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イケメン妖怪ハンターリックの冒険シリーズ

イケメン妖怪ハンターリックの冒険(最終章中編)

作者: 神村 律子

 リックは古今無双のスケベです。


 しかし、そのリックも形無しなスケベが登場しました。


 リックの幼馴染みのガックです。ガックの前では、リックは借りて来た猫状態です。


 そんな二人には、もう一人幼馴染みがいました。


 その名はポック。


 二人を裏切り、悪の世界に身を置くようになった男でした。


 リックは店のグラスを握り潰してしまい、愛妻の遊魔を呼んでお金を払ってもらいました。


「弁償してもらうより、貴女にここで働いてもらいたい」


 店のオーナーが遊魔に懇願しました。ギョッとするリックです。


「遊魔はあ、働けません。旦那様に叱られますから」


 遊魔は笑顔全開で断わりました。この言葉を聞き、嫌な汗を掻くリックです。


(僕は遊魔を叱った事なんてないにゃん)


 諦め切れない様子のオーナーを振り切り、リックは遊魔と共に店を出ました。


「何だ、お前の奥さん、ここで働かないのか?」


 外で待っていたガックがニヤリとして言いました。


「ガックが通っているから、余計そんな事はさせられないにゃん」


 リックは遊魔がガックの毒牙にかかる事を恐れていました。


「親友の奥さんに手を出す程、俺は落ちぶれちゃいねえよ」


 苦笑いするガックですが、リックはその言葉を信用していません。


(昔、ガックに何人の彼女を寝取られたか……)


 そんなリックの回想を無視して、ガックは遊魔の肩を抱いて歩き出していました。


「さ、行きましょうか、奥さん」


「はい」


 遊魔も拒否する事なく歩き出します。


「ううう!」


 血の涙を流すリックです。でも、今まで自分が遊魔にして来た事を考えると、文句が言えません。


 


 ガックがリック達を案内したのは、二人が育った孤児院でした。


「懐かしいにゃん」


 リックは目を潤ませて建物を見上げました。


「ここは俺達が昔暮らしていたところなんですよ、奥さん」


 ガックはまだ遊魔の肩を抱いたままで言いました。リックは項垂れてしまいました。


「そうなんですかあ」


 遊魔はあるお師匠様の口癖を真似て言いました。


「まあ、今日はリックも一緒なのね。嬉しいわ」


 中から出て来たのは、孤児院の院長先生です。リック達以上に年期の入った猫又です。


「院長先生、ご無沙汰していますにゃん」


 リックは涙ぐんで院長先生の手を握りました。


「そちらの方はガックの奥さん?」


 院長先生は悪気なく尋ねました。するとガックは、


「そうだったら嬉しいんですけどね。リックの奥さんなんですよ」


「まあ。リックはミケと結婚したんじゃないの?」


 院長先生は更に悪気なく危険球的発言をしました。リックは顔を引きつらせて、


「ミケはグフに奪われましたにゃんよ、院長先生」


 慌てて言い繕いました。


「そうでしたっけ?」


 院長先生は首を傾げて言いました。


 


 リック達は院長室に通され、昔話に花を咲かせました。


「院長先生」


 ガックがコーヒーを飲み終えて口を開きました。


「はい?」


 院長先生は微笑んで応じます。ガックはリックをチラッと見て、


「ポックの噂をお聞きになった事はありますか?」


 すると院長先生の顔が曇りました。リックはガックと顔を見合わせました。


「ポックはここを出た後、悪い人達と付き合うようになり、それきりここには顔を見せていません。今はどこでどうしているのか……」


 院長先生は涙を零して俯きました。


「そうですか。奴の居場所を知っている人はいませんか?」


「ここにいた子達で、ポックと繋がりがあったのはグフだけです。あの子なら 知っているかも知れません」


 院長先生の答えにリックはギクッとしました。


(手がかりなし、にゃんか……)


 リック達は院長先生にお礼を言い、孤児院を後にしました。


「参ったな。グフが知っていたとはな……」


 ガックが呟きました。リックは、


「オババに頼めば、グフの魂をあの世から呼び戻せるかも知れないにゃん」


 ガックはビクッとしました。


「そいつは考えない方がいい。オババに頼ると、金がかかるからな」


 ガックは身震いして言いました。リックも頷いて、


「そうにゃんね。オババに依頼できる程、お金はないにゃん」


「お前様、おいくらご用意すればよろしいのですか?」


 遊魔が尋ねました。リックは苦笑いして、


「金貨千枚にゃん。妖怪を百匹退治して、ようやく手に入れられるお金にゃん」


「そうなんですかあ」


 遊魔は笑顔全開で応じ、


「そんな少しでいいのであれば、ありますよ」


「何ーッ!?」


 見事にハモって叫ぶリックとガックです。


 


 町外れにある洞窟に、リックが言ったオババはいます。


 オババは猫又界の最長老で、霊媒師です。


 リックは遊魔が胸当ての中から金貨を何千枚も出すのを見て顎も外れんばかりに驚きました。


「遊魔、いつの間にそんなにお金貯めていたにゃん?」


 リックは震えながら尋ねました。すると遊魔は、


「この前、雪山で退治した妖怪は千匹いました。だから、一万枚金貨をもらったんですよ」


 更に驚くリックです。ガックも驚愕していました。


「お前の奥さん、最高だな」


 ガックが囁いたので、リックはギクッとしました。


(気をつけないと、またガックに奪われるにゃん)


 リックは遊魔から離れないようにしようと思いました。


 洞窟に入ると、オババはまるでリック達が来るのを見抜いていたかのように出迎え、


「遅かったね」


 そう言って、中に招き入れました。


「ポックの事だろ? どこにいるのか、知りたいんだよね?」


 リックはまたガックと顔を見合わせました。


「グフに訊くまでもないよ。私が知っている」


 占い用のテーブルに陣取ったオババは目を細めてリックとガックを見ました。


「ポックはどこにいるにゃん?」


 リックが詰め寄ると、オババは、


「その前に出すものを出しな」


 リックは溜息を吐き、遊魔を見ました。


「はい、おばあちゃん」


 遊魔は金貨千枚をテーブルの上に出しました。オババはそれを満足そうに眺め、


「それからもう一つ。ポックは私の大事な水晶を盗んだんだ。それも取り返して欲しい。もちろん、その報酬は払うから」


「わかったにゃん」


 リックとガックは同時に頷きました。オババも頷き返し、


「ポックはここから西へ十万八千里。天竺に程近い山の洞窟に大勢の手下を従えて住んでいる。あんた達もしっているミイやケイが側室にされているらしいよ」


「何だって!?」


 リックよりガックが強く反応しました。ミイとはガックの恋人の名前です。そして、ケイとはガックの妹の名前なのです。


「二人が側室っていう事は、正室はまさか……?」


 リックが恐る恐る尋ねると、オババは大きく頷き、


「お察しの通りさ。あんた達がいた孤児院のマドンナだったモモだよ」


 リックとガックは互いを見ました。


「ポックめ! 首を洗って待っているにゃん!」


 リックは怒りに燃えましたが、


「お前様、モモって誰ですか?」


 遊魔に凍りつきそうな声で尋ねられ、顔を引きつらせました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回で完結するかと思ってたけど、まあ孤児院のマドンナが登場するんじゃ「次回乞うご期待!」でも仕方なしか^^ でか次まさか「後編の前編」とかやらないだろうな〜 (^_^;) それにしても欲深い…
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