海王の叱責
「あ…」
手を伸ばしたがもうそこは魔王城ではない。
転移した先、海に向かって手を伸ばす私がいた。
「は、早く戻らなきゃ!」
しかし体が震える。
早く戻らなきゃならないのにいうことを聞いてくれない。
「これは…」
私はあの少女、リリスに恐怖を覚えている。
ハルが一瞬でやられ、仲間をコウモリにされ、四天王の誰にも勝てないような光景を見て敵わないと思った。
挙句アーサーちゃんが捕らえられ、みんなは私を逃がすためにあそこへ残った。
無事かどうかもわからない。
どうしてこうなったのだろう。
「うぅ…」
動かない体でずっとうなだれている。
「情けない声がすると思ったら、魔王ではないか」
ザブザブと海から誰かが上がってくる姿が見える。
人型の姿となった海王だ。
「か、海王さん!よかった!あの、私、助けてほしくて、その…!」
「あぁ。いい!いい!私も大体の事情は知っている」
落ち着いた様子で笑いながら語りかけてくる。
「知ってるの!?じゃあ話が早い!あぁ、でもそれだけじゃなくてさっきアーサーちゃんも捕らえられて…」
「そうかそうか、大変だな」
ニコニコと笑っている。
「そう、大変なの!だから一緒に!私だけじゃもう!」
「待て、落ち着け。私も話したいことがあるのでな」
笑いながら語りかけてくる。
「そんなこと言ってる場合じゃ…」
「落ち着くのだ、まずはそれを聞いてからだ」
ずっと笑っている姿を見て少しイラっとする。
「なんでそんな…!」
「問題なければちゃんと手伝ってやるから」
「あ…ごめんなさい。ちゃんと聞くよ」
手伝ってくれると聞いて心を落ち着かせ、聞く体制を取る。
「うむ、ではよく聞け」
ニコニコしながら息をスゥっと吸う。
「しっかりしろ!!貴様は魔王であろう!!!」
ビリビリとした声が私の全身へ突き抜ける。
「え…」
「貴様は何をしている!?みっともなくうなだれ、うろたえ、挙句その状態で助けてくれだと?ふざけるな!」
「なぜ貴様はここにいる!仲間が逃がしてくれたからではないのか!?」
その通りだ、何も言えない。
「貴様を慕っていた者も無念だろうな、こんな目をした者のために戦ったのかと!」
「ま、待ってよ、でも、それでも勝てなくて」
「ほう、全力で戦ったと?そんな目をした貴様が?嘘をつけ!最初からあきらめていたのではないか?」
「…」
「どうせぼうっと突っ立っていただけであろう!アーサーも捕らえられて当然だ!」
「わ、私は…」
涙がボロボロと出てくる。
「むしろ本望ではないか?貴様のような奴に仕えるより有能な者に仕えるほうがいいだろう」
「そんな…」
「あそこにいる連中も新しい魔王の眷属となったらしいな!貴様に愛想をつかしたのであろう!」
「そんなこと…」
「やつらも楽しくやるさ!貴様のような奴に仕えるより楽しく…」
「そんなことない!」
「そう思っているなら前を向け!!」
ハッとする。
「まだ死んだわけではないだろう!勝てなくても立ち向かうのが貴様だ。何をグダグダとしている」
「…」
「仲間が待っているのだろう?」
そうだ、私はまだ何もしていない。
今までもとんでもない強敵に立ち向かったんだ。
こんなところで立ち止まっている場合じゃない。
「うん、そうだね」
涙をふく。
「ごめ…いや、ありがとう」
うん、前を向こう。
「ようやくマシな顔になったな」
海王を見る。
「アーサーちゃんを助けに行く!」
そう決意したとき、また海からザブザブと誰かが上がってくる姿が見えた。
「あんた…」
あ…この人は…。
ゆっくりと海王に近づいていく。
「シレーヌ…」
そしてガッと海王の胸倉をつかみ、
「あんた何エルクルちゃんを泣かしとるんや!!」
パンパンパンパンパン!!
と往復ビンタを決め込んでいった。
「ご、ごべんよシレーヌうぅぅぅ!!」
彼女はシレーヌ、海王の奥さんだ。
「私に謝ってどうするんやあぁぁぁ!!!」
ビンタが過激化する。
「おおおおおおお!!!!」
「うわ…」
全部台無しだよ…。




