38. ヤシャマル
ここは京の町、燃える家と逃げ惑う人々を眺める鬼がいた。
「酒呑童子さま、よろしいでしょうか」
「どうした。星熊童子よ」
「はい、蘇ったら七鬼王の一人。壱千手が殺られました」
「ほう、壱千手が、か。誰に殺られたかわかったか?」
「はい、夜叉丸の宿主です」
「そうか、そうか。夜叉丸だったか。よし、全国の鬼に伝えろ。夜叉丸を殺さずに連れてこい。さすれば配下に加えてやると」
「畏まりました、酒呑童子さま」
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「だから朱音、ごめんって」
「ごめんね、朱音ちゃん」
「悪いって思ってるから」
自分と鈴とながつきで謝るが、朱音はそっぽを向いたまま、許してくれる気配がない。
「よし、鈴、ながつき。作戦がある」
「聞かせてもらおうじゃない」
「俺も聞く」
「うん。鈴とながつきはこのまま朱音の護衛を頼みたい。その内に自分が鬼を捕まえてくるっていう作戦だ」
「はい、質問」
「なんだい、鈴くん」
「そのしゃべり方どうしたの? じゃなくて忌助くん一人で大丈夫なの?」
「ごめん、このしゃべり方は教師っぽく。一人でも多分大丈夫。いざとなったら逃げるから」
これで、朱音が喜びそうな鬼を捕らえるしか、許してもらう方法が思いつかない。
流石に七鬼王が更に出るなんて事はないだろうから大丈夫だろう。
※
身体強化を使い、出会った鬼を片っ端から自分の拳の錆にしていく。
夜叉丸、この辺で強い鬼の気配ってありそう?
『忌助が探してるのは朱音に合う鬼だよね。残念だけど、さっきの壱千手くらいしか』
そっか....。
やっぱり殺すのは失敗だったのか。
『でも殺さなければ殺られてた』
そうだけどさ、失敗は失敗だから。
『あっ、でもこの先に他の七鬼王がいるかも』
七鬼王がまだいるのか。
ってどういう基準でいるんだ?
『日本を七つにわけて各々を統治させてるんじゃない?』
なんで疑問系?
『いや、僕が死んだ後の話だから』
そうだ。
前から思ってたんだけど、夜叉丸過去の話を聞きたいな。
『聞きたい、か。まぁ忌助になら教えてもいいかな? 今から話すのは記憶が戻ってからと、今までの僕の知らなかった記憶が混ざってるから』
※
僕が産まれたのは約二千年前。
鬼は鬼だけの町を作って平和に暮らしてたんだ。
そして、その鬼の町の王をしてたのが僕の母でもある赤い鬼神の神楽。
その時からかな、僕の二つ名は『赤い鬼の子』だったんだ。
それから百年、特に何も事件なんて起こらなかった。
僕と母が遠出をしている時に事件は起きてしまった。
側近であるはずの茨木童子と王になれなかった鬼、酒呑童子が手を組み反乱を起こしたんだ。
逆らう奴らは全員殺し、気にくわなければ殺し、喋っただけでも殺したんだ。
ヤツは、酒呑童子は殺して殺して殺しまくって力を手に入れた。
そのせいで百年くらい、町に戻るにも戻れなかった。
そんな僕たちだったけど、酒呑童子の暴れた町がいやになった鬼たちが母の所に集まりだしたんだ。
母は集まった鬼たちと一緒に新しい町を作ったんだ。
その町と、酒呑童子の町との戦力は五分五分。
酒呑童子は攻めるに攻められなかったんだと思う。
僕たちも取り返そうにも取り返せなかったから。
そっから八百年、お互い不干渉で過ごしていたんだけど、こっちが人と、人間と仲良くしだしたんだ。
それに気がついた酒呑童子たちはある事件を起こした。
その事件の名を『厄災』、そう呼ばれている。
忌助も知っている最初の鬼人の事件だ。
その『厄災』を倒した十人に協力したのが、母の神楽だったんだ。
協力して倒したはいいものの、母の力は大きく減衰していった。
それを狙っていた酒呑童子はすぐさま攻撃を仕掛けてきた。
そう、始まってしまった鬼と鬼との戦争。
戦場は焼け野原となり、鬼は数を物凄い減らしていった。
そして神楽と酒呑童子は一騎討ちになったんだ。
結果から言うと引き分けで二人は満身創痍。
そこで運命は大きく変わった。
僕が、僕が母を助けようと戦場のど真ん中に来てしまったんだ。
酒呑童子は最後の力を振り絞り、僕に一撃、確実に殺す攻撃をして死んでしまった。
もちろん僕も死ぬ寸前、そして母が最後の力と霊を使い転生霊術を使ったんだ。
ここで誤算があったとしたら、酒呑童子もこの転生霊術の対象になってしまった事だろう。
僕は千年後に、酒呑童子は不完全だった事から五年後に忌み子として、人の中に転生したんだ。
だからかな、忌み子が嫌われてしまうのは。
※
自分は今の話をどう受け止めたらいいんだ。
そもそも茨木童子はいいやつなのか?
元々は味方、いや、最初から敵の可能性もある。
ダメだ、わからない事だらけだ。
『また気が向いたら酒呑童子の事を詳しく話すよ』
茨木童子っていいやつなんじゃないのか?
『なんでそう思う?』
いや、だって自分の事を殺す機会は何回もあったはずだよ。
だけど、一度たりとも殺されてないから。
『元々茨木童子は何を考えているのかわからないヤツだったからな~。だから警戒しとく事に越したことはないよ』
そっか。
味方だったら楽....いや、アイツは敵だ。
何があっても敵から変わることはない。
もし次に会ったら師匠の仇、絶対に取ってやる。
「おっ、夜叉丸かな」
「誰だお前は」
自分で意気込んでるから気がつけなかった。
「私は猿琥。それではもう一度、あなたは夜叉丸かな?」
「....違う」
「そうか、そうか。夜叉丸ではないか。....嘘はいけないねぇ」
猿琥と名乗ったらおには、猿のような顔つきと、虎のような黄色い光沢のある肌を持った奇妙な鬼だ。
猿琥の影が形を変えながら延びて来たので一旦距離をとる。
もしや、
『七鬼王の一人』
やっぱりか。
鬼能はわかるか?
『うん、壱千手から手に入れた。猿琥の鬼能は[影遊び]の一つだけだよ』
概要を、
『影を操り影で攻撃、防御をするって事くらいしか知らない』
ありがと、夜叉丸。
「知ってるならいいよね。こい、夜叉丸。双子座 極星の軌跡」
「やっぱり夜叉丸だったか。大人しく捕まってくれない?」
「なぜ捕まらなくてはいけない。そっちこそ捕まってくれよ」
「君も私を狙っているのねぇ。なら交渉決裂。力ずくで奪ってやる 影奈落」
猿琥から影延びて草木を影の中に落としていく。
「星の力双子座 削螺華」
無数の刀の華で影を壊していく。
案の定、星の力は強く、簡単に壊すことが出来た。
「これで終わらせる。星の力双子座 削螺吹雪」
無数の刃が花弁のように、桜吹雪のように猿琥に吹き付け、猿琥の体を削いでいく。
猿琥は声にならない悲鳴をあげながら命を落とし消滅した。
「....しまった‼ 朱音の鬼を忘れて倒しちゃった」
どうしよう、でもいっか。
今の鬼は朱音には合わないだろうし、バレなきゃ問題ない。
でもそうなると、どこを探すべきだろうか。
運良く他の鬼、朱音に合う鬼が出てくる訳はないのだから。
と、なるとやっぱり探さなくちゃいけないか。
夜叉丸、なんか朱音に合う鬼って知らない?
『知らないよ。新しい鬼なら、朱音に合う鬼能があるかもだけど、探すのは骨が折れるよ』
そっか、そうだよね。
それじゃあ、今の鬼の鬼能は[複製]できた?
『残念だけどそれも出来てない』
こっちもダメか。
ならなんか鬼能を与える鬼能ってないの?
『鬼能を譲渡するって事か? 鬼の王なら出来なくないけど。その場合、京にある王の玉座に行かないとなんだよな。そして王としての資格がないと』
なら夜叉丸は資格ならあるんでしょ?
『そう、資格だけね。だから酒呑童子は僕の事を狙っているんでしょ』
「おっ? こんな所にいたのか」
数十体の、否、数百体の鬼と、一体別格の鬼が現れた。
酒呑童子の配下の3人目が出ました。
熊童子、虎熊童子、星熊童子です。そしてもう1人を合わせて四天王‼




