Ⅰ.【このタマゴは何のタマゴ?】
学校の帰り道、私は今日も一冊の本を片手に、うちの裏山にある神社に向かう。その神社で不思議なタマゴを発見したのが一週間前。それからいろいろな本で調べたけど、結局なんのタマゴかはわからずじまい。
そんな私が今持っているのは、ドラゴン図鑑。なんでドラゴン図鑑かって? タマゴを調べる為に通った図書館で、気づいたら手にしていたんだ。で、ためしに読んでみたらドラゴンのタマゴの絵も描いてあって。私が神社で見つけた不思議なタマゴは、ドラゴンのタマゴなんじゃないかって思えてきたわけ。もちろん、まるっきり同じタマゴが描かれているわけじゃない。でも、なんとなく雰囲気が似ているんだよね。色とか大きさとかね。
そんなわけないって? 私だって現実的じゃないのはわかってる。ドラゴンなんてファンタジーな世界の生き物だし、そのタマゴが普通に神社に転がっているなんてあり得ないなんてこともね。でも、もし本当にドラゴンのタマゴだったら? って想像を膨らませる方が、素敵じゃない。きっと周りの皆に言っても残念な子を見る目でみられそうだし、これは私だけの秘密なんだ。
この神社はいつ来ても人の気配がない。小さい神社で、神主さんも常に居るわけじゃない。だから、心置きなくタマゴを観察できるんだよね。ラグビーボールくらいの大きさのタマゴは、鮮やかな紫色をしている。
今まではじっと観察するだけだったけど、一週間経っても変化は見られなかった。今日は思いきってタマゴを抱き上げてみようと思ってる。温めるってわけじゃないけど、動かしてみたら新しい発見もあるかもしれないでしょ?
さて…目の前のタマゴは、やっぱり全く変化なし。さぁ、いざっ! 大きさ的にかなり重たい可能性もあり得ると、気合いを入れたんだけど、実際抱えてみるとそんな重たいわけでもなく。でも、おもちゃのように軽いわけでもなく。そして、抱き抱えたタマゴからは…鼓動が聞こえてきた。
鼓動? やっぱり本物のタマゴなんだ! 驚き半分、嬉しさ半分ってところかな。ずっと抱き抱えているわけにもいかないし、そーっとタマゴを地面に置こうとしたのだけど…。置いた瞬間…ピリッ…タマゴにヒビが!?
やばっ! 衝撃与えちゃった? どうしよう…。と、私が狼狽えていることには御構い無しに、タマゴのヒビはどんどん大きくなっていって。ついに、タマゴから命が誕生した。
赤い小さなドラゴンが・・・!
『本当にドラゴンだったんだ』とか、『産まれたての赤ちゃんって、ドラゴンでも可愛いっ』とか、いろいろなことが頭を駆け巡ったけど、これも強く思った。『あんなに鮮やかな紫のタマゴから産まれたのに、赤いドラゴンなの?!』と。
そんなことを考えていると、ドラゴンからの視線を感じ、私もドラゴンを見つめる。すると、ドラゴンもじーっと私を見つめ返してきて。『ドラゴンの赤ちゃんにも“刷り込み”ってあるのかな?』そんなことを思いながら、暫く無言で見つめ続けた頃、ふいに頭の中に声が響いてきた。
【我は火竜。我を目覚めさせたのはそなたか。そなたは我に何を望むか】
え? このパターンって、よく物語でありがちな? 願いを言って叶えてもらう感じなの? ドラゴン…いや、火竜か。すごい! 私…竜と言葉が通じてる!
「えっと…? 私は梨衣。人間よ。私は…あなたと友達になりたい!」
【フハハッ。我はこれでも火竜の王ぞ。今はこのような姿をしておるがな。その我と友になりたいというか】
「王様なの?! で…でも、やっぱり私はあなたと友達になりたいと思う!」
【そうか。それでは、そなたの願いを叶えるとしよう。しかし、友を持つのは久方ぶりでな。我は何をすればいいのだ】
「何かしないといけないなんてことはないよ。友達だもの。ただ、お喋りしたり…一緒に遊んだりするの」
【そうか。しかし、この世界では竜はすでに絶えたようだな。波動をまったく感じることができん。我がこの姿で動き回っては問題があるのではないか?】
「そ、そうだね。竜はこの世界には居ないし…って! あなたはこことは別の世界から来たの?」
【ああ、そうだ。我は、我が世界では覇権も握り、ちと暇を持て余したのでな。世界を渡ったのだ】
「すごいっ! こことは違う世界には竜が居るのね! そうだ! まずはお互いのことを知ることからよ!」
【我は長い時を生きている。語るには時間がかかるが、時間は有り余るほどあるのでな。ゆっくり語り合うとしようか】
「うんっ!」
こうして私と火竜は出会い、友達になったんだ。