目覚めと勇者
「ん…ここは…?」
目覚めたら知らない天井…いや落書きすごいな。
あちこちに子供のような字でリリス参上という字であったり絵が描かれていた。
「起きたか、魔王」
声のする方に顔を向けると勇者が座って剣を磨いていた。
「勇者…?」
「ユウシエッド・クライムヘルン・ドリエル・セリオール・コルマリン・ツヴェルだ」
だから長いから覚えられないって。
「ユウシエッドで」
「…しょうがない」
根に持ってそうだね。
「あれから丸一日、ここは魔王城の救護室だ。他のやつがいると騒がしいので俺が見張りでついた。他の魔族は…」
「ちょ…早い早い!」
起きたばっかりで頭がついていかない。
「その子に感謝しておくんだな。つきっきりだったぞ」
腰のところを見るとアーサーが眠っていた。
「アーサーちゃん…」
よかった、ちゃんと無事だった。
そこで私は上体を起こした。
「ユウシエッドさん、改めて助けてくれてありがとう。それで、なんでここに?」
「『さん』はやめろ気持ち悪い。旅をしている中、たまたま魔王リリスの噂を聞いたから立ち寄っただけだ。海の魔族が何か慌てていたからな」
「えっ?そんな噂一つで駆けつけてくれたの!?」
間違いの可能性の方が高いだろうに。
「俺は勇者だからな。理由はそれで十分だ」
「うわ…」
「『うわ』はおかしいだろ」
不覚にもちょっとかっこいいと思ってしまった。
なんか気に食わないので言わないけど。
「あぁ、それと知らせなければいけないことがいくつかある」
「知らせ?」
何だろう、いやな予感がするね。
「あぁ、いい知らせが2つと悪い知らせが2つ、いや3つ、4つ…」
「増えていく…」
あとバランスおかしいよ。
「どっちから聞きたい?」
「あー…」
セオリーだといい知らせから聞いて悪い知らせでオチが付くんだけど…正直聞きたくない。
「じゃあ悪い知らせから」
「いい知らせから言うよ」
「なんで聞いたんだ…」
いやがらせかな?
「いい知らせ1つ目だ。リリスは地下の檻に入れた。騒いではいるがもう脅威ではない。それになぜか高速移動の技が使えなくなっていたようだ」
「あの後対処してくれたんだ。いや、それよりも…技が使えなくなってる?」
どういうことだろうか?
確かにあの渦巻いてる魔力はおかしかったけど…。
「理由は謎だが、君に対処ができるようになったのでいいことと言える」
なるほど。確かにそれは言えてる。
「2つ目は眷属になっていた者たちはコウモリから元に戻ったぞ。奴にしか使えない魔力操作の一種らしく、何もしなければ時間で元の状態に戻るらしい。個人差はあるが…」
「ほんとに!?」
「ああ、俺が実際に確認した。間違いない」
みんな無事なんだ、よかった…。
「次は悪い知らせだ」
スッと背筋を伸ばす。
「その右腕だが…神経が切れているらしい。見た目はどうにでもなるが動けるようにするには何か特殊な方法が必要だ」
右腕はグルグルの包帯巻きにされていて力を入れようしても確かに一切動かない。
「しょうがないよ。生きているだけ充分」
左手で右腕をさする。
「魔族でこの地脈なら一度死んでリザレクションを…」
「ダメ、私の場合、他の魔族とは違って復活が難しいみたい」
「そうか…」
こればっかりはしょうがないね。
「次は魔王城だ。見てわかるようにボロボロだ。この部屋や玉座の間だけでなくあちこちが崩れかけていた。修繕はかなり時間がかかると見た方がいい」
「あー…」
そういえば私が最初に来たときやけにきれいな状態だなって思ったな。
多分幻惑魔法か何かでぱっと見てきれいに見せていただけなんだろうね。
「それはどうにでもなるよ。みんなで協力して修繕していく」
私もメテオの魔法で穴あけちゃってるし…。
「ふむ。では最後だが、俺はまた明日から旅に出る。次このようなことがあっても俺は助けに入れない」
「もう出ていくの?もう少しゆっくり…まぁこんな状態じゃ何ももてなせないけど」
お茶出すのも大変だ。
「あぁ、たまたま寄っただけだからな。それよりも…」
「うん、大丈夫。次は私たちでどうにかする。私たちも今回まさかユウシエッドが助けてくれるなんて思ってなかったから」
「であればいい」
そうしてふぅと息をついた。
おや?意外にも悪い知らせはあまり悪くなかったね。
良かったとこちらも安堵の溜息をついていると、
「安心したところでもう一つ悪い知らせがあったのを思い出した」
チラッとドアの方を見るユウシエッド。
「え…」
なんだろう、すごく嫌な予感がする…。
「檻に入れたリリスが脱獄したらしい」
「なんでやねん!!」
「ふぇ…?」
その言葉でアーサーが目覚める。
「魔王様!?起きたのですね!」
それと同時に部屋のドアが開く。
「魔王様の声が聞こえたぞ!起きたのだな!!」
ズメイさん筆頭に四天王と後ろの方で海王がいた。
地獄耳どころの話じゃない。
いやそれよりも…。
「ユウ…むぐ…」
みんなに囲まれ抱きしめられる。
「はっはっはっはっはっはぁ!!」
ズメイさんの声で耳がキンキンする。
「じゃ、俺は行く!」
ユウシエッドが逃げるようにササっと出て行った。
「あ!逃げ…!くぅ…二度と来なくていいよ!!」
なんて性格してるんだ…。




