表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【影魔法】嫌われ悪役皇子ですが、玉座は譲りません  作者: 白川みなと
第1章 毒杯の宮廷

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

第9話 罪の置き場

審理の場を飛び出した廊下は先程よりも騒がしかった。

衛兵の靴音、侍女の泣き声、祈りの文句――重なる音が、胸の奥をざわつかせる。


王女の部屋の前には教会の者が立ち、白い紐のような結界が張られていた。

侵入を拒むというより、入った者の魔力を削る類だ。中に入れば長くは動けないだろう。


「殿下はお入りいただけません」


神官が一歩、道を塞ぐ。


リオナが前に出た。


「王女殿下が発作を起こしたと聞きました。医師は」

「呼んでおります。しかし――」

「殿下は救いに来たのです。止める理由になりますか」


神官は言葉を探し、視線が揺れた。

その瞬間、内側から女官の叫びが飛び出してくる。


「お願いします……もう……!」


迷っている暇はない。


「入るぞ」


俺が言うと、リオナは一瞬だけこちらを見て小さく頷いた。

神官は口をつぐみ、道を開ける。


部屋の中は白い灯りと濃い香の匂いに満ちていた。

寝台の上で王女が体を強張らせ、呼吸が乱れている。侍女たちは手を握り、祈るしかない顔をしていた。


「王女殿下」


呼びかけても返事はない。意識が波打っている。


結界のせいで影は細っている。それでも、使い道などはいくらでもある。

寝台の下、カーテンの裾、椅子の脚――残っている影を細くつなぎ、暴れれば結界に触れるその一線だけを避けるように、落ち着かせるための輪郭を作った。


「……っ」


王女の震えがほどけるように弱まり、乱れていた呼吸もゆっくりと整っていく。

侍女のひとりが唇を押さえ、安堵の息を細く吐いた。


その声に引かれたかのように、王女の瞼がわずかに動く。


「……あなた……」


言葉は短い。けれども、取り落としそうなほど真っ直ぐだった。


リオナが周囲に向き直り、神官へ言う。


「医師が来るまで、室内の動きを絞ってください。王女殿下を刺激しないように」


神官が顔をしかめる。


「教会の結界の中で、影を使うなど――」

「今は議論をしている場合ではありません。王女殿下の容体を優先します」


リオナの声は低いまま揺れず、押し返す隙を見せない。


俺は王女から視線を外し、部屋の端へ意識を向けた。

発作の波が妙だった。体の内側で暴れているだけじゃない。外から、同じ間隔で揺さぶられている。


()()()がある。


灯りの近く、燭台の足元に視線を落とす。

――影が歪んでいる


俺は足音を殺して近づいた。結界の内側では急げない。余計な動きをすれば、削られるのはこっちだ。

一歩ずつ距離を詰め、燭台の根元を覗く。


香の灰に紛れて目立たない、黒い粒が落ちていた。


見た瞬間に背筋が冷えた。


呪具だ。


触れるには危険すぎるが、ここに残せばまた使われる。

俺は影を指先ほどの細さに整え、黒い粒を包むように覆って、そのまま滑らせるように影の内側へ沈めた。


結界がきしみ、冷や汗が背に浮く。

ギリギリだが、通せた。


寝台へ戻ると、王女の呼吸は安定していた。侍女たちの肩から力が抜ける。

神官はまだ不満そうだが、今は言い返す余裕もない。


廊下へ出ると、リオナが短く報告した。


「審理の場は混乱しています。侍従官クロードは拘束中です。教会側が引き取りを主張しています」

「引き取り?」

()()()()()だと言っています。王女殿下の件も絡めるつもりでしょう」


厄介な言い方だ。

聖別と名がつけば、あとは向こうの領分になる。


「渡したら消えるな」

「同感です」


リオナは迷わず頷いた。


「殿下。王女殿下の発作、外から揺さぶられていました」

「気づいたか」

「殿下が燭台のほうを見ました。……何かを回収しましたね」


鋭い。けれど、味方の鋭さは頼もしい。


「証拠だ。出しどころは選ぶ」

「承知しました」


そこへ足音が近づき、リリアが現れた。

丁寧な表情のまま、目だけが急いでいる。


「第三皇子殿下。王女殿下の身辺は教会が預かります。発作は聖別の問題です」

「預かるのは構わない。だが、クロードは渡さない」

「それは宮廷の判断になります」

「宮廷の判断は、今ちょうど揺らされている」


リリアは唇を引き結び、すぐには言い返さなかった。


「殿下……ご自身の立場を」

「分かってる。だから戻る。ここで流れを握られたら終わりだ」


王女の発作を盾にされれば、審理は一気に()()()()()()

それだけは許せない。


「リオナ。審理の場へ。クロードの拘束は維持する」

「はい」


審理の場へ向かう道中に影の内側を確かめる。黒い粒――呪具はそこにある。

これをどう出せば、誰かの証言に綻びが出るか。頭の中で順に並べ直す。


扉の前で、リオナが声を落として言った。


「殿下。準備は」

「十分だ」


扉が開く。


視線がまた集まる。さっきより苛立ちが混じっている。

評議席の男が声を張った。


「レオンハルト殿下! 王女殿下の容体が――」

「落ち着いた。俺が鎮めた」


ざわめきが広がる。教会側の神官が一歩出た。


「影で鎮めた、など――」

「なら確かめればいい」


俺は前に出て、右手を差し出した。影の縁が指先でわずかに揺れる。


「王女の部屋から回収した物がある。発作の揺れと繋がっていた。これを見て、それでも()()と言えるか」


言い切って、あとは相手に喋らせる。

誰が否定し、誰が黙り、誰が焦るか――そこに答えが出る。

お読みいただきありがとうございます

よろしければ、ブックマークや評価、感想などで応援していただけると励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ