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憂鬱人種の異世界迷走譚  作者: 虚偽丸
プロローグ【裏】
1/2

探し物は何ですか?

開始早々ですが主人公視点ではなく裏方視点となります。


彼らは最終局面辺りになるまで本編には関わり合いがない予定なので、小話程度に見て行ってください。

まあ登場回数自体、全然ありませんけど。主人公じゃありませんし。

某所。




其処は、星の数ほどあると言われる言葉に倣うようにして無数に存在する世界。そのほぼ全てとの繋がりが絶たれ、忘却の淵へと追いやられた一つの世界。


此の世の森羅万象全てを掌握し切っているとされる最高神ですらその場所を把握できていない、まさしく“某所”と呼ぶのに相応しいその世界の、一角。


常に夜の闇に閉ざされ、ただその天上で輝く月明かりのみが静かに差す、静謐な空間。

そこには、広大な西洋庭園と、その中央に位置する石造りの巨大な中世ヨーロッパ風の城があった。




◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎




ーーコツリ、コツリ。


城内に静かに響く靴音。


ーーコツリ、コツリ。


それを響かせる一人の人影。


バルコニーに面する石畳の通路を灯りもなしにただ月明かりのみを頼りに歩く一人の人影は、突き当たりにある扉の前で立ち止まると、それなりの装飾が施されたその扉を開け、中へと入っていく。


「ーーっと、ここであってる筈だよねぇ?」


室内に入り、扉を後ろ手に閉じる誰か。閉じられた扉の上縁に嵌められた金属プレートには、日本語や英語どころか地球のものではない言語で『第四戦略会議室』と刻み込まれていた。


では何処の言語かと問われれば、『此処』の言語と答えるしかない。


「ーー乖離(かいり)の鍵どこに置いたっけなぁ……確か昨日のデブリーフィングの時には机の上にあった筈なんだけどねぇ……」


何かを吟味するような質を持つ間延びした若い男性の声が、無音の部屋の中に反響する。声の主は当然、今しがた部屋に入った人影のものである。


光源となるものがこの部屋に存在しないため顔は見えないが、それでも暗闇の中で動く影の形から察するに、人間換算なら中肉中背の二十代前半、といったところだろうか。


微かにぼんやりと見える机や椅子の影を避けながら部屋に入った青年は、何かを探すように暗闇の中で机の上などをまさぐっている。


「ーーしっかし、さっさと見つけないと、またゼウス辺りから【法典・神威第零条除項文コード・ロストゼロ】級のダイレクト神罰を食らうハメになるかもしれないしねぇ。おぉ、怖い怖い。担当部署がオズやアートだったらまだいいんだけどなぁ……」


机の上に終わらず本棚な隙間から埃まみれの天井裏まで捜索の手を伸ばす青年のその姿は、さながら宝探しの様だ。


だが探し物が見つからないことによるその言動に反し、青年はまったく慌てる素振りも訝しる様子もなく、照明も点けずに暗がりの中で探しているため、第三者からはまるで本当は探し物を見つける気がないように見える。

そして実際にも探し物を見つける気など青年にはない。


(やっば俺様ちゃんでも物忘れをするもんだなぁ。今度シミュレーションでも組んでみようかねぇ)


かはははは、と軽快に笑うその様子を見れば、大半の神々は怒り狂うこと間違いなしだろうが。




この青年の探しているのは、乖離の鍵と呼ばれる一本の古風な鍵。


見た目こそ、ただのアンティーク風の調度品にしか見えないだろう。が、それを紛失することがどれほどの意味を持ち、どれほどの危険を孕んでいるのか、笑う青年は知っている。


乖離の鍵は霊界の門の番人を任された者に与えられる、開閉管理の鍵。


聖霊英霊死霊悪霊問わず、さまざまな霊魂の溜まり場となる霊界の唯一の出入り口は、その乖離の鍵によって厳重に管理され、また不慮の事故が発生した際も、その鍵となにより門番自身の力を以って事態の収束に当たるのが規則とされている。


本来なら神界の中で相応の信頼と誠意の形として与えられ、任されるそれが、もし仮に悪用されようものならーー


「やっぱ、キャパ越えで霊界あぼーん。領界のバランスブレイク真っ只中の状態で魂が善し悪し問わずに、神界人界その他諸々の場所にエスケープ。霊的スポットと呼ばれる場所を中心に、大量無数の彷徨う魂が集まり、ザキヤマ春の心霊災害フェスティバル全世界に大量展開の巻、ってところかねぇ」


ーー聡明な者なら青年の言葉から理解できるだろう、乖離の鍵の紛失が示すのは間違いなく、世界の崩壊である。




そう、これは子どものするような「教科書どこかに落としちゃった☆テヘッ」とはワケが違う。そのテヘッ一つで世界が滅びるかもしれないことを考えれば、事の重要さは誰でも理解できるだろう。しかも、過去にそれで世界の滅んだ実例は幾つもあるとすれば、さらに。


と、


「ーー勝手に宴会の片付けを抜け出したかと思えば、ここにいましたかリーダー。〈魔女〉にどんな難癖つけられても知りませんよ」


がチャリ、と入り口の扉が開き、そこに立つ少女が青年に言葉をかけた。


バルコニーの窓から差し込む月光が少女の影を形作りながら、部屋の中を照らす。青年がいる位地まで光は届かなかったが、月の光がそれを背負う少女の姿を明かす。


月光を反射して薄く(きら)めく肩まで届くか届かないかの銀髪。眼鏡の下には伏せ目がちの碧眼。外見年齢は十七歳ほどだろうか。

月のような静かな佇まいで、どこかの高校の制服らしき黒をベースにしたセーラー服を着ており、そして肩に提げられているのは、黒い革張りのバイオリンケース。


姿はまんま、吹奏楽部の女子高生だった。

姿だけは、であるが。

青年もまた同上……否、それ以上であるも、それを理解できるのはこの『どうしようもなく終われない世界』の住人だけであった。


リーダー、と鈴の転がるような透き通る美声で、少女は青年に呼びかける。


「今から現地時間の約三分前、“魂魄門(ソウルゲート)”の限定解錠が確認されました。恐らく、たった今リーダーの探していらっしゃる乖離の鍵が、故意的なのか偶発的なのかはともかく、何者かの手によって不正発動したものかと」


「……かはは。こんだけ探しても見つからない時点で、俺様ちゃんも半ばそうじゃないかと予想はしてたんだけどねぇ」


眉一つ動かさずに淡々と報告する少女と、困ったように苦笑しながら報告を受ける青年の図は、さながら真面目秘書とダメ上司の図である。


が、報告内容はとても一笑に流せるようなものではない。


管理者でない者による乖離の鍵の不正発動の発覚。


この時点で青年の罪状は


・乖離の鍵の紛失。


・霊界の門の管理不届き。


・第三者による乖離の鍵の不正発動。


もはや怒り狂うを通り越して普通なら神々の黄昏級の重罪である。

重罪であるが、青年を焦らせるには到底至らない。


それも青年にとって思慮の内なのか、それともーー


「あーあ。まぁ起きちゃったことはしょうがないしぃ?とりあえず判断は現場に任せるから、この件はよろしくねぇ」


「了解しました。人員は此方(こちら)のほうで見繕わせていただきます」


そして机の上に置かれていた書類の束をパラパラとめくりながら青年は、それこそダメ上司の如く投げやり気味に少女に言い放ち、また少女も二つ返事で了承すると青年に向かって一礼し、静かに去っていく。


部屋の扉が閉じられ、再び会議室は闇に包まれる。


「……さて、俺様ちゃんも、たまにはちゃんと仕事しないとなぁ」


世界五鍵(ワールドギア)の一本を失っても、青年は気ままだった。


道筋のある理論など存在せず、正義も悪もない世界で、青年は笑う。


そんな気ままから生まれたのが、今回の事件の始まり。

とにかく書きたいから書いたとしか言いようがありません。どこかで見たことあるようなネタが出てくるかもしれませんが、温かい視線で見守っていただけたらと思っています。


ご意見、ご感想や誤字脱字の指摘などはいつでもお受けしております。

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