなことをいわれたら、嬉しさよりも申し訳なさが勝ってしまう子でした。

渚辺(なぎさべ)さんは、迷惑してない?」

「なにが?」

「僕はあんまり友達がいないから平気だけど、僕と一緒に帰って、また誰かにからかわれたり噂されたりしたら……」

 慶作くんの心配はあながち的外れではありません。彼は同級生と比べて小柄で線が細く、中性的で可愛らしい顔立ちをしていました。それが男の子にはからかう材料となり、女の子には、彼と仲の良い渚辺(なぎさべ)愛海(あみ)ちゃんへのやっかみの原因となっていました。

 愛海ちゃんは、むっとした表情で、隣を歩くランドセルの少年のほっぺをつねります。

「気にしなくていいの。いいたい人にはいわせとけばいいの」

「でも……いたい」

 ほっぺをつねる愛海ちゃんの手に力がこもります。

「慶作のお父さんに頼まれてるから友達続けてるわけでもない。わたしが慶作と友達でいたいの。わかった?」

 愛海ちゃんが手を離すと、慶作くんはつねられたほっぺを撫でました。そのとき彼が安堵していたのは、痛みから解放されたからという理由だけではなかったでしょう。

「それともさ……わたしと一緒にいるの、嫌なの?」

「そんなことないよ。愛海ちゃんは優しくて可愛いし、話してて楽しいし、いつも一緒にいてくれて困ったときは助けてくれる。あと、強くて弱音吐かないし、いい匂いするし」

「わ、わかった。わかったから」

 愛海ちゃんは顔を赤くして制止しました。慶作くんのほうも、昔のように「愛海ちゃん」と呼んだことに今さら気付いて、顔を赤くしました。

 お互い黙りこくったままの通学路で、口を開いたのは慶作くんでした。

「渚辺さんがいなかったら、学校がもっとつまらなかったと思う。いつもありがとう」

「……お礼をいわれることでもないけどね。……慶作のお父さん、最近忙しいの?」

「相変わらずね。打ち合わせとかで東京に行くのが増えてる気がする」

「またアニメになるのかな」

「どうだろ。お父さんの漫画、人気らしいけど。……あれ?」

 自宅の前までついてきた愛海ちゃんを、慶作くんは振り返りました。

「渚辺さん、塾は?」

「今日は休みなの。夕方まで遊ぼうよ」

 半ば強引に慶作くんの背中を押す形で、ふたりは玄関の扉をくぐりました。


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