最終章 道化(ピエロ)のボクと、観客のキミ
僕らは二人でひとつ。
瑞樹はコウを親友と思っているしコウも同じ気持ちで隣りに居る。
でも、瑞樹の裏側に居る僕からすれば、コウも他の連中もピエロ(僕)の道化ショーの観客でしかない。
僕が普段することと云えば、学校に居る時の瑞樹の替え玉くらい。何に対しても受け入れ体質だから日常生活でも瑞樹ほど疲れにくいのかもしれない。とはいえ、全く疲れないというわけでもない。ただ単純に基本人格である瑞樹よりも精神面や色々な所で少し強いというだけ。
だから僕ら二人共が疲れたりすると、一日起きずに寝っぱなしの時もある。
僕は人を楽しませるのが好きだけど、誰か他人に手綱を握られたいわけじゃない。命令口調も嫌い。
瑞樹がもう必要ないと思えば、僕は消えるだけの存在なのも自覚はしているし、それが扱く自然で〝一人の人間に付きひとつの人格〟というのが普通でこの世界の一般常識であるのも解っている。
僕らはそれでは耐えられないから分裂しているだけ。
それに耐えられるほどメンタルが強ければこうはなっていなかったと思う。
人一人の感情や記憶は、他人が推し量れるものではないし、支配できるわけでもない。それを解っているから、僕らは二人として個人個人で他人の言葉や行動に左右されることも無いのだ。
〝「弘樹って、あんまり欲無いよね」
『...本当にそう思う?』
「だって、あんま主張しないし...普通にもっと貪欲なのかと思ってた」
『僕は瑞樹の影だ。ただ冷静に徹するだけだよ。僕は瑞樹の助けになる為に生まれたんだから...』〟
「...ずき...瑞樹!」
「えっ!? な、なに?」
「さっきからぼーっとして、大丈夫か?」
「大丈夫だよ、大丈夫...」
「なら良いが、無理して一人で抱え込もうとするなよ? お前の悪い癖だ」
「ホントに大丈夫だよ」
「何かあったらすぐに言えよ? お前、一人で抱え込むとすぐパンクするから」
「分かってる。...いつも、ありがとね」
ボクらは二人でひとつ。
だけど、それぞれの意思があってそれなりに欲もある。
必ずしもその全部を周りの全員が快く受け入れてくれるわけじゃない。でも、それを受けれくれる人も居る。その受け入れてくれる人達が少しでも居れば、それだけで良いとボクらは思っている。
世界は必ずしも残念で酷い事ばかりではない。
その中にはきっと、良いことも待っているのだから...。
完