残したモノ
~アレン 自室~
(あんなに、あんなに魔法を、クリッシーさんを愛していたのに。あんなに冷たい目になっていた。僕も、あんなふうになってしまうのかな)
今日はいろいろありすぎた。
エドさんは魔女側も戦いの準備を始めているといった。
もう、止めることはできないのだろうか。
ふと姉さんが恋しくなった、自分の心の幼さが憎い。
こんな状況、こんな時代でも、さみしい物はさみしいんだ。
姉さんがくれた魔法学の本を撫でて、ため息をつく。
「ん?」
見慣れた姉の本に、なにか違和感があった。
~翌朝 魔女区と工業区の狭間 ダレンの家~
(住所は聞いてたけれど、ほんとにこんなところに住んでるんだ)
こんなところというのも、ここはほとんど人がいない場所でそもそも居住区じゃない。
魔女派と機械派の人々が騒動を起こさないように、この国は同じ国でありながら大きく二つに分裂していた。分裂したのは20年ほど前のことらしい。それより前はなんの問題もなくここにも人が住んでいたらしいが、小さなもめごとが絶えず、立ち去る者が相次いだ。今では狭間なんて呼ばれてる、建物はそのままのものが多いが、もぬけの殻だ。かつての平和を、分裂の始まりを思い起こさせるここは、人々に忌み嫌われていた。
―コンコン
「ごめんくださーい」
返事がない、困った、留守かな。
―コンコン
改めてノックをする、周りに生き物の気配がない。
虚しく響くノックの音がなんだか怖く感じた。
「・・・・誰だよ・・・こんな早くに」
ドアが開き、見慣れた友人の姿がそこにあった。
それにしても寝てたのか、だらしない。
「ダレン、僕だよ・・・それにもうお昼だよ?」
「あぁなんだ、ただのアベルか。知ってるか、寝る子は育つんだぜ?」
彼の雰囲気は僕の不安を和らげてくれた。
「君は少し寝過ぎだよ・・もう。昨日のお礼言いに来たんだ、はいこれ」
「おお、上手そうなパン!さすが俺の親友だな!!」
「ガルさんにもお礼を言いたいんだけど、いるかな?」
「いねぇよ、こうひょうむらのひょくいんはふみこみではちゃらいて」
「飲み込んでからでいいよ、じゃあ君は一人暮らし?」
「ん、おう。たりまえよ。こんな時代だ、珍しくないだろ」
工廠村の職員のほとんどが住み込みで働く。
女、子供は立ち入り禁止、当然そうなる。
母、兄弟のいないものは必然的に一人暮らしだ。
ひどい父と思うだろうか?
この時代ではそれほどに職人の価値が高いという事なんだ。
(親友だなんて言ってるけどお互いのことあんまり知らないな・・・それこそこんな時代だし珍しくないか)
「昨日は相当大事な用だったんだな?」
「まぁ、ね」
(知ってはいけないことな気がする・・でも知っておきたい・・・)
「おい、大丈夫か?昨日から表情が暗い」
「ダレン、頼みがある」
「んお?なんだよ最近は俺に頼りっぱなしだな!にゃはははは」
今日ここに来た本当の目的は別にあった。
もちろんお礼を言うのも大事な目的だけど、大事な頼みごとがあるからだ。
「おっと、その顔じゃ笑い事じゃないな」
「うん、魔女学校の図書館に侵入したい」
「な!?なぁにバカなこと言ってんだお前は・・・」
バカなことと言われても仕方ない。
でも確かめなければならないことがある。
エドさんが僕に伝えようとしたこと、姉さんの残した物を知りたい。
「お前な、いくら俺さまだからって魔女学校のことはあまり知らんぞ」
「そうじゃないんだ、君の知識に頼りたいってのもある、でも違う」
「んー?話が読めん」
困った顔のダレンは珍しいな。
でも僕がそれだけおかしなことをいってるんだ。
「魔女学校の図書館に何か大事な秘密があると思うんだ」
「何か?あるとおもう?そんなあやふやな・・・大体あんな辺鄙なところになにがあるってんだよ」
「辺鄙なところ?なんでそんなこと知ってんのさ」
「ん?俺は母さんの本読んで知った」
「それって、もしかしてWitch Diary?」
「お、よく知ってるな!それになんと魔女学校の地図が挟まっててさ」
「!?・・・やっぱり君に頼んで正解だった」
ダレンの頭の上には?が三つくらい浮かんでいた・・・様な顔をしていた。
「君のお母さんは上位魔女だったんだね?」
「あぁ?いや、わからんが、そうなのか?」
「君に協力してほしい」
「いやそれはさっき聞いた」
「魔女の血が、必要なんだ」