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聖女様、予知を何とかする


「あっ」


マニットの放った触手は真空の宇宙まで届いている。無音のままにへし折られて爆発に包まれる宇宙船。

そこから黄色の線が飛び出し、ジグザグの軌跡を描いて緑の星まで戻る。


「ん、なんか脱出したみたいね」


とりあえずリブラもそれを追って、緑の星の大気圏内に。

そこは空も緑なら陸地も緑。起伏の乏しいのっぺりとした地形の星だった。大地には外縁部が金属で覆われた穴が空いており、穴の周囲に二足歩行するトカゲのような生き物がいる。

トカゲは長い尻尾を地面に引きずりやや前傾。白や紫で装飾された服を着ており、よく見れば尻尾の先にキャスターがついている。


銀髪の聖女、ジュデッカがトカゲたちに囲まれていた。全身からぶすぶす白煙を上げて寝そべっている。


「……ジュデッカ、ねえ生きてる?」

「ぷはっ」


と、上半身を起こしてはっとリブラを見て。

突然、ごろんと横になって肘枕の構え。


「あ、聖女リブラ。こんな良い天気の日にどうしたの。お昼寝してたのよがふっ」

「そんな血を吐きながら言われても」


「カミサマ、カミサマ」


と、トカゲ人間たちがリブラを指差す。


「神様じゃないわよ、あんたたちと同じ知的生物ってやつ」

「チイサイカミサマ」

「リャクシテ チマ チマ」

「焼いて食おうかな」

「食うんじゃないわよ!」


ようやくジュデッカも立ち上がる。まだ膝が震えていたが、周りのトカゲたちが軟膏とか包帯で手当てを始める。そんなことをせずとも聖女なら多少の傷は自力で治せるのだが、どうやらジュデッカは慕われてるらしい。


「ジュデッカ、この星で何やってたの?」

「はっ! いつかマニットを倒すための前線基地にしてたのよ! あらゆる宇宙から技術を持ち込んでね!」


リブラはそれを聞いて首をひねる。


「それっていつから? あなたとマニット様が戦い始めてからそんなに時間経ってないでしょ?」

「違う宇宙に行けば時間なんていくらでもかけられんのよ。それにトカゲたちは優秀なのよ。100日もかからずに宇宙船建造までマスターしたわ」

「でもあっさり潰されて」

「……それは、あの、アレよ、最初はグーみたいなことよ」

「ごまかすのヘタ……」


トカゲたちはと言うと、二人を遠巻きに取り囲んで何か話し合っていたり、板状の機械を指先でいじくったり、何かの模型を作ったりしている。手先は素晴らしく器用なようで、銀無垢の宇宙船の模型が折り紙のように産み出される。


「カミサマ マタ フネツクル?」

「あの大きさでも一撃なら無駄でしょうね……大質量砲や相転移兵器だと星が壊滅するし、そこまでやっても倒せるかどうか」


ジュデッカの体表面を静電気のようなものが走り、儀礼服が真新しくなっていく。髪の乱れまで整うかのようだ。リブラはふうと息をつき、トカゲたちを見渡して言う。


「ジュデッカでもお手上げってことね……」

「そうでもないわ」


かつ、とヒールを鳴らして胸をそらす。法力で傷を癒したとはいえ、その自身ありげな態度に少し驚く。


「とっておきの手があるのよ。リブラ、あんたも見るといいわ」


それからしばし。


ジュデッカとリブラは巨大な縦穴を降下していた。二人は法力で浮いているが、トカゲたちは壁面を這っている。この星ではおもに地底が利用されているらしい。


たどり着くのは縦穴からさらに横穴に入った先。気密ドアの先にあった。

そこは何かの研究室の眺め。白衣を着たトカゲたちが何かを話し合っている。リブラにはよく分からない機械と、計測器に実験器具の数々があった。


「ほへー、けっこう進んでるのね」

「こんなのは序の口よ。この奥にあるのは魔法と科学の融合。数百の時空の壁を超えて、宇宙の果てから見つけてきた技術よ」


さらに奥へ。そこは筒型の空間になっており、天井まで光が届いていない。トカゲの科学者たちが集まっており、中央には大きめの鏡のようなものが見える。鏡にはケーブルが大量に接続され、無数の観測機械やロボットアームが取り囲んでいる。


「あ、北バルチッカの女官さんから聞いたわよ、前世を見る鏡ってやつでしょ」

「似たようなものだけど、まったく格が違うわ。ところでリブラ、法力を使えば未来予知ができるのは知ってるでしょう?」

「うん」

「でも、予知でマニットは倒せない。なぜなら予知は確定した未来じゃないから。明日、道で転ぶと予知したなら転ばないように気をつける。そして転ばない、というように未来が変化する」

「そりゃそうよね」

「魔王アスタルデウスはそれを超えようとしていた。そして私が研究を受け継いで、異なる宇宙でトカゲたちが完成させたのよ。あらゆる科学と魔術を結集させて鏡の形にする。「予知の鏡」を遥かに超える究極の因果律観測装置、その名を」


ジュデッカはケーブルの束を踏み越え、その鏡を裏拳で叩きつつ宣言する。


「オチの鏡!」


…………


……


「ちょっと待ってジュデッカ」

「あらゆる因果率的矛盾を踏み越えて事象の結末を、因果の落ちつく先を導く。だからオチの鏡。人はついにパラドックスの壁を超えたのよ。この機械を完成させるには聖女の力も利用してるのよ、時の聖女ラプラスとか」

「待ってジュデッカ待って待って」

「何よ」


リブラは顔をやや蒼白にして。誰かが見ていないかと警戒するような仕草をしつつ、慎重に言葉を選びながら言う。


「……そ、それ……何が、映るの……?」

「事象の結末が見えるのよ。これを使えば事態がどのように解決されるか分かるってことね。それに合わせて対策を用意するの。トカゲたち、準備よろしく」


周囲のトカゲたちはうなずき、しっぽのキャスターをからころ鳴らして移動。超高圧の変圧器を稼働させると周囲のケーブルから白煙が上がる。かなりの電力を注ぎ込んでるようだ。


「いや、あの、そういうこと……あ、アリ、なの?」

「科学のタブーに触れるって言いたいんでしょ。わかるわ。でもこれこそ研究者冥利に尽きるってもんよ。さーてどんな予知が……あ、なんか出てきた」






聖女様、最後を何とかする



「聖女さまー! どこ居るんですかー!」


女官がぱたぱたと廊下を走る。その腕は果物の入った籠を抱えていた。


「まったくもう、また公務をさぼってますね」






「あああああああだめええええええ!!」


ずばん、と振り下ろす手刀の先でケーブルがぶった切られて、鏡がプツンと沈黙。


「ちょっと!? 何すんのよ!?」

「絶対だめえええええうまく説明できないけどだめえええええ!!」


リブラはそのへんの大きめの機械をひっつかみ、真上に振りかぶって鏡を一撃しようと。

したところで他のトカゲに羽交い締めにされる。

しかし聖女の力を制止できるはずもなく、身悶えする動きでぽんぽん放り投げられるトカゲたち。


「ちょっとリブラ! 研究室が壊れる!」

「こんなもの全部壊してやるううううう!!」


と、その両手両足に白いケーブルが巻き付く。縄目のような自在間接で構成されたケーブルであり、法力を込めても引きちぎれない。


「あうっ!?」

「危なかった。念のために用意しといた対聖女用の拘束索こうそくさくよ。法力の導率が人体より高いから、法力を込めようとしても流れ出ていくわよ」

「だ、だめジュデッカ! 未来を見るとか絶対ヤバいから! なんか取り返しがつかない予感するから!!」

「ふん。アスタルデウス様との念話を通じて知ってるわよ。あんたも過去を見に行ったり、過去の聖女に会ったりしてたでしょ」

「それはそーだけど! でも未来はヤバいの! お願いだからやめてえええええ!」

「構わないから再生しちゃって」

「ハイデス」


トカゲたちはやはり器用なのか、切断されたケーブルを繋ぎ直し、壊れた機械を予備と取り替え、再調整してまた通電させる。





女官がふと気配に気づく。裏庭の方だ。


「マ『×××××! ×××!』様?」


裏庭へのドアを開ければ、そこにはいつもの儀礼服に錫『×××! ×××××!』ットが樹によじ登ってリンゴを食べていた。


「違いま『×××××××!!』あれはセミ様でした」

「いえ『×××××!』すが」





「ちょっと止めて」


ジュデッカの指示で、トカゲたちが再生を止める。


「リブラ、なんで卑猥な言葉叫んでんの?」

「はあはあ、こうすれば何とかなるような気がして……」

「しかもなんかお子様な言葉ばっかり……」

「うるさーい!!」


そして、拘束されたままトカゲたちに指を突きつける。


「あんたたち!」

「ハ、ハイ」

「これ以上再生したら、××を頭から×××して×××を××に挿し込んでぐちゃぐちゃにして××を××××××」


ざざざざ、とトカゲたちが十歩後退。


「ちょっと!?」

「絶対に再生なんかさせないからね! どんな手を使ってでも止めるー!」

「もー、しょうがないわね、そこのトカゲ、リブラに猿ぐつわでも噛ませて……」


ばつん、と研究室の電気が落ちる。


「何!?」


その数秒後、グリーンの非常灯らしきものが点灯。トカゲたちは手元の端末で原因を探る。

やがて一人のトカゲがジュデッカに駆け寄ってきた。


「マジで?」


ジュデッカは一度茫然と真上を振り仰ぎ。

そしてやれやれと頭を振る。


「太陽近傍軌道に飛ばしてた発電衛星が落ちたわ。マニットの重力異常が原因ね。残念だけどこの鏡はもう使えない。これはとんでもなく電力を食うからね」


リブラを拘束してたロープも電力を失ったためか、ぱたりと地面に落ちる。リブラは両手両足をついて安堵の声を漏らした。


「よ、よかった……なんか世界が救われた気がする……」

「……あの、聞いてた? むしろ世界がピンチなんだけど」


研究室は少しずつ電気が戻ってきている。何らかの緊急発電装置でも動いているのだろうか。

研究室のメインモニターが点灯し、星にできたコブのような、雪だるまの頭のような大きさになってるマニットが映る。


「そろそろ星の自転と公転に影響が出てくるわね。何とかしないと……」


ジュデッカは銀髪をかきむしり、そしてリブラに指を突きつけて言う。


「こうなったら最後の手段よ」

「ていっ! やあっ!」

「鏡を殴ってないで聞きなさい!」


ジュデッカは周囲のトカゲたちに檄をとばして、そして室内にけたたましいサイレンの音が響く。


「何の音?」

「トカゲたちを避難させてるのよ。まもなく、この星系を巻き込む最終攻撃を行うわ」

「最終攻撃……」

「そうよ、アスタルデウスの残した、究極の魔術」


床の一部がモーター音とともに開き、そこからせり上がってくるのは、透明な球体。


「これって、世界牢……」

「そう、ビッグバンが10の55乗ジュールほどしかない小規模な宇宙。でもそれでも宇宙には違いない。もしこのエネルギーを、外向きに解放したらどうなると思う?」

「! まさか……!」

「アスタルデウスですら危険すぎてやれなかった。世界牢を究極の兵器と変える戦術タクティクス、その名も」


ジュデッカはここにいるトカゲたちに、あるいは聖女と魔王の戦いにまつわる全員に宣言するかのように、高らかに叫んだ。





「ワールドをドーン作戦よ」

「あ、だめだ失敗する……」



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