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俺と親友と幼馴染とバレンタイン

作者: さと野

突然だが俺の親友はモテる。

そりゃもうモテモテで親友を名乗る俺でもなんでモテるのか分からないほど……いや、やっぱり分かる。イケメンだからだろう。

イケメンで、スポーツ万能で、俺みたいなインドア系とも、よくわからねぇ言葉を話すアウトドア系の連中とも仲良く出来る万能の塊みたいなやつだ。

物語の主人公にするならコイツなんだろうなぁと思いながら今一緒に登校している。俺。

ちなみに親友になった経路はゲーム繋がりだ。携帯ゲーム機を握りしめて、やり込みゲーをしこたまやり込んでるのを偶然知った時からもうピンときた。

俺が女なら惚れてる。むしろコイツが女でも惚れてる。そんなレベルでお互いがお互いを認めあって今の関係になった。ゲームの力は偉大なり。


話は変わるが数少ない俺の知り合いの中に、もう一人結構深い関わりを持つ人がいる。

それは家が隣の幼馴染、なんとも驚きの俺の知り合いでながら女だ。

一時期はコイツとなんだかんだでなぁなぁで付き合ったりするのかなーなんて妄想したりしたことがあるが、そんなことにはならなかった。むしろ親友のことが好きらしいと聞いて、ああやっぱりかって落胆したくらいだ。

とはいえ好意を伝えたことすらない片想いの男に勝手に落胆されてちゃ幼馴染もたまったものではないだろう。

あくまで俺の脳内の一部で起こった出来事として処理してほしい。


さて、話は戻るが今は親友と登校中。

最寄りの駅から歩いて二十分ほど掛かるので、電車を乗り過ごしたら大変なことになる道のりだ。

駅で待ち合わせて、親友が触れ合う機会が多いアウトドア系のやつらとは出来ない話を俺とする。

こいつは楽しめて、俺も趣味が話せる。周りの評価は可哀想なぼっちにも優しく接するイケメン親友の図の完成だ。


そういえば、と親友が思い出したように切り出した内容はバレンタインの話。

いつも義理から本命からホ……トモまで貰ってるコイツはとても嫌そうな顔をしていた。

話を聞くと一言で、チョコに飽きるし疲れる。らしい。

なんという羨ましい話なんだと憤慨するところだろうが、何やら話を聞いていくとそうでもなさそうだった。

まずは義理チョコ。これは軽く受け取れるらしいのだが、ホワイトデーのお返しを期待する声も大きく、いらねぇと思いながらも受け取るしかなく、お返しも用意しなければならない邪魔な奴ら。(親友談)

そして本命チョコ。ついぞ見ないラブレター付きから、ザ・手作りって感じのチョコにラブの文字が刻まれた想いが重い一品を仕上げる女子高生シェフの腕前は、基本的に普通らしい。

ただ告白は本物だから、しっかり応えないといけないので、告白してくれた人にきちんと断りの言葉を告げに行き、せめてチョコの感想でも、なんて質問をしてくる女子高生シェフに普通だったとは答えられない親友は語彙の限りを尽くして穏便に話を済ませるのは至難の業らしい。

しかも義理から本命まで色んなチョコを貰う親友としても、もはや誰のチョコがどんな味だったのかなんて覚えられないという。

と、これから起こるであろう事柄に顔色を悪くさせながら親友は語る。

ついでにホ……トモチョコを聞こうとしたら、それはやめろ。の一言で制された。


男女がソワソワと浮足立ち、もうすぐ迫りくるバレンタインという日を心待ちにしている連中は多い。

学校に到着し、教室でのんびりしていると珍しく訪ねてきた幼馴染が放課後話があると用事を押し付けてきた。

特に予定もなかったので問題はないんだが、バレンタイン、親友、幼馴染、そして俺。

ここから導き出される用事とやらの内容は身体も頭脳も子供でも分かりそうだ。

誰にも言ったことがないからこうなることは予想できたが、実際になってみるとバレンタイン数日前から憂鬱になりそうだ。


俺としても親友はいいやつだと思う。

だから幼馴染としてもコイツらがくっつけばよくわからない親心のような何かは安心するが、俺の恋心はなんとも言えない苦しみを味わうだろう。

それが分かっていながら帰宅のときも普通に親友と話して帰り、一度荷物を家に置いてから幼馴染の家に行く。

チャイムを鳴らすと数日に一度は挨拶する程度に見る幼馴染の母親が迎え入れてくれた。どうやら幼馴染はまだ帰ってきてないらしい。

人を招いておきながら遅いとはどういうことだと幼馴染の母親と会話をしていると、膨れあがったビニール袋を抱えた幼馴染が帰ってきた。

あ、もう居たんだ。なんて軽く驚いたような目を一瞬だけみせ、すぐさま俺は台所に呼ばれた。

ひっくり返されたビニール袋には買い過ぎなのではないかと感じるほどのチョコの山が出来ていて、幼馴染は手際よく鍋やヘラ、型取りの為の容器を用意している。

俺、いらないんじゃないか。そう思ったのもつかの間、すぐさま質問が飛んできた。

親友の好きな味を教えろ、と。

いや知らんがな。ぐっとそのセリフを抑えて、男同士でチョコの好き嫌いなんて知らないぞと答えると、違うと言われ返す。

私が知りたいのはどんな甘さや苦さのチョコなのか具体的に!

なんて言われたときには、いや知らんがな。と言葉に出てしまい、役立たずと罵られた。

流石にイラッと来たが、そういえばと少し前にコンビニで買い食いした時に親友が選んでいたチョコの商品名を思い出した。

今の俺としては好きな子が別の男の為にチョコを作っているという苦行の最中にいるが、心広い親心と役立たず等と言われたからにはその言葉は返上したく、思い出したことを告げる。

幼馴染はにっこり笑ってよくやった、と俺を褒める。それだけでなんだか幸せな気分になる。

一応、買っていただけでその味が好きなのかは知らないぞと忠告は入れておいたが、アンタは嘘つかないでしょ、と謎の信頼を寄せられてしまい、思わずしりごむ。

……そういうところが、俺みたいなチョロい男が惚れるんだぞと注意してやりたいが、言えば俺が惚れているのがバレそうなのでやめておく。

これは嘘じゃない。隠し事でもなく、言わないだけの、秘密を抱える後悔の味が胸に染み渡った。


用意の手際の良さからなんとなくは計り知れたが、実際にチョコを作るのも手際よく進み、俺が差し出されたお茶を飲みながらぼーっとしているうちに試作品が完成したらしい。

語彙力の低い俺には形容しきれない洒落た線がいっぱいぐねぐねと巻き付いたハートマークのチョコを差し出され、味見を頼まれた。

このクオリティは完成品じゃないのかと問うと、見かけはある程度決まったけど問題は味なの。と真剣な眼差しを受ける。

俺は試作品らしいそのチョコを手に取り、端から噛み付く。

驚いた。外は固形でカリッとしたチョコなのに、中はとろりとした液体に近いチョコで、外と中で少し味が違う。

甘い外側と少しビターな大人の味な中身。軽く垂れてしまいそうになり、慌てて二口目、三口目と噛み付いていく。

手のひらより小さいくらいのサイズだったが、甘すぎず、とはいえ苦いわけでもなく、この大きさを飽きずに食べ切れるこの完成度。

お前、パティシエとかになったほうがいいんじゃないか。その言葉が最初に出てきたが、私の夢はお嫁さんだから、なんて言われた。

思わず告白しそうになる。いや、早まるな俺。幼馴染は親友が好きと最近聞いたばかりではないか、チャンスはない。

それで、どうだったの? なんて幼馴染が聞いてくるものだから俺はつい熱く語ってしまった。

これは美味い。誰が食っても美味いだろう。凄い完成度だ、と褒めたのだが幼馴染は喜ばなかった。

どうしたのかと聞いてみると、誰からも褒められるチョコより親友に喜ばれるチョコが作りたいのだ、と。

美味いと興奮していた心がさーっと覚める。湧き上がっていた頬の血流が自然な流れに速さを戻す。

俺は冷静になって、今まで親友と何か食べたりしたときのことを思い出す。そんな話をしたときのことを思い出す。

なにかヒントになることがなかったか、そして今日聞いたこと、それを伝えていなかったと思い出した。

あまりよくない話だが……と前置きを入れて、幼馴染に話を聞くか問う。

幼馴染は真剣な眼差しで応とうなずく。

それから俺は今朝の話を伝えたのだった。


ついぞ迎えたバレンタインデー。

あの日から幼馴染とは特に話すこともなく、親友ともゲームの話で盛り上がるだけの普通の日常を過ごしていた。

駅で親友と待ち合わせていたが、俺が親友を発見するころには既にアイツは疲れていた。

電車の中で渡されてずっと近くに居られて困ったと愚痴を零される。

その愚痴はうるせぇ羨ましいんじゃと俺の軽い蹴りで払いのける。

あっ、ひっでぇ、お前には幼馴染の子がいるだろーなんて親友が言うもんだから、はぁ!? と本気で一瞬怒りが湧き上がった。

いや、親友もまだ幼馴染が自分を好きなことを知らないんだ。仕方がないセリフだと、俺はすまんと謝った。

別にいいけどよ……と親友は言ってくれたが少しだけギクシャクしながら登校するハメになった。


学校でもたまに親友は俺に話しかけにくるんだが、今日はそんな余裕もないほどに忙しそうだった。

改めて思う。もしこれが物語なら、その主人公はきっとアイツだろうと。

少なくとも片想いの相手の応援をしてバレンタインデー当日に教室の椅子で一人座ってる俺ではないのは間違いない。

親友が別の男友達にずりーぞとなじられているのが見える。いいぞ、もっとやれと思いながら見守る俺。

と、そんなとき耳元で大きな声が俺の鼓膜を震え上がらせる。

キーンとした耳鳴りに頭脳も震え、イラッとしながら横を見ると幼馴染がいた。

どうやら親友の周りをぼーっと見すぎて気付かなかったようだ。

なんだお前か、そう自然に反応するが、幼馴染の様子は少しおかしい。

いや、それもそうか。緊張しているんだろうな。一瞬で理解できた。

あのね、と要件を言おうとする前に俺は幼馴染の言葉を止める。

あー任せろ。俺がアイツを一人呼び出してやるよと気前のいい言葉を伝え、肩を叩く。

ありがとう。聞こえた言葉には、まだ早いと答えて親友とアウトドア派の波を俺はかき分ける。

ちょっと来いと親友の手を掴み、この学校で人の少ない場所ってどこだろうなーと考えながら人波から親友を救出、搬送を行う。

向かった先は校舎の横、日当たりもあまり良くなく、人が来ることは少ないだろう。

ムードは少し足りないが、ゆるせ。そう心の中で謝り、ちょっと待ってろと親友を置いて幼馴染を呼びに行く。

とはいえ一連の流れを見ていたらしく、案外近くに居た。

頑張れよ、伝える言葉はそれしかなかった。

うん、幼馴染もそう答えると親友の元に向かった。

はー……俺は何をしているんだろうか。好きな人の好きな人への告白の手伝い? このバレンタインデーという絶好の日に。

甘い恋人の日に俺の口の中は苦くすっぱい後悔の味。


親友はなんと答えるだろうか。

本命はいつも断ってきた、と本人から聞いた手前、絶対成功するとは言えないし思えない。

ただ、断るということは好きでもない人と付き合えない誠実なヤツか、他に好きな人がいるか、どちらかだと親友を知る俺は思う。

あとは願わくば後者であり、それが幼馴染であることを願うのみだ。

俺は二人の結果を待たずに教室に帰り、親友はチャイムに遅れて遅刻判定を食らっていた。ざまーみろ。それくらいは思っていいだろう。


帰り道、いつも通り親友と駅まで向かうのだが、少し寄り道をしようと提案される。

いつも通り俺には予定がないので、おう、と答えた。

親友はこれ食っていいよとチョコの袋を渡してくる。

おい、これは……なんて怒ろうと思ったが、商品名が書いてある未開封の袋の山。

なるほど義理チョコか。これでお返しをねだられるのは流石にムカつくな。俺は容赦なく食べることにした。

甘いチョコの味が口に広がる。いくつ食べてもまだまだ残っている。

俺たちの間には会話がなく、もくもくとその義理チョコを食べていった。

な? 飽きるだろ? そう親友は話しかけてくる。

そうだな、俺は既に飽きた。正直にそう返した。

親友はだろうなと笑いながら、俺にはまだ本命チョコが残っているんだぜと語る。

羨ましいの感情の前に、ご愁傷さまと思う気持ちのほうが今は強かった。


俺さ、お前の幼馴染の子から告白された。

そう親友はハッキリと切り出した。知ってる。俺もそう答える。

お前、あの子と仲良かったしさ、お前も好きなの分かってたしさ、横から邪魔するのも悪いなぁって。ずっと思ってたんだよな。

親友は、言葉を探すように、ゆっくりと言葉を繋いでいく。

それがさ、告白してきてくれたんだよ。あ、これは言ったか。でも、告白、されたんだよ。

なぁ、俺、いいのかな。


そんな言葉を最後に親友は黙る。

いいのかな? 何を迷う必要があるんだ。そう思う俺がいる。それと同時に、今ダメと言えば、幼馴染が振り向いてくれるかもしれない。そう考える俺もいた。

ぐるぐると思考が回転する。答えの出ない迷宮に迷い込んだ気分だ。

でも考えろ、俺。俺はなんだ。親友は、なんだ。

『もしこの話が物語だったら、恐らく主人公はコイツだろう』

何度そう思ったか。何度、何度。

では俺のやるべきことはひとつ。答えるべき答えはひとつ。

主人公とヒロインは結ばれてハッピーエンドだ。バッドエンドは、この俺が許さない。


いいに決まってんだろ。つか、俺知ってたから。二人共の気持ち。まどろっこしくてイライラしてたくらいだぞ。


でもそれだとおまえが


いいか、よく聞け。俺のことは今関係ない。これはお前と、アイツの恋の話だ。

第三者に遠慮して収まるべき場所に収まらないなんてのがいっちばん、不幸だ。全員が不幸だ。ギャルゲーなら最悪なルート間違いないだろ。


親友は黙る。そして考えている。

まだ迷っているのが分かりやすすぎるくらいに分かりやすい。

だから俺は横に座っていたのを立って、後ろに回って親友の背中に蹴りを入れる。


おら、さっさと行ってこい。

今日中に答えるのが礼儀だろうが。

幼馴染のアイツが頑張ってたのは俺が二番目に知ってる。一番はお前だ。真正面から受け止めたんだろ。おら、走れ。行ってこい。


バランスを崩しつつも抜群の運動神経で倒れることなく立ち上がり、親友は応と答えて学校の方向に戻る。

姿が見えなくなるまで俺はその背中を見送ったが、あっ、と思い出して携帯を取り出した。

連絡を取る相手は幼馴染。


今、お前、どこにいるんだ。


すぐさま返信が帰ってくる。


家だけど?


あちゃー、最後の最後で俺、やっちまった。格好つけたのに締まらないことやっちまった。恥ずかしさで顔が赤くなるのをかんじる。

とりあえず幼馴染に人前に出られる格好だけはしとけと返信し、親友にすまんと電話で連絡をとる。

ふっざけんな思いっきり走ったのになんだよチクショーと怒られたがこれには俺はなんとも言えず謝るしかなかった。


とりあえずあとはなんとかなるだろう。

そう思うと、体から力が抜けた。ばたりと道端に座り込んで、ドキドキとした心臓辺りから、ふとひとつの思いが浮き上がる。

……俺の恋は、終わっちまった。

後悔はなかったが、口の中に残る義理チョコの甘い味がそのすっぱい想いと混じり合い、しばらく消えることはなかった。

季節物?

なんというか読みにくくてごめんなさい。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

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