ⅷ.【ダルシャンの洞窟には…】
他の火竜の存在も忘れて、ダルシャンと“心の中で語りかける会話”を続けた甲斐あって? 声を出さなくても、違和感なく会話できるようになった。これなら、他の竜達との会話も問題ないね! …存在忘れちゃってたけど…。会話に付き合ってくれるかな…?
と思っていたら、私とダルシャンが、ずっと一カ所に留まっていることが気になったのか、再び火竜達が集まってきた。火竜達の第一声は…。
【そなたらはこの地を巡りに来たのではないのか? なぜ、動かぬのだ?】
だった。うん、そうだよね。当然の疑問だよね。“心の中で語りかける会話”に夢中になってたなんて、恥ずかしくて言えないね。
【これまでリイは声を発しての会話しかしていなかったのでな。念じるだけで会話できる感覚が面白いと言って、我とずっと話しておったのだよ】
だぁっ! ダルシャン! それ言っちゃう? 言っちゃうんだね?! …竜は正直だよね、うん。こんな小さなことで恥ずかしいとか思わないよね…。気にしちゃ負け! 気を取り直して自己紹介しよっと!
【…みなさん、はじめまして。リイと言います。ダルシャンとは、ダルシャンが界渡りをした先の世界で出会って、友達になって。話を聞くうちに、ダルシャンの住んでいた世界が気になって仕方なかったので、連れてきてもらいました。よろしくお願いします!】
つ、通じたよね? ダルシャンにも通じたんだもの。ね…?
【あぁ、そなたのことはダルシャンからも聞いておる。そなたは、偉大なる覇者ダルシャンが認めた者、我らも認めよう。好きなだけ、見て回るがよかろう】
【ありがとうございます!】
他の竜達とも挨拶を済ますことができた。じゃ、そろそろ動こうかな! まずはダルシャンの洞窟だね!
ダルシャンにそう伝えると、私が乗りやすいよう翼を下ろしてくれる。ダルシャンの背に乗って、準備は万端。飛び立ったダルシャンが向かうのは、竜の住処の中でも1番上に位置する場所。やっぱり王様は1番高いところに住むのが定番?
あっという間に洞窟の入り口に降り立ったダルシャン。ダルシャンの背から降りて下を見下ろすと…そこは、自分では絶対登ってこれないような切り立った岩の上。洞窟の前にはダルシャンが降り立つのに充分な広さがあるから、私にとってはかなり広いんだけどね。だから、洞窟から飛び出たからって、崖っぷちまでは距離があるんだけど…出入りは慎重にしようかなと思う。ダルシャンの背に乗って高いところを飛ぶのは平気でも、これはまた別問題…!
洞窟の入り口はダルシャンが通るのにちょうどいいサイズ。中に入ってみると、空間はさらに開けていて。奥行きもかなりのものだし、中はいくつかの部屋にも分かれていた。1番奥の部屋はダルシャンの財宝置き場なんだって。私なら見ても良いって、見せてくれたけど…金銀財宝の山っ! これもドラゴン図鑑に書いてあった情報と一緒だね。竜は金銀財宝が好きなんだ!
ダルシャンが寝起きするのは、その財宝置き場の前の部屋。財宝の番人? でも、ダルシャンが居ない時は放置? ってことはなくて、ダルシャンが居ない時はちゃんと魔法で護られてるんだって。ダルシャンを上回る力の持ち主が入り込めば奪われる可能性はあるけど、今のところそんな存在は居ないから、安心して界渡りしてまでの旅に立てるそうだ。
他の部屋は全部空いているみたいで、どの部屋を使っても良いって言われて選んだのは、入り口に近い部屋。奥の方だと自然の光が入ってこないし。そこに私の荷物と、寝袋の下に敷くのにちょうどいいと思って採取してきた藁っぽい植物を出してもらう。これで寝床は整ったし、必要な荷物も取り出した。会話に夢中になってたのもあるけど、結構な時間が過ぎてて、洞窟の部屋の中で落ち着いた頃には、すでに夕方。今日は降り立ったところと、この洞窟しか見てないなぁ。ほんとにゆっくりペースな冒険になってるなと苦笑い。でも、明日からはちゃんと見て回る! 予定…。