一話
リッチーである俺が暮らしていたダンジョンの最深部から地上に出てきておよそ5分。空を飛行魔法を使って音速で飛んでいると人間の町らしきものが見えてきた。
「よし、ここら辺で降りよう。」
俺が降り立ったのは見渡す限りに生い茂っている森の中。
そしてすぐさま、変身魔法を使うと、俺の周りを黒い霧が覆った。
「さてと、人間の姿になろうか。容姿はどうしよう。どうせなら素晴らしいほど端正な顔立ちにしたいものだな。性別は男か、女か。これはまあ男だろうな。リッチーである俺も♂だしな。だが、あまりに外見がかっこいいというのも趣味ではないな」
ひっそりとした森の中でリッチーの独り言だけが聞こえる。
2,3分ほどそうしていただろうか。突然リッチーがぽん、と手をたたいた。
「そうだな、どうせならかわいらしい子供の姿になろうではないか。そうすれば人間どもは俺を丁重に扱うのではないか?人間どもの同情を誘ってうまく取り入る。そして、人間の世界での生活基盤を確保し、目的の遂行に移る。・・・これでいこう」
そういうと彼の周りを覆っていた霧が晴れていく。中から出てきたのは10歳ほどの幼い少年。顔立ちは非常にかわいらしく、少女と見間違えるほどだ。
「では、行くとするかな」
俺は空を飛んでいるときに見つけた町の方へと歩みを進めた。
30分ほど歩くと目的の町へと着くことが出来た。
早速退屈そうにしている門番の男に話しかける。
「・・・すみませんが」
居眠りしそうになっていたのか、俺の接近に気づかなかった門番はびくっと驚き、そして俺の方を見ると恥ずかしそうに頭をかいて返答をした。
「も、申し訳ない。・・・ごほん。では、身分証の提示をお願いできるかな?」
子供に言い聞かせるような声だ。まあ当然か、俺の見た目は幼子なんだからな。だがもちろん、俺は人間の身分証など持ってはいない。今回は必要ないのだ。
俺は相手の目を見据え、無詠唱で魔法を使う。幻惑魔法の一種だ。
今回は精神支配などはせずにただ相手に俺が身分証を見せたという幻をみせるだけだ。なぜならこれが一番つじつま合わせをしやすいからだ。魅了系の魔法や精神干渉の魔法などは後々、ふとしたことで解けてしまい、矛盾や自らのおかしな行動に不信感を抱いてしまうのだ。
だが、幻惑魔法ならば、一度その場でかけるだけで幻として見せられた出来事を現実として記憶する。
そのためこの魔法が解けても後で思い返して、違和感を覚えることは無いだろう。
幻を見ていた門番がもう行って良いぞ、と言ったのでその通りにさせてもらう。開いている門から中に入ろうとし、俺はあることに気がついた。
「そういえば、この町の人間たちの強さをまだ見ていなかったな」
俺は後ろの方にいる門番に再度目を向けた。
「アイデンティファイ 鑑定」
なんとなく口に出して詠唱してみた。すると門番の横に様々なデータが表示される。
ロッケン・ハークライン
人種:人間族
性別:♂
年齢:38
HP 640/640
MP 60/60
STR 120
VIT 130
DEX 35
AGI 70
INT 18
スキル
剣術Lv3、身体強化Lv2、料理Lv1
称号
なし
ふむ、こんなものか。
おそらくこの男は人間の中でも強い方なのではないだろうか。
それはステータスからだけでなく、この町の門番を任されていることからも推測できる。
・・・まあ俺からすれば話にならないほど弱いが。