海王
「申し訳ありません」
念話で謝ってくるのは四天王のミドリだ。現在破壊された森の修復にあたってくれている。
「いや、見てたけどあれはしょうがないよ」
ミドリさんの攻撃結構痛いはずなんだけどなと思いつつ答える。
「しかし本当にあのバケモノと対峙するつもりですか?魔王城を捨てて逃げてもいいのですよ」
「私が逃げるとみんなに矛先が飛ぶ可能性高いから。それに私は魔族の王、恨まれても最後までみんなを導きたい」
「魔王様…一生ついてまいります!」
かっこいいことを言ったけど足は震えている、念話でよかった。
「その心意気聞かせてもらった!」
ふと見ると小さいイカのような生物が部屋の入口にいた。
ミドリさんに謝り念話を切って話しかける。
「海王さんの部下の方?」
海王は海を束ねる巨大なイカの形をした王だ。
「何やらおかしな人間がこちらへ向かってくるのが見えたので話を聞こうと思ってこちらに向かった次第だ。ここに来るまでもいろいろと情報を集めさせてもらった」
「あー、海王さんにはできるだけ迷惑をかけないようにするつもりだったんですけど、海を渡る以上そうも言ってられないですよね。すみません」
「いや、海王様は寛大だ、魔王にも世話になっていると聞いている!私が話を通しておこう!安心しろ、勇者は海王様と我々海の魔族がどうにかする!」
「あ、待って!」
という間もなく転移で去っていく。
…やばいかもしれない。
海王さん暴走するとダメな方に行くからなぁ。
そのころ勇者一行
「なんでしょう、やはり何かおかしい気が…」
「どうした僧侶?」
「いえ…なんというか、本当に魔王って悪い方なんでしょうか?」
「何を言う!?ゴブリンの軍勢の有様を見ただろ!」
「でも先日の魔樹の件といいあまり殺意といったようなものが感じられないんですよね。その前に行ったゴブリンに襲われていると聞いて駆け付けた村も何も異変がなく村人も覚えてないとか聞きますし」
「だが実際襲われて全滅していた」
「うーん、まぁそうなんですけどね。いや、確かにそうですね」
と言いつつ心に違和感を覚えているのであった。
「魔王様はとてもいい方ですよ」
「あ?なんだこのチビ?」
人間の子供だ。
「あなたたち勇者…様ですよね、魔王様はいい方です」
「そんなわけねぇだろ、いいか、魔王ってのは…」
「待ってください戦士さん、あの、私たち海を渡りたいんですけどこの近くに造船所があると聞きました。知っていたら案内してくれますか?」
「いいですよ!」
そう言って歩き出す。
そして後ろでこそこそと話し出す。
「僧侶、なんで止めた?」
「争うのはあまり得策じゃないです、それに何か理由があるかもしれないので造船所でどうするか決めましょう」
造船所はとても小さな港町になっていた。
「ここがあるのは魔王様のおかげですよ」
どこに行っても魔王を崇拝するような言葉が飛び交っている。
「もう泳いでいった方がいいんじゃないか?」
「絶対いやですよ!一人で行ってください!」
「…何かおかしい」
「どうした魔法使い」
「この町の人言動だけじゃなくて魔力の流れが…いや、早く通り過ぎよう」
そう言って魔王城がある方へ船を出してくれないかと聞きに行く。
「魔王様に危害を加えるつもりじゃ?」
と言われたが僧侶による
「ここの人たちの話を聞いて改めました、話を聞きに行くだけです」
という一言で船を出してもらう。
そして航海中、急に魔法使いが叫ぶ。
「わかったぞ!この人たちは全員魔物だ!」
「そうか!であれば全員斬る!」
勇者がノータイムで急に船員を切り出す。
「「え!?そんな急に躊躇なしで!?」」
僧侶と船員の声がハモって叫ぶ。
「くっ、総員!海の中へ!」
船員の体がイカやタコ、魚の姿に変化して海へ飛び出す。
そして船に大きな触手がまとわりついてくる。海王だ。
「すげぇでかい触手だな。今夜は刺身か」
「寄生虫すごそうですよ、私が焼いてイカ焼きにします。ファイアボール!」
勇者が切って魔法使いが焼く構図が出来上がった。
そうして5本の触手を切ったころ本体が出てくる。
「きさまr…グアァァ!」
雷の槍で頭を貫かれ力尽きたのかどんどんと沈んでいった。
「でかかったなぁ」
勇者が感動していると船がめきめきと音を立てて沈み始めている、限界だったようだ。
そして…
「いや、結構遠かったな」
イカの触手を切りイカダにして戦士と勇者が押して泳ぎ切る形で終幕した。
魔王「これ私の印象最悪になっただけでは」




