謎解き
扉をあけてすぐ、独特のにおいが鼻を突いた。
金属の匂い、埃の匂い、そして何より油臭い。
「悪いね散らかってて」
「なんか家ってより工場に近いね、ここ」
「まぁそんなもんだ、寝る以外は機械いじってるだけだし」
お世辞にも広いとは言えない石造りの建物、その床には見渡す限り、機械と工具。
僕も年頃の男子だ、なんだかわくわくするし素直に憧れる。
「俺ちょっと本読ませてもらうからさ、そこらへんでくつろいでて」
「えっと、くつろげそうにないし掃除でもしててもいい?」
「お、いいの?サンキュー」
ダレンが本を読んでいるのを横目に僕は掃除を始めた。
これも昨日のお礼の一環だ。
それに真剣な表情のダレンは誰よりも頼りになる。
邪魔しないようにしよう。
いい感じにくつろげるスペースは確保した。
一体君はどこで寝ているんだ。
「なぁアベル」
部屋の隅から現れた虫と格闘しているとき、ダレンは僕を呼んだ。
「どうしたの?」
眼鏡をかけたダレンは呆れたように僕を見た。
何か問題があったのだろうか。
「正直に言う、こりゃ無理だ」
「ど、どうしてさ」
「焦る気持ちはわかる、でも少し落ち着いて考えろ」
「でも」
「いいや、でもじゃねぇ。まず一つ、俺が地図を持っていなかったらお前はどうやって場所を知るつもりだった?」
「え、いやそれは・・・」
「二つ、お前は読んでないかもしれないけど図書館には監視がいる。魔女の血がどうとかの前に図書館までたどり着けんぞ」
「・・・」
返す言葉もない、僕は何も考えていなかった。
「この三つの文字、アベルの姉さんの字で間違いないか?」
「う、うん、それは確実だよ」
「この言葉がお前に向けたものだという証拠は?」
「・・・」
「姉さんが僕にくれたものだから僕に向けたメッセージだろう、なんて思ったんだろうがよ、ただのメモ書きか落書きだって可能性もあるぜ?」
「でもエドさんがくれた紙を使って出てきた言葉だし・・・」
「いやそれは良いとして、結局図書館に入れないだろって話だ。何かあるのは間違いないと俺も思う。なんせそのエドさんってのがくれた紙に書いてある文字と、アベルの姉さんの文字は筆跡が一致する」
「・・・じゃあどうすれば」
「にっひひ」
なぜだかダレンは不敵な笑みを浮かべる。
姉さんの本、魔女学校の地図、エドさんがくれた紙を順番に見て、不意に立ち上がった。
「おっもしろくなってきがったな!!」
「え?」
ダレンの意味不明な行動に思わず声が裏返る。
「よっしゃ、俺様が何とかしてやろう」
「な、なにか思いついたの?」
「いや、まだなんにも」
「あんなに大きな声出しといて?!」
「わからんねぇことがたまらなく楽しいんだなぁこれが・・・」
君が頭脳明晰な理由がわかった気がするよ。
底なしの好奇心と、異常なまでの行動力。
君に頼ってよかったと思う。
「すまんがもう少し時間をくれねぇか、たぶん今日中は無理だけど、何とかやってみせっから」
「わかった、君になら任せられるよ!」
「とは言ったものの一人じゃちょいとめんどいから、アベルはパシリな」
・・・せっかくかっこよかったのに、なんで重要な時に緩むんだ君は。
「ぱしりって何すればいいのさ」
「掃除、洗濯、食事の準備、とか?」
「僕は家政婦か!?」
「いや冗談だ」
「あぁ・・・そう」
なんだか掃除しかしてないのに疲れたよ、ダレン・・・。
「色々集めてほしいもんがあんだ、ちょっと待ってな」
ダレンはまた机に向かい、必要なものを箇条書きにした。
たまにしか学校来ないから気づかなかったけど、勉強するときはこんなに真剣な顔するんだなって思った、