第二章 安堵(光)と不安(影)とひと時の温もり
「この短時間で雰囲気変わったと思ったら...弘樹、お前か?」
『やっぱり、幼馴染みには解るのかな...僕と瑞樹の違いが』
「そりゃあな。何年一緒に居ると思ってんだ。てかお前ら、性格真逆じゃん」
僕らは二人でひとつ。でも、端から見ると分かりやすく正反対の性格をしている。
元々の基本人格である瑞樹は少し暗く、物事に対しても消極的。
一方で主人格の弘樹は何事にも前向きで明るく積極的。
普段の私生活、主に学校に居る時は僕が率先して日常を受け持つ係りになっている。
「珍しいな。人付き合い担当のお前がこういうタイミングで出てくるなんて」
『そうでもないよ? それに瑞樹今寝ちゃってるから。僕が表に出た方が良いかなぁって』
「なんかあったのか?」
『さっき、同じクラスのヤツと話してたんだけど、ちょっと疲れちゃったみたい』
「俺が同じクラスになってればなぁ...少しは気疲れも減るんだろうけどなぁ...」
『しょうがないよ、クラス替えで決まったことだし』
僕らは中学に上がってから、親元を離れて彼の家に居候させてもらっている。
理由は単純に、実家に居るより気楽に過ごせるから。
「お前らも、なんか描けばいいのに。結構楽しいぞ?」
『僕らはいいよ。コウほど上手くないし...絵と云っても、描けるのは抽象画くらいだし』
「俺は自分が絵上手いなんて思ったことなんか無いよ。周りの連中が過大評価してるだけだし、それに近々お前の所にも推薦状が届くかもしれないぞ」
『...なんで僕の所に専門学校の推薦状が来るのさ』
「俺が顧問に頼んだんだよ。俺...お前らと離れるの嫌だから」
こういう展開は少し予想はしていた。
何故なら、いつもは消極的な瑞樹が、自分から彼と同じ学校に行きたがっていたからだ。
それを拒絶する気も断る気も無い。だって僕は瑞樹の〝影〟だから...。
「にしてもお前、よく耐えられるな」
『なんのこと?』
「ほら、俺や先生と居る時は普通に名前(弘樹)呼びなのに、クラスに馴染んだ途端瑞樹の名前で統一されてるからさ。...暴露しても良いと俺は思うけどねぇ」
『そんなこと出来ないよ。交代人格の僕は所詮瑞樹の〝影〟だから。それに、もし僕らが二人だってことを言ってみんなが僕らから離れたらどうすんのさ』
「放っておけばいい。お前が二重人格だからって離れるようなヤツ等は、所詮はその程度の連中だ。お前が気に病む必要は無い。アイツ等がいくら離れて行こうが、お前には俺が居る。お前らは一人じゃない」
『...そう、かもね...』
頭を撫でてくる彼の手に温もりと心地良さを感じながら、ふと意識が遠退いた...。
「ありがとね、コウちゃん...♪」
「機嫌良いな、瑞樹。良い夢でも見たか?」
「ん~、内緒♪」