突然の乱入
俺はしばらくの間、衝撃で思考が停止していた。というか、
自分のうちの二つあわせて2600円のガラス窓が割られたことと、
そしてなにより全身黒づくめの鎧のようなものを着た
フルアーマー装備の三人ほどの人間が侵入してきたことの二つの理由があった。
…あまり考えたくはないが国家機密の事で動きそうなごつい格好で、
ましてやわざわざ窓ガラスを割って突入してくるやつらといえば特殊部隊ぐらいしかいないだろう。
いや、もしかしたら外で大変なことが起こっていて、
俺を救助しに来てくれたのかもしれない…と俺はやけに前むきな妄想をしてみたが、
「腕を後ろに組んで、一切動くな!動いたら撃つぞ!」
と怒鳴りながら銃らしき物をつきつけてきた。
残念ながら外れだったようだ…
大人しく腕を組む。しかし、なんでうちなんかにくるのだろう…泣きたい。
「よし、このまま大人しくしていろ。行くぞ。」
俺は一体、どこに連れて行かれるのか、できれば後一回家族に会いたかった…
と辞世の句を読み上げていると、
わざわざご丁寧にまだ割れていないほうの窓ガラスを割って、黒い影のようなものが入ってきた。
俺は今起こっている身の上の惨状に加えて、さらに厄介ごとを抱え込めるわけもなかった。
そしてこの状況で脳の許容量を軽々と超えたため、
「わざわざ割れてないほうから来るなよ!修理代高いんだぞ!」と叫んでしまった。
(思わず見当違いのキレ方をしてしまった。)
泣きっ面に蜂のこの状況で、いきなり飛び込んできたそれは、
いきなりさっきの特殊部隊に蹴りを浴びせた。
もしかして味方なのか?
驚くと同時に、その人物をしっかりと観察してみると、
ゲームや映画で出でくる潜入服のような物を着ていて、
頭には顔を保護するためのごついヘルメットとマスクをしている。
さらに
「喰らえ!マジカル★ファイヤー!
とその手で握り締めていた
ハートマークになにやらステッキのようなものが下にくっついている物を振りかぶりながら、
何かとてつもなくイタいことを言いながら突撃した。
訂正、ただのおかしな奴だ。
自分で勝手に格付けをしたその謎のイタイ人物を
かなり低い位置に直していると、
ボウッ!ゴオオオ!
とさっきのステッキらしきもののハートマークの先端部分から赤い光が出てきたかと思うと、
猛烈な風とともに、巨大な炎の塊が、特殊部隊を襲った。
「え、マジで?」
おそらく、今も叫び声をあげる男たちを見ながら、
自分でも目の前で起きたことが信じられず、アホみたいな声を上げてしまった。
まさか、こんな小説や漫画、
はてはアニメぐらいでしか見たことがないような夢のようなことが起きるとは、
そして惜しむらくはそんな貴重な場面が
自分の絶対絶命のときに、しかも潜入服着た怪しいヤツがだしたことだが。
いろいろありすぎて、座り込んだまましばらく特殊部隊の残骸を見ながらボーっとしていると、
その不審者がいきなり
「おい、影木。ここは危険だ。早く行くぞ。」と声をかけてきた。
いつ、どこへ、何をするのか、よりも先に俺がその声に反応して返した言葉は、
「いや、まず、あんたは何なんだよ!」
まずは、"だれ"であった。
「おいおい、ひどいな。全く、あんなに十何年間も世話してやったのによ。」
と堅かった口調を急に軽くしながらを身に覚えのないことを言ったので、
「いや、俺はあんたみたいなおっさんに十何年間もお世話された覚えは全くない。」と反撃、
「うわぁ、この高校生再会したとたん暴言吐いてきたよ、こわいわー最近の高校生こわいわー。」
うん、やっぱりこんな奴に育てられた覚えはない。
「ええー、これでも気づかないのか?ほら、この声、見覚えあるだろ?」
と少しマスクをずらして話をする不審者A。
まあ、たしかにこんなようなのは聞いたような…いや、待てよ、まずいろいろと疑問点をすっとばしても、この人がいる意味がわからない。
でも、いうだけの価値はあるはずだ。とまずいないであろう人物を仮定として出してみる。
「親…父?」
できればあっていてほしくないこの仮説を、
「ピンポーン!正解、正解~」
ヘルメットをはずしながらこの男、いや、
「父さんです。」
このクソオヤジはあっさりと破り捨てた。