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VRMMO体験談

英知溢れる、偉大なる、暇人の泥棒どもの末路

前回の、鉱山での攻防に続く、VRMMO小説である。登場人物は共通しているが、話の繋がりは特にないので、読まなくとも構わない。

 ウィジーが顔を出さなくなってしばらく。俺たちは変わらず、退屈していた。三人になった俺たちはますます逃げ帰るか、死んで帰るかする事が多くなり、人狩りに行くよりも、日がな一日アホみたいにポーカーをやるばかりだった。


このウルスラオンラインのポーカーでロイヤルストレートフラッシュを出すと、親側に少しづつ蓄積される控除金が一気に支払われる。それに気づいてから、俺たちはひたすらに身内でポーカーをやっていた。控除金は引かれるが、大した額ではない。ガンズが言う。おい、ジャックポットが百万デナルを超えたぞ! そしたら、俺達はなけなしの小銭を持って賭場に行った。ガンズは五度ジャックポットを当て、俺は三回、ジッグスは二回当てた。


金は出来た。しかし、装備を売り買いするコネがなかったので、相変わらず貧弱な武装で、負け続きだった。金が出来て起こった一番大きな変化としては、チームの拠点だった家が一等地に移り、格段に広くなった。ステキなお家作りに興味があるのはジッグスだけで、奴は喜んでいた。俺はいかにも無頼である事を演出するために、酒瓶の配置に心血を注いだ。そして理想の配置を見つけた時、ステキなお家作りに飽きた。


そんな時、新しいサーバーがオープンする話が上がった。このサーバーより更にハードコアなサーバー、という触れ込みだった。


最初にガンズがそのサーバーにログインし、興奮した様子で戻ってきた。おい! あのサーバー、閉錠のスペルがない! 


閉錠のスペルとは何か? 家の中に、タンスや木箱、物を収納する箱を置くとする。それに唱えるスペルだ。それはまったく魔法が使えないキャラクターでも使え、それを唱えられた木箱は、どれほど鍵を開ける事に才のある盗賊でも、どれほど偉大なる魔法使いの解錠のスペルでも、開けることが出来ない箱となった。


それが、ない。どういう事かわかるか? ジッグスと俺もガンズに続き、新しいサーバーにキャラクターを作った。


新しいサーバーでは俺は樵となった。ジッグスは大工、ガンズは鍵屋。ああ、もうわかるだろう。


大体の家は、玄関の鍵が開けっ放しだった。固定のスペルは存在したからだ。


固定のスペルは、家に家具を固定するためのスペル。これも閉錠のスペルと同じく、まったく魔法の使えないキャラクターでも使えた。それを使うと家具はピッタリ地面に固定され、どんなに力のある戦士でも動かす事はできない。


それを使って、机なんかを横に並べ、箱と玄関を隔てた。これで自分の財産は、完全に安全だと言わんばかりに。


ああ、ありがとよ。マヌケ共。俺が木を切って、ジッグスに渡した。ジッグスはスツール(バー等に置いてある足置き)をいくつも作った。もし玄関のドアに鍵がかかっていたら、ガンズが開けた。もし箱に鍵がかかっていても、ガンズが開けた。俺たちはスツールを足場に、机を乗り越える。そして、箱の中身をまるっきり頂く。


痛快だった。百軒か、二百軒、同じ手口を使った。俺たちは三日で一等地に豪邸を建て、その中で三人で笑った。家具も大体は、その、戦利品だった。


ある日のこと、俺たちは豪邸が立ち並ぶ区画に出る計画を立てていた。そこには木が生えていないので、いつもと同じように現地調達、というわけにはいかない。荷馬を買って、山ほど木を乗せてやる作戦に決まった。


ふと気づくと、何人か家の周りに人が集まっていた。俺たち三人は、俺が出していた、いわゆる、戦利品を売る店への客かと話しあった。(まさしく、泥棒市! )


しかし、どうも様子がおかしい。ジッグスが様子を見てくる、と外に出ると、すごい勢いで攻撃魔法の集中砲火を浴びた。瀕死の状態で帰ってきたので、俺が手当してやった。どうも、ただごとじゃないぞ。


家の周りを取り囲む人数が増していった。その内、誰かが俺たちの家に、欠点が有ることに気づいた。ジッグスが設計した家だったのだが、柱を一本入れ忘れていた。そこから中に魔法生物を入れられるようになっていた。


家の中にどんどん魔法生物が溢れだし、俺達を攻撃する。俺とジッグスが解除魔法を唱えるが、とても追いつかない。少しでも柱の抜けに近づくと、攻撃魔法が飛んできた。俺たちは自分たちの経験から、戸締まりはしていたので、押し込みに入られる事はなかった。


こりゃダメだ。どうする、ガンズ? 俺が聞いた。ガンズは落ち着きはらって、ゲートスペルを唱えた。孤島に建てといたセーフハウスだ、早く入れ! 流石は我らがリーダー! ジッグスが言い、ゲートに飛び込んだ。俺も入り、最後にガンズが入った。


移動先は小さな家だった。俺たちはひとまず、家の中に飛び込んだ。


とんでもない目にあったな。と俺が言った。ジッグスも同じような事を言い、柱が抜けていた事を詫びた。俺とガンズは許した。スリルがあって良かったよ。


いずれはこうなるとは思ってた。拠点の引っ越しをせにゃならん。ガンズが言った。俺とジッグスも同意した。ガンズが荷馬を繋いでおいた所へのゲートスペルを唱え、俺が二頭、ジッグスが三頭、セーフハウスへ連れ戻った。


そしてしばらく、ほとぼりがさめるまで時間を潰す事にした。俺は煙草を吸い、ガンズはメシを食べていた。ジッグスは俺とガンズに今後、セーフハウスに施すインテリアの方向性を語っていた。


一時間か二時間たってから、ガンズが元の家へとゲートを開き、まず俺が入った。誰も居なかったので、二人に通信宝珠でそれを伝えた。そしてジッグスが来て、ガンズも再びゲートを開くためについてきた。


戦利品は荷馬を五頭、男を三人使っても、二往復はしなきゃいけないほどあった。現金はもちろんだが、一級品の武具、馬鹿みたいに高い絵。まさしく山のようにあった。これが、元のサーバーにありゃ、俺達も勝てるかもしれないのに。


二往復目、俺たち三人がセーフハウスへのゲートを潜ってすぐ、見知らぬ奴が居た。おい、誰だ? 俺が言う。そいつは何も話さなかったので俺たちも無視して、セーフハウスに入ろうとした時、ジッグスが叫んだ。こいつ、さっきの奴らの一人だ! その瞬間六人か七人、馬でかけてきて、俺たちを一気に攻撃した。俺たちは"仕事"で使うスキル以外のスキルも、ステータスもほとんど上げていなかったので、なすすべなく死んだ。


俺たちは幽霊になり、話し合った。どうしてセーフハウスの場所が? ガンズが言った。ステルスを使える奴が着いてきてたのかもしれない。俺とジッグスは納得し、その日はひとまずログアウトした。どうせ、また仕事すりゃ良い……


翌日ログインすると、様子が違っていた。俺たち三人とも、地下牢に閉じ込められていた。ガンズが言った。こりゃ、説教部屋だ。


説教部屋とは、要するに、悪質なプレイヤーを閉じ込めておく空間である。ただ、このアンダーグラウンドサーバーでは、まず使われる事はない。


つまり、何の事はない。セーフハウスの場所がバレた理由は、俺たちが仕事した家の中に、サーバー管理者がプライヴェートで遊んでいた家があったらしい、というだけの話。俺たちは知らずの内に、まさしく、パンドラの箱を開けていたわけだ。


地下牢には、目もくらむほどの金と、財宝が積まれていた。俺が一つ、手に取ろうとすると、固定のスペルがかけられていた。


そして、壁に看板がかかっていた。看板を一瞥すると、文字が浮かび上がった。


"この財宝と部屋を、英知溢れる、偉大なる、暇人の泥棒どもに捧ぐ。"


俺たち三人は爆笑したが、俺は同時に虚しく感じた。結局、俺たちは、誰かの箱庭で暴れる、蟻でしかなかった。誰かのルールに従って動くかぎり、そのルールの外に出る事は許されなかった。


俺たちはログアウトした。その後俺は、新しいキャラクターを作り、一番安い家を一軒、空き地に建てた。閉錠のスペルを唱えると、どれを閉錠しますか? とメッセージログが流れた。そして、俺はまたログアウトした。

俺の好きなアメリカ文学っぽい、刹那的な感じになったので、よくかけたかなぁ、と思う。少し、稚拙な気もするけど、まぁ、上等だろう。

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