お前のせい
1000文字くらいで終わると思っていたんですが、終わりませんでした。
学校の僕のクラスに飾ってあった花瓶がロッカーから落ちて割れてしまった。
「あ、やば」そう思ったときには既に、がちゃんという大きな音がしていた。そのときはちょうど休み時間だったのだけど、女子とかが一斉にその割れた花瓶の音に反応して僕の方を振り返った。
それまで騒がしかった教室は一瞬で算数の先生がブチギレた時のように静かになった(しかも運の悪いことにそれは、二時間目の休み時間だった。二時間目の休み時間っていうのはほかの休み時間よりも若干長いのだ。いつもは嬉しいこの時間を僕はこの時ばかりは恨んだ)。
みんな割れた花瓶を見て、その後一連の動きのように僕を見た。スイッチを押したみたいだった。そして僕を見る目は最初は何の感情も宿していなかったけど、それがだんだんと変わっていくのを僕ははっきりと見た。魔女狩りっていうのはこういう感じなのかもしれない。僕はそう思った。そう思ったら今度は下腹部が痛くなった。下腹部が痛くなると今度は冷や汗が額から出てきた。スイッチみたいだった。もしくは理科の直列回路の実験みたいだった。
「・・・えんえんえん・・・」
一人の女子が泣き出した。
その女子はさつきという名前のやつだ。
そして、その花は自分ちが花屋のそのさつきが持ってきていたものだった。
「・・・えんえんえん・・・」
さつきの泣き声だけがクラスに響いた。
僕は咄嗟に何かウィットに富んだことを言ってその場を和ませないといけないと思った。でも言葉は一切出てこなかった。冷や汗ばかりが出た。そして僕からさつきの姿も見えなくなった。さつきを庇う女子が出現したからだ。その目はまるで僕がSARSを持ち込んだみたいな感じだった。あるいは鳥インフルエンザ、狂牛病、今で言えばデング熱かな・・・。
花のことなんて僕にはわからない。一切わからない。それよりもサメとか鯨とかクラゲとかの方が好きだ。でも、さつきのことは少しは知っている。さつきはおとなしい子だった。なんかちょっかいをかけるとすぐ泣いてしまう。そういう子だった。
「・・・えんえんえん・・・」
さつきは泣いていた。
僕は黙っていた。
僕を見る女子の目は恐ろしかった。
「光る眼」みたいだった。
昼休みのことだ。
先生に職員室に呼ばれた。僕が職員室に入って先生の元に向かうと、先生はニヤニヤしていた。
「けんた、お前やっちゃったねえ」
先生は言った。みんなの前では僕を叱った先生だったが、今は怒らないでとりあえずニヤニヤしていた。
「はい・・・すいませんでした・・・」
僕は僕で憔悴していた。
「しかし、女子たちっていうのは怖いなあ?」
先生はニヤニヤしたままそう言った。
「・・・はい、そうですね・・・」
「ともかく誰にも怪我は無いようだし・・・まあ、けんたよ?確かにお前のせいだとしても、生きてりゃそういうこともあるもんだ」
「・・・はい」
僕は終始下を向いていた。
「よし、じゃあ今後は気を付けるように」
先生の声はそこだけは、ちゃんとした感じだった。先生だった。
「・・・はい・・・すいませんでした・・・」
「おっと、謝るのは先生にじゃないだろう?」
しかし、その声はニヤニヤしていた。
学校が終わってから僕は急いで自分の家に帰った。そして家の自分の貯金箱から500円を出してすぐにまた家を出た。
さつきの花屋は駅前の商店街の中にある。
さつきはちょうど店の手伝いをしており、そのとき店先にいた。
僕はその花屋を角の電信柱の影から見ていた。
立ち止まったら進めなくなる。それがわかっていたはずなのに、僕の足は止まってしまった。なんという足だ。ここぞという時に使えないじゃないか。僕はそう思った。
「ほら、早く行きなよ!」
僕の背後から声が聞こえた。
「うるさい!」
僕は言った。
「なんのためにしてあげたと思ってるの!早く行きなよ!」
「そんなことだれが頼んだっ!だれがっ!?」
僕は叫んだ。
「だって、見ててイライラしたんだもん。あんた何?奥手気取ってんの?それとも紳士気取ってんの?バカ野郎っ!100年早いわ!」
「馬鹿はお前だっ!」
僕は僕の後ろにいる奴に言った。
僕の後ろには精がいる。精霊だ。なんの精霊かは知らない。でもいる。そして花瓶を落としたのはこいつだ。
以前僕が「何?守護霊?」と聞いたことがあるけど「んなもんいねーよ!」と言われた。「じゃあ何?」僕が聞くと「お前の精だ」こいつはそう言った。だからそうらしい。僕の精らしい。
「テストの答えとか教えないくせになんで、こういう面倒なことばっかりやるんだ!」
「ヌケサク!それはカンニングだろうが!」
「お前は頭が狂っているのか!」
「うるさい!早くいけ!この腰抜け!」
僕の精は僕の背中を思いっきり押した。僕の体はなすがままに電柱の影から飛び出した。
その瞬間さつきが僕の方を見て、僕としっかり目があった。
額から脂汗が出た。
僕は奥歯をグッと噛んでさつきのいるその花屋に向かった。
僕のせいだ。本当は僕の精のせいなんだけど、でも、それは僕のせいだ。
全く、なんて迷惑な話だろう。それに、なんておせっかいな精なんだろう。
僕はそう思った。
『こんな奴今時いねえ』って姉に叱られました。




