友人と工廠
彼を追っていたら、いつの間にかこんなところまで来てしまった。
ここは工廠村と呼ばれる区域で、機械及び兵器を生産するための建物が集まっている。子供はもちろん女性や老人も立ち入り禁止の区域だ。
物々しい外観で、村からは黒い煙が立ち込めている。
お世辞にも清潔とは言えない。
工廠村まで来ちゃったよ・・怒られるよな。
しかも今は状況が悪い、魔女区の子供が来たなんて知られたら、大変だ。
ここは諦めて帰るしかないのかな。
「おい、アベルじゃねえか、どこ行くんだ?」
背後から声をかけられ、背筋の凍る思いをする。
最悪だ、知り合いに見つかってしまった。
これは休学も覚悟しないと・・・。
恐る恐る振り向き、すぐに言い訳しようと思った。
「なんて顔してんだ、俺だよ」
「・・・なんだ、ダレンか。驚かせないでよ」
良かった・・・。
そこにいたのは同じ学校の同級生、比較的によく話す友人だった。
いつも学校に来ない問題児だけど、学力の高さは学校一だ。
「まさかアベル、工廠村に入ろうってんじゃないよな?」
「そ、そんなわけないじゃないかぁハハハ」
声が裏返ってしまった、僕は昔から嘘が下手だ。
あの人に話が聞きたい、でも今侵入するにはあまりにも時期が悪い。
「まぁお前みたいな優等生が入ろうとするわけないよな・・・」
「えっと・・・」
つい黙ってしまった、言い訳して早く帰らないと、えーっと、何て言おう。
「・・・顔に入ろうとしてましたごめんなさいって書いてあるぞ」
「え!?ち、ちがうって!」
「あんまり大声出すなよ、それに誰にも言わねぇよ」
入ろうとしてたのがばれてしまった。
正直ぎょっとしたけれど、いい友達でよかった。
「ありがとう、でも君こそこんなところでなにしてるのさ」
「ん?ここにはほぼ毎日きてるぞ」
「え?」
「言葉の通りだ、学校行くより7億倍楽しいぞ、ここ」
7億倍って、どんだけ学校嫌いなんだ君は・・・。
「ばれたら休学だよ?しかも毎日なんて・・・あ、だから学校こないのか」
「その通りよ、で、お前みたいなやつがここに何の用だ?」
いくら友達でも、言うべきではないだろう、言い訳して帰らないと。
「いや、迷子になっちゃってさ、はは」
「・・・わかった」
「なにが?」
「黙ってついてこい、言えないなら言わなくてもいい」
「ついて来いって、ばれたらどうすんのさ」
「俺がいりゃばれねぇ、それに俺がいなきゃはいれんだろ」
確かにこのまま一人で行こうとしても警備に引っ掛かって終わりだろう。
魔女区へ情報が伝わらないように以前より警備は厳重になってるらしい。
「アベルちゃんよ、分かってないねぇ。俺には最強の後ろ盾がいる」
「なんのことさ、いい加減なことは言わないでよ?」
「俺の父ちゃんがここの職員なんだよ、しかも結構偉い」
「え?で、でもじゃあなんで君、魔女区の学校に通ってるの?」
この国では親の職業、住所で子供の生活は大きく2つに分かれる。
魔女区に住めば魔女派になるし、機械区に住めば機械派になる。
親が魔女ならば人生を魔女区で過ごすことになるし、親が工廠村の職員ならば機械区で過ごすことになる。
特にそのような決まりがあるわけではないのだが、常識的そうなっている。
「俺の母親、死んじまってるけど、魔女だったらしいんだよ」
!?申し訳ないこと聞いちゃったかな・・・謝らなきゃ
「ご、ごめ」
「まぁこの最強天才な俺には関係ないけどな!?にゃはははは」
あぁこの性格で僕より成績がいいのが本当に恨めしい・・・。
「父ちゃんがさ、機械の事は俺が教えてやるからさ、お前は魔女区の学校に行けって」
「そっか、そうなんだ。」
とても珍しいケースだった。
機械派の人と魔女が結婚してはいけないなんて決まりはないんだ、でもこれまた常識的にほとんどないことだった。
「さ、行こうぜ、リーダーは俺だな、どう考えても」
「リーダーなんていらないよ、それより声大きい」
「侵入したらまず父ちゃんの工場に向かう、お前の目的は分からんがそれが1番いいだろ」
「・・・わかった」
覚悟は決まった、とにかく演説をしていたあの人に話を聞きたい。
僕にできることがないか、探したい。
それにダレンの協力がとても心強い。
「ついてこい、こっちに裏口がある」
足の速いダレンの背中を必死で追いかける。
空気が悪いせいもあり、ついていくのが大変だ。
―ドンッ
突然立ち止まる背中にぶつかってしまった。
鼻が痛い・・・。
「ここから先はかーどきーってやつがないと入れない」
「そうなの?じゃあここからどうするのさ、カードキーはあるの?」
「なんのために俺がいると思ってんだよ」
どうせ暇つぶしだろう、サボり魔
「あ、いま失礼なこと考えたろ、あーあせっかく開けてやろうと思ったのに」
「そんなわけないじゃないか、君は最高にいい友達だよ」
「分かってるじゃねぇか!にゃっはっはっは!!!!」
とても声が大きいよ・・・ダレン。
「俺の父ちゃんがさ、いっつもかーどきー忘れるんだ。だから機械の中いじって開けてるんだよ」
「・・・お父さんも忘れもの多いんだね」
「うるせぇ。でよ、毎日見送りにここまで来てる俺は」
「それをみて開け方を覚えたんだ」
「そういうわけよ、ちょいとまってろ」
ダレンはポケットから不思議な形のドライバーとレンチのようなものを取り出し、瞬く間に扉を開けてしまった。
―キィィ、ガチャン
癖になりそうな心地のいい音と共に鍵が開いた。
持つべきはいい友達だな、ひとりでそう納得した。
「その道具はお父さんからもらったの?」
「いいや、お手製だぜ、見よう見まねで作ってみた」
「そうなんだ」
なんて才能なんだろう。
「さて行くぞ、ここから一気に父ちゃんの職場に行く、それまではコソコソモードだ」
「仕事の邪魔したら怒られちゃいそうだな・・・」
「大丈夫だよ、父ちゃんは友達の頼みっていえば許してくれる、はず。それにお前みたいな優等生が工廠村に行きたいなんて、大事な目的があるんだろ?でも場所がわかんなきゃ仕方ねぇだろ。だから父ちゃんに聞く」
「なにも言えなくてごめん、ありがとう。君を信じるよ」
ダレンはいつもの笑顔で僕の方を見て、手のサインでついてこいと言った。