演説と困惑
「ハァハァ・・・もう、諦めるしか・・」
「何言ってるの!!まだあきらめられない、アベルのためにも!」
機械の鎧を纏った兵士が二人の女性を襲っている。
一人は・・・姉さんだ。
もう一人はクリッシーさん、姉さんの親友で、あの事故で亡くなったもう一人の女性。
本当の家族のように慕ってくれた、大好きな人の一人だ。
「あきらめろ、魔女は狩られる運命なんだ!」
―キャァァァァァ!!!!!
「はぁはぁ・・・夢か」
姉さん、なんで。なんで僕に何も言わず逝っちゃうんだよ・・。
あまり寝た気にはならなかったけど、朝は待ってくれなかった。
今日もまた、姉さんのいない1日が始まる。
僕の姉さん、シャーリン・クレスウェルは魔女だった。
魔女学校でも成績優秀で常にトップ争いをしていたそうだ。
魔女の先生たちにも気に入られ、周りの男性からも美人だと言われていた。
そんな姉さんが誇らしくて、大好きだった。
でもここ最近の姉さんはどこか変だった。
焦っているような、恐れているような、僕に分からない何かに追われているようだった。
それでも僕には優しく接してくれて、料理をしてくれて、抱きしめてくれた。
本当に、大好きだったのに。
あの事故、あの事故のせいで。
「まずい、もうこんな時間だ」
急いで着替え、昨日おじさんに貰ったパンを頬張り、家を飛び出した。
姉さんの死、一週間経った今でも信じられない僕がいる。でも、なにか引っ掛かるんだ。あの姉さんの顔、様子の変化。明らかに姉さんは怯えていた。
「本当に事故だったのだろうか」
僕は真実を知りたくて、魔女学校に行こうと思い、家を飛び出した。
ふと目に留まった人だかり、メインストリートのちょうど真ん中、街の中心にある広場でそれは行われていた。
「まず皆様に理解していただきたいことは、これからは妄想が創りあげた力、魔法や宗教の時代は終わりだという事。そしてこれからは、我々が築き上げてきた知能と、技術の集大成である機械の時代の始まりだという事です。その前提を理解したうえで、聞いていただきたい」
中心に噴水のある広場で、簡易的ではあるけど演説用のステージが用意されていた。
何人ものガードマンに囲まれたそのステージで、一人の男性が高らかに演説をしていた。
内容からして機械派の人だな、それに男の人ばかりだ・・・魔女区のど真ん中で演説するなんて。
気になった僕は立ち止まり、演説を聞くことにした。
「古代より魔法は女のみの力であり、我々男にその全貌を決して明かすことはなく、奴隷のように我々を扱ってきた。しかし時代は、そんな闇を抱えた力を必要としていないのだ!我々はこのまま魔法に屈していていいのか!答えは否である。
魔法とは文字通り、魔、つまり邪悪な存在であることを忘れてはいけない。それを理解したうえで、神などという不確かで、力のない存在にひれ伏し、戯言を吐く者たちもいる。どちらも我々の進化を、知識と技術の進歩を妨げているのだ。
人を裁けるのは、魔でも神でもない、人なのだ!!!
これからは闇との戦いとなる、決して簡単にはいかんだろう。しかし我々が生み出した光は、知識という膨大な光は、確実に闇を葬り去るだろう。
そして我々はこの手で、力と進化を実感するのだ!!!」
―うぉぉぉぉぉぉ!
―いいぞぉぉぉ!! ―俺たちの時代だ!!
―戦うぞ!! ―おっしゃぁあぁ!
すごい歓声だ、士気は子供の僕でもわかるほどに高い。
圧倒的で、なんというか、その演説が行われた時点で、戦いが始まってしまったような。
拍手喝采、歓喜の声。
俺たちは力を手にいれた!そして魔法と戦うんだ!!
今まで魔法に、女に頼るしかなかった文化の発展は、大きく変わった。
知識、技術、それらは男の希望であり、プライドだ。
彼らはもう、頼り、従うことをやめた。
自由の為に戦う。
それにしても、演説していたあの人・・・エドさんに似てる?
僕の知り合いによく似ていたけど、そんなわけはない。
僕は背が小さいから、男性ばかりのこの広場でははっきり顔を確認できなかった。
演説をしていた男性は歓声を背に去って行く。
彼は部下らしき人物から帽子を受け取り、それを被った。
・・・!?
いま少しだけ見えた、あの帽子は。
間違いなく僕の知っているエドさんだった。
あの帽子は、僕の姉の親友、そしてエドさんの婚約者であったクリッシーさんが彼に贈ったものだ。
なぜ、エドさんが機械派の演説を・・・?
分からないことが多すぎて、胃が、胸が苦しくなった。
真実を知る、それが今日の目的、なにかわかりそうな気がした。
無我夢中で人ごみをかき分け、エドさんを追った。