アンデット
「申し訳ありません、魔王様…任務を果たせないどころかゴーレム様まで…うぅ…」
涙を流しながらアーサーは土下座をしている。
「えぇ!?やめて、私も悪かったから…」
「でも私、このままではゴーレム様に…」
300ページ越えの論文…設計図よりゴーレムさんか、優しいね。
「大丈夫、レベル1になっちゃったけど生き返らせることができたから」
生き返らせた50センチ程度のゴーレムが隣で両腕をあげてアピールする。
「ゴーレム様…申し訳ありません」
うなだれるアーサー。
「まぁ徹夜で頑張ってたもんね…。あんな大作を作るとは思わなかったし。しばらく休暇を与えるから少し休んできな」
肩を落としたアーサーを何とかなだめて退出させた。
「うーん、でもまさかあんな行動をとるなんてね」
かなりの脳筋ではないだろうか。
別方面から攻める方法を考えるか。
勇者監視用モニタを見ると無事魔境の地図と大体の魔王城の位置情報をゲットしたようだ。
着々とこちらへ向かっている。
どうするか考えていると部屋の入り口から声を掛けられる。
「魔王様、お話は聞きました。四天王が一人、リッチーにお任せを」
「あなたは…リッチのリッチーさん!」
骸骨姿でアンデットたちを率いて魔法で戦う四天王、リッチのリッチーさんだ。
外見は骸骨姿で怖いがとてもいい人。
城の家事リーダーでもある。
転生してすぐの時はとてもお世話になった。
「でもあなたがこの城から抜けると…」
「少しの間であれば私の使役するゾンビやスケルトンたちに任せておけば問題ありませんよ。それにアーサー殿が頑張っていた姿は拝見しておりましたので」
「うーん、だとしても初手迷宮壊すレベルのやばい連中をどうにかできるとは思えないけど」
「そちらに関しても考えがございます、それにもし失敗しても復活させていただけるのですよね?」
「なるほど、じゃあお願いしよう。その考えとやらを見せてもらう。ちゃんと死んでも復活させるから安心して!」
アンデットだからもう死んでるんだけどね。
荒野を勇者たちが歩いている。
「地図によるとここから森、海、山を越えて行くみたいです。わからない箇所も多いですが…」
僧侶が地図を見ながら位置を確認していく。
「森と山はいいんだけど海はどうするんだよ」
「泳げばいいだろ」
「えっ」
「それもそうか」
「僕はいやだから戦士の背中に乗るよ、背中広そうだし」
脳筋勇者と脳筋戦士のやり取り、それに返答をしている魔法使いである。
「いえ、あの、造船所があるみたいですよ」
「船あるなら楽だね、戦士の背中より広そうだ」
「それにしてもこの道は歩きやすいな」
そんなバカなやり取りをしている勇者一行。
その時地面からボコボコと人の手が出てくる。
「ヴォぉぁァ」
「ゾンビの根城か、数も少ないし軽く薙ぎ払うぞ」
そう言って上半身が出てきたところを一撃で勇者が薙ぎ払う。
「ヴォぅぅ…」
そんな声を出して動かなくなる。
「余裕だな、行くぞ」
その数分後、また数匹ボコボコと手が出てくる。
「また出たな、やるぞ」
薙ぎ払う。
また数分後現れる。
「多いな…」
そうして数分ごとに何度も何度も現れ止まることがない。
「うっとうしい!地味に時間かかって進まない!」
遠くの方でリッチーがにやりと笑っている。
ゾンビを命令できるギリギリの距離で地面から飛び出すタイミングを告げていた。
「このまま24時間襲い続ければ寝ることも難しくなるはずです。ゾンビ兵がいる限り消耗戦では負ける気がございません。」
地味ではあるがどんな相手であろうと確実に勝てるはずだった。
そう、普通のパーティであれば。
「もう暗くなってきたしそろそろ野宿の準備をするか。僧侶、後は頼んだ」
「あ、はい」
そう言って僧侶が円形のシールドをはりだす。
「これで一晩は持つと思います」
「僧侶ちゃんごめんね、この感じは多分リッチだと思うけど明日僕が全部片づけるから」
「何を…!?く、このシールド硬すぎて破れん…!」
そう言って焦りながらゾンビ兵を突撃させるがビクともしない。
このまま野宿を決行するつもりのようだ。
「そうはさせん」
そして一行が寝静まったあと火、水、土と強力な魔法をたたきつけるが傷一つつかない。
そしてしばらくした後魔法使いがひょっこりと顔を出す。
「いたぞーーー!!!」
「な!見つかった!一度退散を!」
しかし間に合わずぞろぞろと出てくる。
「どうした魔法使い」
「ねみぃぜ」
「私のシールド問題ありましたか?」
ここまでくれば迎え撃つしかない、そう思い魔力を練る。
「わたくしの火、水、土のオリジナル混合魔法です!」
「こいつがゾンビの犯人だ!全員で行くぞ!」
「えっ」
リッチーが目を見開く。
「タ、ターンアンデット!」
「王撃!」
「雷の槍!」
「必殺!グランドスラッシュ!」
「ぐっ、グオアァァァァァァ!!!」
ズドオオォォン!!というとんでもない音が響く
そしてリッチーの魔法、それどころかリッチーなど初めからいなかったかのような大きなクレーターが勇者パーティの目の前にあった。
そうしてゆっくりと朝日が見えてくる。
「ふぅ、すっきりしたー」
勇者一行はゆったりとした朝を迎えたのだった。
魔王城にて
「リッチー様が復活されて万全の状態になるまでの間、私スケルトンが家事リーダーとなりますのでよろしくお願いします」
ちょっと涙目なのは気のせいではないだろう




