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輪廻  作者: 竜崎 詩音
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不安と疑問

もう幾人の魔が狩られただろうか。

結果どれほどの人が苦しみ、どれほど人は進歩しただろう。


我々は無知だ、故に未知が溢れている。

我々は未知を恐れ、蔑み、理解できないことを妬み、差別する。

我々はどうにも未知を受け入れられない、莫大な時間が必要だ。

我々はなぜ受け入れられないのだろうか、常識と違うから。


少数派は、道徳に反する。

故に、裁かれる運命にある。


理解できない力は、恐怖なのだろうか。

少数で、稀で、珍しい者は、悪なのだろうか。


私は多数と少数のどちらに属しているのだろうか。

多数が正義だと決めつけていいのだろうか。


分からない。

もう、誰に問うたらいいのかもわからない。


この世界そのものが、裁かれる時が来たのかもしれない。




「おはようございます、配達の手伝いに来ましたー!」

パンの香りが鼻をくすぐり、朝食を済ませたはずの腹を鳴らした。

いつ嗅いでも魅力的な匂いだ。


「おう、いつも悪いな、アベル。じゃあ今日もお願いしようかな」

パン屋の店主から配達用のパンとミルクが入った籠を受け取った。

僕には少々大きくて、かなり重いのだけど、その匂いと軽くなっていく達成感が楽しくて、毎日でも苦にはならない。


「おっと、転ぶなよ?でも大分たくましくなってきたな」

「はい、そのためのお手伝いでもありますから!」


「本当にいつもありがとうな、頼んだよ」


―はぁい、いってきまぁす!



パン屋のあった通りを抜け、一度大きな通りに出る。

どこから周るにしても、いちどメインストリートに出るのが早いんだ。


「えっと、まずは・・・新聞社が一番近いかな」

街は複雑で大きな建物が多い、地元なのに迷子になりそうなくらいだ。

近年急激に街が発展していて、僕が生まれてからでもずいぶん眺めは変わっている。

今、とても大きく、早い時間の流れに必要不可欠なのが新聞なのだろう。

僕には難しくてよくわからないけど、新聞社の大きさを見れば、重要性には気付く。


「おい坊主、ミルクを一つくれないか、喉渇いちまって」

「はい、いつもありがとおじさん」

「おや、また値下がりしたのかい?」

「そうみたいなんです、たくさん入荷したみたいで」

「はい、ありがとな」


広場のベンチで新聞を読んでいるおじいさんは、いつもミルクを買う。

少しの間だけどお喋りをして、新聞の記事について教えてもらう。

秘密の楽しみの1つだ。


「また機械派が何かやっているみたいだじゃな」

「何かって?」

「魔女にちょっかいかけてんのさ、どんどんひどくなってるらしい」


「・・・」

「そろそろ戦いの時代かのぉ・・」

「え・・・?」


「いや、なんでもないさ。おや少し長引いたね、早く行ったほうがいい」

「今日もありがとうございました」


おじいさんとの話を終え、着々と配達と集金を済ませる。

最近は向こうの区に百貨店というものができたみたいで、配達先はずいぶんと減った。

楽なのはいいのだけれど、少し寂しい。


今日最後の配達先は、この区で一番大きく、最も重要な場所。


魔女学校だ。



また1度メインストリートに戻った。

ここから何の障害物もなく、一際目立っているのがそれだ。

魔女通り、それが居住区から魔女学校へつながる唯一の道。

途中に関所があり、そこで身元の確認を行い、持ち物検査が行われる。

2つある関所を抜けなければ何人も魔女学校へは辿り着けない。


「今日はパンの配達です」

「おぉアベルくんかい、ちょっと待った荷物の確認な」


「え、あ、はい。パンとミルクです」

「おうすまないな、校長がな」


「校長先生が?なんて言ってたの?」

「それがな、どんな人でも絶対に荷物を確認しろとさ。アベル君を疑ってる訳じゃあない」


「そう・・ですか、おじさんのミルクここに置いておきますね」

「すまんな、ご苦労さん」


いつもは顔を見ただけで通してくれた。

今までそんなことなかったのに、なんで急に・・・?

なにか腑に落ちないまま、重い足取りで魔女学校に向かった。



配達で何度も通っているのだけど、まだ慣れないな、ここは。

大きな猫の彫刻が二つ、門の前にある。

その大きさだけでも驚きなのに、門はその4倍はありそうだ。

門そのものにも魔法陣の様な彫刻が施してある、美しいというよりは、なんだか不気味に感じる、とにかく大きな上に不思議な建物なんだ。

そんな不思議な建物の一番てっぺん、そこに校長室がある、

校長室の扉はこれまた大きくて不気味だ。

この先に校長がいる、いつものように笑顔で迎えてくれるのだろうか。

些細なことでこんなにも不安になる。


 ―コンコン 「どうぞ」

「失礼します、配達のはんこ貰いに来ました!って、あれ?」




「あらアベル君、いつもありがとうね、はい校長先生の代わりにはんこ」


そこに校長の姿はなく、副校長が出迎えてくれた。

少なからず不安を抱えていた僕に、さらに恐怖を与えた。


「ありがとうございます、校長先生はおでかけですか?」

「いいえ、あの・・・少し具合が悪いみたいなの、でも大丈夫よ」

「そうなんですか、珍しいですね。校長にお大事にって伝えておいて下さい!」

「はい、いつもありがとう、気を付けてね」


―しつれいしましたぁ、いってきまぁす!


(・・・ごめんね、アベル君。私にはもう止められそうにないの)


はっきりとは分からないけど、背中にねっとりと張り付く、ただならぬ危機の予感があった。



とにかく、これで今日の配達は終わりだな、パン屋に戻って報告しよう。

関所の荷物検査を受け、メインストリートに戻る。


「おい坊主、ちょっとおいで」


新聞のおじいさんはまだ同じところにいた、新聞を読まずになにか難しい顔をしていた。


「どうしたんです?」

「お前さんはいま魔女学校に行ってきたんじゃな?」


「えぇ、配達がありましたから」

「校長にはあったのかい?」


「いえ、体調が悪いみたいで、副校長がそういってました」

「・・・ほぉ、あの校長がな」


「?」

「いやすまんな、なんでもないんじゃ、パン屋に急ぎな」

「あ!そうでした、もうこんな時間か・・・またね、おじさん!」


あの校長が、その言葉の意味はよく分からなかった。

でもおじいさんのあの表情・・・。



いつもと変わらない配達が、今日は何倍にも長く感じた。

楽しい時間は早く過ぎてゆく、その反対もあるんだなぁ。

沢山考え事をしたけれど、なにも分からなかった。

下を向いて歩いていたら、いつの間にかパン屋に戻ってきていた。


あれ、中に誰かいる、お客さんかな?


「だから何度言ったらわかんだよ!あんたたちに協力する気も、金もないんだよ。ほら、出てった出てった!」

―ギィィ

「わかりました、でも魔女は私たちの生活に必ず危険を及ぼします、十分に注意してください。ではまた」

「けっ、一昨日来やがれ!」


扉の外から話を聞いていたけど、内容はよくわからなかった。

パン屋さんから出てきたスーツの男は、僕をみて軽く会釈をして去って行った。


「おじさん、配達終わりました」

「あぁアベルか、お疲れ様」


なにか疲れた表情をしていた。

今思えば副校長も、おじいさんもそうだった。


「さっきの男の人誰なの?お客さんには見えなかったけど」

「さっきのコートの男かい?・・機械派の人さ。最近魔女学校とのいざこざが絶えないみたいでね、機械派への勧誘と魔女資料がないか確認しに来たんだと、全く迷惑な話だよ」


魔女学校で起きたある事故をきっかけに、魔女と機械派と呼ばれる団体の間でもめごと起きた。今でも収まる様子はなく、むしろ多くの人が巻き込まれていった。

人が亡くなるほどの事件だったのに、魔女学校は事故の原因を明かさなかったため、ここまでの大事となってしまった。


「機械派か・・・」

「おい、大丈夫か!?顔が真っ青だぞ!!」


「え、そうかな、大丈夫だよ」

「まったく、ほらホットミルクだ、これ飲んだらさっさと帰って寝な」


「ありがとうございます」

「明日は休んでいい、ゆっくり休め」


「お疲れ様、ばいばいおじさん」

 ―ギィィ

(はぁ・・・まったく。それにしてもシャーリン、なんでアベルを残して逝っちまったんだ)




―ただいま


返事がないのはわかってる・・・。

寂しくなんかない、でも。

なにか嫌な寒気がして落ち着かない。

校長先生は本当に具合が悪かったのかな、パン屋さんに来たあの男の人は・・・

おじいさんはなんであんなことを聞いたんだろ。


頭の中の渦が、色んな感情をかき混ぜる。


落ち着こうと思い、紅茶を淹れた。

寂しかったので、姉にもらった魔女学の本を読んだ。

そうしている内に眠ってしまったようだ。



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