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異世界に召喚されたけど電気がない!

作者: 先手1六歩

部屋ごと異世界に召喚されたけど電気がない!!



その世界の『人』は今まさに滅びの道を歩んでいた。

何代目かもよく分からない今世代の魔王は歴代魔王の中でも桁違いの魔力を持ち、そのあまりに強大で無尽蔵な魔力で世界を蹂躙し続けているからだ。

魔王とはすなわち全ての魔物達にとっての魔力供給源だ。発電所的な物だと考えてくれればいい。

そしてその豊富過ぎる魔力を得た魔物達は快進撃を続け、大陸の8割を支配していた『人』を蹂躙し、今や『人』の住んでいる地域は大陸の2割にも満たない。


そう『人』はまさに滅びようとしていた。



◆◆◆◆◆



「暇だな。」

その男は呟く。

もはや『人』に反抗する力は残っておらず、自ら手を出す必要が無くなり数か月が過ぎていた。

勇者も聖女もその男の敵ではなかった。全く相手にならぬ雑魚であった。


「何か面白い事でも考えねばならんな。」

彼は1年前まで『人』最大の国家の首都だった場所にある、荘厳で巨大な城の玉座に威風堂々と座りながら独りごつ。


「そうだ、ここには大書庫があったはずだ・・・おいお前、何でもいい『人』の本をその書庫から一冊持ってこい。」

手下の魔物に命令する。


しばらくしてその魔物は書庫のどの辺りにあったものか、凄まじく古ぼけてボロボロの本を持ってきた。


「ふむ。」

その男は本の状態に気を留めた様子もなく本をめくり始める。


そこは遥か古代に失われた言葉が延々と書き記されている。

今の世界に読めるものなどいないはずだったが、この男にはたやすく読めた。


「なるほど、これは面白い。試してみる価値はあるようだな。座興程度にはなるだろう。」

数時間かけて一通り最後まで目を通した男は、その玉座のある大広間の真ん中に何やら書き始める。


巨大な円の中に文様と文字を延々と書き連ねること丸三日。

それは完成した。

つまりそれは召喚陣。


その男は書いた内容に間違いがない事を確かめると、有り余る莫大な魔力をその陣に無理やり詰め込む。

やがて陣が紫に光だし、やがて受け止めきれなくなった魔力が陣から漏れだして光り輝く。

それは城一つ簡単に消し飛ぶほどの量だった。


「ふはは、こいこいこい。我願う、我の知らぬものを持ちし者を。我を楽しませる事できし者こよ。」


溢れ出した光が声に応じる様に陣の中央へ収縮し、そして弾けた。




◆◆◆◆◆



俺はニートだ。しかも真正ニート、自宅警備員ではない。

両親は俺が高校に入ったばかりの3年ほど前に他界した。ちょっとした遺産とちょっとした保険金を残して俺は独りになった。俺は家から出る事をやめた。

近くに親戚とおばあちゃんが住んでいるが交流はほとんどない。

食事は徒歩3分にあるコンビニか出前。


このペースなら20年もすれば金が無くなって生活出来なくなるだろうが、その時は素直に死ぬつもりだ。40まで生き残るとかとんでもないよね。


ニートの俺が家にこもって何をしているかといえば、もちろんゲーム・マンガ・アニメだったり厨二な小説だったりするが、何となく自作フィギュアにはまっている。

それも魔改造フィギュアというやつだな。


「芸術は爆破()だ!」

と思わず叫びたくなるような巨乳や爆乳や魔乳なあれである。

最初はねんどろいどから始まり、最近は石膏造型やら木から削り出しなんかもやる。

とにかくこの3年で俺自身が満足出来たオリジナル超乳フィギュアは6体。

現在7体目を製作中である。それも造型の完成が間近、今が一番大事な時。


巨大で広大で壮大で美しい山脈の山頂、最も重要なピンクの頂きに取り掛かる所なのだった。

素材は石膏で削り出し製作。ミスが許されない一発勝負だ、最大の集中力が必要なのだった。


コリッ・・コリッ・・キリ


少しずつその先端部分を削って整えていく。胴体に比べて反俗的に大きな山脈だがバランスは絶妙、その先端の位置もとてもとても重要で0.1mm単位で作らなければならない。

ゆっくり慎重に震えそうになる指先を叱咤激励し丸く突き出て男を惑わせる魅惑の突起を形作っていく。



ブン



「ぎゃあぁぁぁぁ」

俺の絶叫が響き渡った。

突然、部屋の明かりが消え、それにびっくりした俺は指を上下に強く動かしてしまったのだ。

そしてその感触は先端を削り飛ばしてしまった事を示し、そしてまあこの失態だった。

「な、なんだよ。この一番大事な時にいきなり停電とかありえないだろ。くそ、どうなってやがる。ブレーカー落ちるような電気は使ってねぇぞ。」


ガタガタガタガタガタ


俺は自分の影が邪魔になる時に使うため常備しているヘッドライトをつけて確かめようとしたところで、飾ってあるフィギュアが揺れ出す。

いや地震だ、部屋全体が揺れている!?


それはわずか3秒ほどだっただろうか、体感震度4程度の揺れが収まり、停電の原因はこれだったのかと思い至る。


「やろう、タイミング悪すぎんだよ。棚のフィギュアちゃんたちはしっかり固定してるから大丈夫・・・だよな。」

ブチブチいいながらヘッドライトを点灯させまず仕上げに失敗した机の上のフィギュア(色塗り前)を見る。


「くっそ、やっぱない・・・ないな・・・・くーー・・・・仕方ない、魔乳陥没路線って事にするしかないな。一体ぐらいあってもいいか。」

そうして、棚の方をざっくり確認。幸いというかやはりというか倒れた物はなさそうだ。

次にようやくカーテンを少し開け外の様子を見る、が何も見えない。

今は夜の10時過ぎ、街全体が停電しているのか完璧に真っ暗である。


「こりゃ、揺れの割に被害甚大って感じだな。」

俺は、これ以上の作業もできそうになかったのでそのまま寝る事にした。

どうせ朝になれば電気も復旧してるだろう、そう思って。



◆◆◆◆◆



目が覚めた。

カーテンの隙間から光が漏れてきているがまだ薄暗い感じがして時計を見る。


AM 7:30


絶対時間が狂う事のない電波時計なので昨日停電してたからといって、間違いあるまい。どうやら爆睡(約9時間)してしまったようだ。


「くあぁ」

俺は一つ大きな欠伸をすると


「おハヨ」

と日課の挨拶をする。もちろんエロ乳フィギュアちゃんたちにだ。


「オハヨー」×6

可憐な声で返事があった。うんうん、こうでなくっちゃ。


「・・・・・?・・・・・???・・・・・!?!?!?」

いや、マテ。何かがおかしい。なぜ返事があるのか。


そうか夢だな。


俺はテンプレ的に両頬をパンパンと気合を入れる時のように叩く。

うん、痛いな。


「リョーイチ、そんな事してどうしたんだい?寝ぼけてる?」

俺の目の前に飛んできたオリジナル魔乳(当社比30%増量)クノイチフィギュアの「菊乃キクノ」が俺に問いかける。


ちょっとまて、飛んでくるとか問いかけるとか意味が分からない。


「あれだな。我々が動いてるもんだから夢だーとか、そういうオチを予想していると愚考する。」

菊乃の横に並ぶようにフラフラ飛んできたのは女性化騎士の象徴、オリジナル騎士王「蒼椿あおつばき」だ。日本名なのには深い意味はない、気にするな。


他にも4体、つまり俺のオリジナル魔改造フィギュア6体全てが俺の目の前に飛んでくる。


「えーっと、ここはテンプレ的にもう一度寝るべきだよな?」

すっかり完璧に混乱した俺。

それを面白そうに見ている山脈並みの胸を持った女性(ただし身長24㎝程度のフィギュア)


「リョーイチさん、説明しますから、まずは落ち着いてください。ようするにあなたがよく見たり読んだりしているアニメやマンガや小説のように、パッと召喚された訳です。ほら簡単な話でしょ。」

オリジナル爆乳聖女「朱桜姫あかざくらひめ」がおっとりした口調で言ってくるが、簡単な話ではない。


「たまたま部屋でリョーイチの作ったフィギュア観賞していた私達、八百万の名も無き神々の6柱も巻き込まれて一緒にこっちの世界へ飛ばされちゃった訳だしっ。部屋ごと召喚するとかバカげた魔力のせいよねっ。」

と、巨乳ロリ犬ミミ魔法少女「桜魅耶さくらみや」(いちいちオリジナルってつけるのは面倒だからやめた)


「で、召喚魔力とこっちの世界の精霊とあなたのフィギュアと私たちが変に混ざって存在が確定しちゃったみたいなのですよー。」

お気楽な感じで、最大最高魔乳(当社比200%増量)大商人令嬢「紫織しおり


そして、無言でウンウンと可愛く頷く、美巨乳(当社比-50%)奴隷盗賊「空翠くうすい


「さて、見てないアニメでも見るか。」

俺は目の前の事をとりあえずうっちゃってテレビの前に移動する。

いわゆる現実逃避というやつだ。


が、ガッ


リモコンのボタンをいくら操作してもテレビはつかない。HDDレコーダーの電源も同様だ。


「主様、この世界に電気ないです。」

と、空翠。


「な、なん・・・だと・・・・・・」

俺はそれを聞いた瞬間、両手両膝を付きこうべを垂れた。


「リアルorz初めて見ました。」

紫織が頭の上辺りをふらふらと飛びながらマジマジ眺める。

ちなみに見世物ではない。


出前やけ食いしようと携帯見れば圏外

仕方なしに冷蔵庫から飲み物を取ってこようと思い(電気切れて温くなってるだろうが)部屋の扉を開けて、あんぐりと口を開けた。


ここ、どこだよ。


そこは、石で作られた巨大な部屋だった。

上を見れば巨大なシャンデリア、赤い絨毯が一直線に伸び、その先には超豪華な王様が座る的なイス。

天上のそこここには光を取るための窓があるのか部屋全体が明るい。

いわゆる謁見の間ってやつか。

だが、誰もいない。全くもって無人。

まあそりゃ考えてみれば、豪華な部屋の真ん中に部屋がどんっとあるわけだ、人がいれば何事かと中を確認しに来るはずである。


つまり、なんだか全くな一つ理解できないししたくもないが、俺は無人のお城の謁見の間に部屋ごと召喚されたようだ。

召喚主不明、電気はなく携帯も通じず、間違いなくインターネットもない。

・・・・えと、なんだこれ?


「っははは、やっぱ夢で夢が夢だ。」

俺はうんうん頷く。もうすぐ目が覚めて、フィギュアの仕上げをするのだ。そうなのだ。そうに違いない、間違いない。


もう一度、うんうん頷く。


「大丈夫、ここには怖いものいないけどっ。なんか邪悪っぽいオーラ持った奴がいたけどリョーマが寝ている間に私たちで浄化しといたしっ。」

とは桜魅耶。謁見の間で邪悪っぽい奴とかどんなホラーよ。ブルブル。


「とにかくですね、ここは安全ですよ。電気も電波も厨二もないですけど。」

いや、この状況が電波で厨二なんだが・・・




◆◆◆◆◆



「っな、敵が消えたですって?どういうことですか?」

まだ若い、少女といってもいいぐらいの年齢で頭にあまり似合わない大きな王冠を被った女性が声を上げる。


「今の所その報告だけで詳細は分かりませぬ。しかしながら今まさに城へ襲い掛かろうとしていた魔物・魔族が全ていなくなったのは事実。間違いありませぬ。」

銀色に輝く甲冑を身にまとった壮年の騎士が返答する。


立場的には女王と騎士団長、といった感じだろう。


「それは本当ですね?それでは、間もなく、そう今日明日にでも落ちそうだったこの城は助かったのですか?」

少女は騎士に重ねて尋ねる。

しかし騎士にしても状況を理解しているわけではないのだから答えようがなかった。


「現在、最優先で状況を調べ情報を集めております。しばしのご猶予を頂きたく存じます。」

騎士はそういうと、深く一礼し部屋がら退出した。


「私は、私たちは助かったのでしょうか。」

まだあどけなさの残る女王はぽつりとつぶやく。それは希望を持っている人とは思えない弱々しい呟きだった。



◆◆◆◆◆



「しかしさ、電気ないとかどうすんだよ。携帯使えないとか生きていけねぇよ。」

リョーイチは外を一瞬見た後、とても素早く部屋へ戻りベッドの上でグチグチしていた。

真正ニートの彼が部屋の外で何かあったといって状況を確認するために動き回る、なんてことが出来るはずがないのであった。情けないが。


「それにしても腹減ったな、でも冷蔵庫もコンビニもなくなっちまったんだよな。」

そう、リョーイチは部屋ごと召喚されたが自室のみ。

一軒家であったはずの我が家はワンルームと化し、キッチンもトイレも浴室もなくなってしまったのであった。


「なあリョーイチ、ここでっかい城なんだけど、これがお前の家でいいんじゃね?ということは家の中を探索してもニート返上って事にはならんじゃね?」

菊乃が耳元で悪魔のささやき!


確かにそうだ、建物全体に自分しかいないのであれば、ここは確かに我が家、といっても差支えないのではないだろうか。

喉も乾いたし腹も減った、トイレにも行きたい事だし・・・


とりあえず最後のが一番問題であった。

リョーイチは仕方なしに、若干びくびくしながら外へ出る。


そっと部屋の扉を開け、落ち着きなく左右を見まわす。

誰もいない事を確認すると外へ出る。リョーイチの後ろからは肩の高さぐらいに浮いた6体の魔改造フィギュア。ハッキリいって異様な光景である。

いや、その造形自体は非常に素晴らしいのだ、が。


リョーイチはまず自室扉の正面に鎮座する玉座っぽい豪華なイスまでてくてく歩き、左右を見回すと、両側に扉がある。

位置的には王様とか王妃様の自室につながってそうである。

ゲームやアニメ的な知識として常識の事であった。


リョーイチはおそるおそる右側の扉を開ける。

するとすぐ上へ行く階段になっていた。コソコソと上がっていく。

特に見張りや、王の間の前で警戒している騎士なんてものはおらず大きな扉の前までたどり着く。


「やっぱり無人っぽいなぁ。」

情けない事に誰にも会わない事で安心してきたのか、だんだんと背筋が伸びてきたリョーマはその大扉を開け部屋の内部へ侵入する。


そこはとても豪華で広い、だが少し埃っぽいそんな部屋だった。

さらに奥にはいくつか扉も見える。


「さて、トイレはどこだろう。」

これだけの部屋だ、どこかにトイレもあるはず。


「リョーイチ、あそこがお求めの場所みたいだぞ。」

後ろからフワフワとついていていた6フィギュアの一体「蒼椿」がリョーイチの少し前まで移動してきて一つの扉を指差す。


リョーイチはそれに従って扉をくぐり、トイレを見つけた。

無駄に豪華だが普通の水洗トイレである。


彼は中までついてこようとするフィギュア達を追い出すと、ようやく朝のお勤めを終えることが出来たのだった。


用を済ませると自動で流れる水に関しては何も思う事はなく(現代っ子のリョーイチからすれば自動水洗トイレなど見慣れた物だ、実は違うのだが)部屋へ戻る。


すると、6フィギュア達が待ち構えていた。



「リョーイチ、肩に乗ってもよいですか?」

朱桜姫が6体を代表して尋ねてくる。リョーイチは一も二もなく了承した。

両肩に二体ずつ、頭にも2体が寄り添うようにちょこんと座る。

たちまちリョーイチの相好が崩れた。


実は愛してやまない魔改造フィギュア(自作)が動いて本当はとてもうれしかったのである。このまま夢から覚めなくてもいいなーとか思ったりした。

まあ残念ながら(?)現実であるが。


「よし、次は食料を探そう。」

「「「はーい」」」

元気よく手を上げるフィギュア達。

デレッとするリョーイチ・・・キモチワルイ。

まあいい、彼らは城の探検も兼ねてあちこちウロウロすることになったのだった。



◆◆◆◆◆



リョーイチと魔改造フィギュア(自作)6体がこの世界で活動を始めて一週間が経過した。フィギュア達とは相当仲良くなったし、いろいろ話も聞いた。

それに城の中は快適でとても明るく、食料も食糧庫から大量に見つかり、悠々自適の真正ニート生活を送っている。


が、やはり電気が無いのは致命的であった。

撮りためているアニメも大量にあるDVDやBDもゲームもパソコンも何も出来ない。

携帯電話は電池切れで、夜は7時頃に真っ暗闇、蝋燭やら火種は見つかったが電気に比べれば暗すぎて読書も不能。

趣味のフィギュアを造ろうにも買いためておいた材料は別の部屋に置いていたためすでに足らず、と、そろそろ時間を使う事が困難になりつつあった。

食っちゃ寝だけでは生きて行けぬのである。

まあフィギュア達を眺めているだけで至福だったりするのだが。


「どうすっかなぁ、外に出たくないけどここにいてもなぁ。なあ、君たち中身神様なんだろ、電気ぐらい出せないの?」

自分の傍らで思い思いの格好をしながらくつろいでるフィギュア'sに声をかける。

そういえば、ねんどやら石膏やらで作られたこいつらが普通に動いているのは何故だろう、触ると軟らかいし。


「電気は知ってるけど、ヒャクボルト、とか言われても困るっ。おまけに周波数とか交流とか分からないっ。」

とは、一番、魔術的な能力が高いらしい桜魅耶の弁である。


「やっぱダメかー、ダメなのかー。」

ベッドの上でゴロゴロ悶える。が、男がやってもキモイだけであった。

それを見て後頭部の髪の毛をひっつかみ、その形のいい胸を首筋に押し付ける空翠。こっちはとても可愛かった。頭の下敷きになるたびムギュムギュいっている。

何か(が)とは言えない。


「しかし、この体は良い物です。理想です。」

なぜか自分の胸にある魔の山脈を上へ向けたりくっ付けたり凹ませたり、触わりまくっていた紫織が、なにやらウムウムと納得している。大商人令嬢らしく価値を推し量ったのかもしれない。


それを聞きつけたリョーイチは、一番近くに座っていた蒼椿の胸をツンツンしてみる。

「お、おやめ下さい。いくら我が君と決めたリョーマ様といえども先に一言ぐらい言って下さらないと。」

鎧の上からなのにプニプニと柔らかい事が丸わかりの胸を押さえて顔を赤くする蒼椿。怒ってないし拒絶する訳でも無いようであった。


「凄いなー、確かに胸の柔らかさだ。」

リョーイチはウンウンと頷くか、むろん本物などここ10年は触った事などなかった。

真正ボッチニート高校(中退)である彼のイメージでは本物そっくりだったに過ぎない。



そんな感じで異世界でも引きこもり状態のリョーイチとフィギュア6体がリョーイチの自室でラブラブっぽく戯れていた所、突如


バタバタバタバタ


と複数の足音が聞こえだした。

そして


バタッン


扉が開く音が謁見の間に響く。

そして再び複数の軍靴の音。数はおおよそ10名。


「おい、あれはなんだ?」

「わ、分かりません。もしかして魔族が持ち込んだものでは?」

壮年の渋い声と若い男の声。

むろん箱とはリョーマの自室である。


「む、そうだな。よし、みな取り囲め、魔力は感じないが、いやむしろ精霊力すら感じるが、とにかくくれぐれも慎重にな。」

再び渋い声が聞こえ、ジリジリと擦るような音が周囲に広がっていく。



「なあ、誰か来たのかな?」

リョーイチは緊張感のない声でフィギュア達に問いかける。


「そのようです、主様。悪い気配は感じませんが・・・。」

首筋から離れ肩に移動した空翠が答える。


「私が見てきましょう。」

騎士らしくキリッっと立ち上がり動き出す蒼椿。

「偵察なら任せて。」

音もなく動き出す菊乃。


僅か24㎝の彼女らには大きなドアノブを回し、2体は外にでる。



「ここは我が君が住まう居室だ。それを騒がす不貞のやからよ名を名乗れ。」

威風堂々して凛と響く蒼椿の声。


「だ、大精霊様!?」

そのちんまくて爆乳でフワフワと浮いている蒼椿を見た囲む騎士たちに動揺が走る。

「ふむ、そう呼ばれる事もある。」

コックリと頷く蒼椿。

蒼椿に注目が集まっている間に部屋の屋根へ飛び移り周囲の様子を見る菊乃。


「こ、これは失礼しました。まさか大精霊様がおられるとは予想だにせず、大変失礼いたしました。私はボベルア王国、騎士団団長のガトル・ラミツァと申します。」

渋い声の中年親父が丁寧に膝を折り頭を下げる。周囲の騎士たちも同様だ。


「ふぅん?まあ礼儀は知っるようですね。で、ここへは何をしに来たのですか?」

若干、威圧感を押さえ柔らかくなった口調で蒼椿が問いかける。


「はい、我らは魔王の様子を探りに来たのです。」


「魔王、魔王ねぇ・・・もう少し詳しく。」


「首都であり王城のあるこの街を捨て1年。ここより5日ほどいった山中にある最後の砦がついに取り囲まれ、そこに閉じ込められた王女様と我ら騎士団。そう我々はまさに滅ぶ、その直前の事でございました。追い詰めていた魔族・魔物が突然消え去ったのです。」

ガトルは一瞬息を詰まらせるが、大きく息を吐くと更に続ける。


「我らは何が起きたか分からず、周辺の調査を始めました。しかしもうどこにも魔族・魔物の影すら見当たらず、ついに今は魔王が居城としているはずのこの城、ボルヘルード城までたどり着いた次第でございます。」


「なるほど、そしてここで私たちを見つけた、と。」


「はい」

蒼椿はその返事を聞きつつ考える。さて、どうしたもんか、と。


「で、魔王は居なかったという事ね?」


「さようです、もはや魔王のあの強大な魔力があった欠片すら感じることは出来ません。いえむしろこの城は浄化、どころか聖域に近いほどの精霊力に包まれております。魔王は一体どこへ去ったのか。」


「あ~、魔王ってもしかして私たちがここへ呼ばれた時に居た邪霊の事じゃない?ちょっと強かったし。」

危険はないと判断した菊乃は屋根の上からひょいっと飛び降り蒼椿の横に並ぶと話に割り込んだ。


「あれが魔王だと?確かに邪悪な気は感じたから浄化したけど、そんなに強くなかったじゃないか。せいぜい中ボスってレベルだろう。」

フィギュアに宿った6柱の神々、精霊と混ざり魔王の魔力を取り込み更にフィギュアというとても身に合った実体を得た事でとんでもない力を身に着けている事にリョーイチを含めて気が付いていない。


「元々、私たちは浄化とか祓いの神だし、更に大精霊とやら取り込んだし、魔王といっても第二第三の魔王が・・・って雑魚系だったんじゃないかな。」

「まあそういう話もよく聞くからな。特に小説で。そうかもしれん。」

2体の魔改造フィギュアがお互いにウンウンと頷き合う。


「か、過去、最強最悪といわれた魔王です・・・」

ガトルとその部下騎士たちが違う意味で顔を青くする。


「なるほど、まあ我が君を守れたんだから問題ない。みんな悪意はないみたいだから出てきて良いぞ。」

蒼椿はとりあえず部屋の中で様子を伺っているリョーイチ達に声をかけた。


その声を聴き、ドアが再び開き残り4体のフィギュアに続き、かなりおっかなびっくりな感じのリョーイチが姿を現す。


「だ、大精霊様が6柱・・・」

しかしリョーイチに注目する物は誰もおらず、ただただ魔改造フィギュアの威光に口をあんぐりと開けるばかりの騎士たちだった。



◆◆◆◆◆



「女王陛下、ただ今戻りました。」

あの初会合から1週間、ガトルは未だ女王が隠れ住む砦へ戻ってきていた。

朗報と、微妙な情報を携えて。


「ガトル無事だったのですね。あまりに戻らないので心配していました。それでどうなのです、外はどうなっているのですか?私たちは助かったのですか?」

女王は約2週間に渡る長期偵察に出ていた騎士団団長をまずはねぎらうと、待ちきれないといった具合に矢継ぎ早に問いかける。。


「陛下、長くお傍を離れ申し訳ありませんでした。期せずも王都まで足を延ばしましたゆえこのような長期になった次第でございます。」

ガトルはそこで一拍おいてから続ける。


「我々は何の障害もなく王城の謁見の間までたどり着きました。そして、そこで、見慣れぬ建物と、む、むつ・・・6柱のだ、精霊様、に出会ったのでございます。」

「だ、大精霊ですって!?しかも6柱!!??ど、どういうことなのですか。」

ガトルが続けた発言に仰天する女王。


「どういうことなのか、も重要なのでございますが、かの精霊様方が魔王を倒した、いえ『魔力ごと完全に浄化した』という事が最も重要な事なのでございます、女王様。『魔力が完全に消えた』ということなのでございます。」

大事な事なので言い方を変えつつ2回繰り返すガトル。


「消えた・・・消えた!?」

「はい、すべて消えたのです。」

魔王というのは全ての魔族・魔物に魔力を供給している、いってみれば発電所だ。

それが消えたということは、自動的に魔に属する全ての消滅ということになる。


「ですから、大手を振って城に帰れますぞ。随分さびしくなってしまいましたが・・・」

王都を追われて以降、鬼籍に入った女王の父親たる元王はじめ王妃・宰相・近衛兵長などなど、ほとんどが戦死しているのだ。

それを思ってしんみりする主従。


「いまいち実感が沸かない所ですが、騎士団団長が仰るのですから間違いはないのでしょう。疲れているでしょうが、ただちに城へ戻る準備をしてください。まずはわたくし自ら大精霊様にお礼申し上げなければ。」

そして主従は頷き合う。



◆◆◆◆◆



自称騎士団団長(装備からして間違いではないだろうと思うが)一向が去ってから2週間ぐらいたった。

ぐらいというのはとりわけ日付を確認してないからだ。

ニート中級ぐらいの俺は時間帯などあまり関係なく、起きた時間に活動し寝たい時に寝るのだから、アニメの放送日程度に曜日を認識していれば生きていけるのであった。


それはともかく、今は新しいフィギュア作りの真っ最中である。

人がいないという事でちょっとだけ城下町まで探索かねて出かけ、陶器を作っていたであろう工房から、ねんどっぽい土を失敬してきたからな。

お金?この世界の金なんてねぇし、どうでもよくね?


そして今日ついに2週間ぐらい前と同じく、謁見の間の大扉を開ける音が響き渡り、複数の足音が迫ってきた。


「げ、またかよ。」

とはいえ誰かは分かっている。前回の会合時に話は決まっていたからな。

しかし俺はもちろん今『重要』な色塗りポイントで手が離せない、色ムラになったら泣ける。


「大精霊様はいらっしゃいますか。」

おっさんの声が謁見の間に響き渡る。騎士団長だろう。

名前?そんなもん覚えてない。


「リョーイチ様、まずは私が。」

俺はその言葉に頷く。前回と同じく蒼椿が対応することはとっくに決めてあった。

ニートの俺が対応とか出来ないし。

蒼椿は軽く飛翔すると部屋の外に出ていく。部屋のドアは開けっぱなしだ、基本俺たちしかいないし開け閉めってめんどうじゃん?


「我が君が住まう場所へようこそ、騎士団団長。お久しぶりですね。」

蒼椿も名前は言わない。これは忘れているのではなくヒューマンの名前など呼ぶに値しないと思っているからだ。

じゃあ俺はなんなのだろう?ただのフィギュアボディ作成者である。

我が君とかマスターとかそんな存在ではない、一般人。ニート、引きこもり。


いや自虐する所でもないな、うむ。


「大精霊『蒼椿』様に敬礼!」

表に出た蒼椿を見て騎士団団長が声をかける。

そして、『ザッ』っと多数の動く音。

あれ、あいつこんなノリだっけ?


「よい、してこの度は『女王』様とやらを連れてきたのであろう?」

「はい、もちろんでございます。この場にお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「むろんだ。我が君は取り込み中ゆえ応対は我々がさせて頂く。それでよろしいな?」

蒼椿はそういうと、扉の内側で外の様子を覗き見していた他の5柱をに向かって指をクイックイッと曲げて呼ぶ。


フラフラっと外へ出ていくフィギュアズを横目に俺は集中を切らすことが無い。

そう、このピンクポイントの色ムラだけは絶対に許されない、ゼッタイニダ。


そんな事とは関係なく、外では話がサクサク進んでいるようだ。

フィギュアズは魔王を倒した大精霊様とか呼ばれてとても敬われているようで、女王にも偉そうな口をきいて平伏されている様子。

まあ俺には全く関係ないけどな、ないけどな・・・


女王ちょっと見てみたいなー


とかないよ。ないさ。ないよね。


フィギュア作りに集中しているはずの俺の指先が震えている、全く謎である。

声だけ聞こえるって、なんか色々想像して反応しちゃうよな。

むしろ声だけの方が・・・・・・・・・・・・・いやなんでもない。



なんとかかんとか最後の重要な部分を終わらせて、色塗り用の筆を置く。

ふぅ、苦節2週間、ようやく完成だ。まだ塗料が乾いてないけど。


外の謁見(?)に多少の意識を向けながら肩こったなぁとか考える。

女王様とか見てみたいけどさ、怖いじゃん。俺引きこもりニートで対人スキルマイナスだし・・・二次元ならいいけど、リアルだよリアル、怖いわ。


とか思っていると、ん?なんか動いたような。

何がって、そりゃ、目の前にある出来上がったばかりのフィギュアの事だ。

俺の会心作(7体目)、命名『白梅しらうめ』、ヘソ出しミニスカセーラー戦士(予定)である。まあまだ服作ってないからまっぱ全開なのだけれども。


ん?ねんどろいどなら服着てるんじゃないかって。俺のこだわりに文句いう奴は灼熱フィンガーアイアンクローをクラワシテヤンヨ。


ともかく、その白梅がマッパの弾丸爆乳ちゃんが動き出したのだ。

え、また?


「ふふふ、白梅ここにけんげーん。あ、あなたがタイチョーかな。よろしく~」

なんかまた変なのが・・・

自作超美少女ミニスカセーラー戦士(予定)フィギュア動くことは素直に感動だが、このノリはないわ。

ただまあ、フィギュア6体と生活始めて3週間、大抵の事には耐性が付いている俺である。もう驚かんよ、ふはははは。


とか、思ってるはずだが指は自然と頂きへとのびる。


ムニョン


素晴らしい弾力であった。

「タイチョーエロイネー。嫌いじゃないけど。で、タイチョーの名前は?」

「俺?俺はリョーイチ。よろしくな。」

そういいつつムニムニする。

別に逃げる様子も隠すないのでやめる。恥じらいがあった方が好みなのである。みんなもそうだろ?


「外にも誰かいるんだ、ちょっと見てくるー。」

そういって、俺が静止する暇もなく扉から外へ飛び出る白梅。

お前マッパなんだけど、女王いるしいいのかなぁ・・・


「うぉ、なんじゃお前は?」

「は、はだ、ハダカの大精霊様・・・」

「うほ、うっほぉぉぉ」


なんか一気に混沌としたな。てか、また大精霊なの?お手軽すぎじゃない?

いいか、一仕事終えた俺は寝るぜ。

女王様に会うのはまた今度・・・無くてもいいけどさ。



◆◆◆◆◆



混乱と混沌を呼んだ白梅の乱入から1時間。

その場は適当にその辺のタオルを切断して上と下の重要な部分に巻きつける事で一応の決着をみた。らしい。

俺は寝てたけど。


で、結局、流石に謁見の間に住む訳にもいかないので、俺の部屋ごと城の中を移動したのであった。知らない間に。

さすが7柱の大精霊、である、とかなんとか。

おだてられて伸びる子だったんだなぁ(良い様に使われたとも言う)


俺が起きた時にはすでに城の東端にある大部屋に移動した後で、部屋からちょっと外をのぞいて驚いた。

見返りに、毎日三食メイドさんが運んでくれるとか。

リアルメイドさんキター、いやクルー!?ただしマイルームの扉の前までな!


フィギュアズは俺が人に会うのが苦手だから決して部屋に入らないように申し付けちゃったんだとか。

いやいや、たまにはいいんだよ?

まあ、いいけど。何話したらいいかわかんねぇし。


あ、ども


ぐらいしかいえねぇ上に、言葉通じないし。

そう俺が女王様とも合わないのはそれも理由の一つだ。

なんせ騎士団団長のとちょっと話した時も言葉がさっぱり分からず-英語もほぼ分からん俺だが、英語ですらなかった、お手上げである-フィギュアズの通訳が必要な始末。異世界召喚なら言語チートぐらい付けろよな。

うん、やっぱり外国人(異世界人?)話するぐらいならボッチでいいな。

フィギュアズがいるし、寂しくなんてねぇさ。


そうそう、フィギュア作りの材料だけは持ってきてもらうように頼んでもらおう。

こういう交渉事には蒼椿に行ってもらえばいい。



◆◆◆◆◆



あれから1年。俺の作るフィギュアは悉く動き出す。

何故だろうと聞いてみると、この世界の精霊の好みなんだそうな。


「なんせ、この世界って胸無ししかいないから、豊満な胸ってみんな珍しがってるんだよね。」

とは空翠。

外の世界-俺の部屋の外って意味-に興味を持った連中はどっかフラリと出かけたまま戻らない。

別に咎めるつもりもないし、好きにやってくれ。


ということで、俺は巨乳・爆乳・魔乳フィギュアズと結構楽しくやっている。

なんせ三食素材付き、お風呂もあるよ。

金もいらないしな。


しかし電気はない、なぜだ。神様か大精霊様か知らないが電気ぐらい作ってくれよ。

100V50ヘルツで!


今度、この国の女王様に研究するように具申して貰おうかな。

とか思う日々なのである。

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