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【影魔法】嫌われ悪役皇子ですが、玉座は譲りません  作者: 白川みなと
第1章 毒杯の宮廷

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第10話 小さな勝利

 扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


 審理の場の空気が先程より険しい。

 王女が倒れ、教会が割り込み、侍従官が拘束された。話が広がったぶん、誰も落ち着きどころを失っている。


 評議席の男が机を叩いた。


「レオンハルト殿下! 王女殿下の容体が――」

「落ち着いた。俺が鎮めた」


 ざわめきが走る。

 教会側の神官が一歩前へ出た。


「殿下が影を用いたことは事実ですね。王女殿下の発作は――」


 神官は言葉を切り、俺を一瞥する。


「続けろ」


 神官は口元に薄い笑みを浮かべ、言葉を継いだ。


「影が刺激となった可能性が高い。ゆえに、殿下の責を問わねばなりません」

「つまり、王女が倒れた理由は俺の影だと」

「状況から見て、そう判断せざるを得ません」

「王女の部屋は聖別の結界で守られていた。外からの干渉はない、とでも言うつもりか」

「当然です。聖別の床と結界は――」


「なら、これを見ろ」


 俺は前へ出て右手を差し出し、指先の影を揺らしたまま言った。


「王女の部屋、燭台の足元で回収した」


 影の内側から小さな黒い粒をひとつ滑らせ、盆の上へ落とす。

 香の灰に紛れる大きさだが、白い灯りの下では妙に沈んで見えた。


 神官の目が細くなる。


「……それは」

「王女の部屋に置かれていたものだ。外からの干渉はないと言ったな」


 評議席の男が被せる。


「殿下! そんな物で議論を――」

「議論はいい。確かめれば済む」


 俺は神官を見た。


「教会の手順で、ここで」


 神官の顔色が変わる。

 逃げ場がなくなった、とでも言いたそうな顔だ。


 リオナが一歩前へ出る。


「ここは審理の場です。鑑定してください」


 神官は唇を引き結び、侍従に指示した。

 銀の皿と聖別の粉が運ばれ、形式が整えられる。


 神官が粉を落とす。

 黒い粒に触れた瞬間、粉がごく薄く濁り、粒が微かに震えた。


「……術式の反応です」


 神官の声が、少しだけ固くなる。


 俺は頷くだけで言った。


「外からの干渉はない――その前提は崩れた。」


 評議席の男が食い下がる。


「呪具があったとして、それが殿下の――」

「少なくとも影が原因だと決め打ちする話ではなくなった」


 それだけで十分だ。

 勝ちにする必要はない。押し切られない形に変えればいい。


 俺は続けて問う。


「次に聞く。王女の部屋の燭台と香の手配は誰がした」

「部屋付きの者が」

「名前を」


 答えが曖昧になる。

 この場で曖昧にするのは、最初からそこに()()()が用意されている証拠だ。


「侍従官クロードをここへ」


 リオナが衛兵に目配せし、クロードが連れてこられた。

 縄で縛られているが肩は落としていない。作り笑いは保ち続けている。


 評議席の男が問う。


「クロード。王女殿下の部屋の準備に関わったか」

「いいえ。私は祝宴の導線のみを担当しております」


「なら、確認する」


 俺は淡々と言った。


「王女の部屋には、祝宴と同じ香が焚かれていた」

「当然でしょう。同盟国の歓迎なのですから――白檀の香を合わせ――」


 そこで、クロードの言葉が止まった。


 場の空気が一段、冷える。


 俺は視線を外さずに言う。


「関わっていないと言ったな」

「……」

「部屋付きの侍女が香の銘柄まで揃えたという話は、さっきとは違う」


 リリアが息を呑んだ。

 リオナも一歩も動かない。


 クロードは笑みを作り直そうとする。


「殿下、それは憶測です」

「憶測では終わらせない」


 俺は盆を示した。


「この呪具は燭台の根元にあった。あそこに置けるのは、部屋に入れる立場の者だけだ」

「……」

「誰が置いた」


 クロードの視線がわずかに彷徨い、教会側へ流れる。

 神官は動かない。先ほど自分の口で術式の反応を認めた以上、ここで庇えば教会の面子が割れる。


 クロードは口を開きかけ、閉じた。

 その沈黙が、答えの形になった。


 評議席の男が咳払いをする。


「……本件は再審とする。殿下の身柄は監視下に置き――」

「監視は受ける。だが処刑の段取りは止めろ」


 場の誰も、すぐには言い返せなかった。

 王女が倒れたから第三皇子という一本槍が折れたからだ。


 リオナが続ける。


「加えて申し上げます。先ほど提示された毒の小瓶は封が新しく、回収経路の説明も揺れています。祝宴直後の回収品とは考えにくい。証拠の取り扱いに作為が疑われます」


 評議席の男の顔が硬くなる。

 教会側も、今は強くは出られまい。


 クロードが目を伏せたまま、かすれた声を漏らした。


「殿下……そこまでして」

「無駄死にはしない。王女も巻き添えにしない」


 クロードの喉が小さく上下し、言葉を飲み込む。

 続けようとして、やめた。


 評議席の男が結論を置く。


「本日の審理はここまで。殿下は監視下にお戻りください」

「承知した」


 小さな勝利、だが息ができるだけの余白が、ようやくできた。


 扉へ向かう途中、リオナが声を落として言った。


「殿下。次は」

「黒幕だ。ここからは、もっと露骨に来る」


 影の内側には、まだ残っている。欠片も、メモも、証拠も。

 理想通りにはいかない。だからといって、黙って沈むつもりもない。


 扉の外で鐘が鳴った。

 祝福の鐘ではない。次の合図だ。

お読みいただきありがとうございます

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