迷宮ダンジョン
勇者が来るためにはかなりの道のりが必要のはずだ。
人族と魔王城までの距離は海を越え山を越え結構な距離がある。
道中も険しく徒歩の場合数日程度で着くような道のりではない。
強さがあっても大自然の力には逆らえない。
そして魔境呼ばれる地であれば我々魔族は基本的にどこでも転移することができる。
圧倒的有利な状況のはず。
なのになんだろうこの胸騒ぎは。
最近は身体強化魔法で過酷な環境でも進めるよう研究が進んでるっていうし冬の山を半袖で進軍してきそうな予感がする。
それにあの勇者一行の強さ、おそらく半分も実力を出していないように見えた。
どう対策すべきか…。
うーん、私別に殺したくはないんだよね。
いや無理な気はするけど。
どちらにせよトラブルを避けるためにも殺すのではなく無力化にとどめておきたい。
無力化さえしてしまえば話し合って和平への道が開けるはず!
その準備のための足止めだ。
そして
「足止めといえば迷路だ、アーサーちゃん!こっちへ」
「魔王様、呼びましたか?」
彼女はアーサー。
参謀で金髪ロリの見た目でいつも助言をしてくれる。
元の世界じゃアーサーって王の名前だし魔王変わった方がいいのでは?と毎回思う。
戦闘力がほぼないので難しいけど。
「地上の迷宮ダンジョンですか。であれば製作はゴーレム様に。出口が存在せずゴールと見せかけた入口へ戻る転移陣を作成しましょう。しかし魔王様、普通に壁を作るのではダメなのですか?それに迂回されるかも」
「それは私も考えた。でも軽く地形を変えるほどの一撃を持っている者に耐えることができるのはゴーレムであればおそらく1回程度。壁であれば何度も試すだろうけどダンジョンとなると話は別。冒険者ギルドへの報告や中に人がいる可能性などを考えて真っ当に制覇しようとするのではないかと思う。そして場所は魔境唯一の人族の集落の近くへ置く。ぐるりと一周囲めば迂回はできないというわけ」
「なるほど、さすが魔王様!しかしなぜ勇者はこの場所へ?」
「魔王城の位置や大体の地形を知るためだね。集落の方々も懐柔済みで魔王城の位置や地形も知っているが嘘はつくなと言ってある。人族の貴族に魔族の手先として殺されるリスクがあるから」
「そんなところまで…やはり魔王様はお優しいです。わかりました!迷路の内容は私が考えます!」
そう言ってパタパタと走り去っていき作業へ取り掛かる。
それはアーサー力作の作品であった。
難しすぎず適度な難易度でかなり遠くの方で出口と思われるような塔を設置して入口から見えるようにしておいた。
さらにゴールまで到達したであろう探索者の日記を置いておき、踏破が可能なこととゴールの塔についてやこの先に集落についても細かく記した。
分かれ道が多いが飽きないようたまに宝箱やきれいな風景が見えるよう調整をして作成した。
そしてもうすぐゴールというところの手前に転移魔方陣トラップを置いて入口へ戻るようになっている。
全ての分かれ道を正しい方向へ行っても迂回に迂回を重ねたり既存の別ダンジョンと繋げたりして丸1日、警戒をしながら探索したとして3日は時間がかかるだろう。
通常の冒険者が踏破まで2週間ほどかかると見込んで作った大作である。
設計と作成、トラップと宝箱の設置をゴーレムや他の魔族たちと協力して同時進行で行い3日で作り上げた。
「これは…迷宮ダンジョンか?」
勇者の前に土塊でできたとてつもなく大きい迷路が立ちふさがる。
そこを遠くから見下ろすのは参謀アーサーとゴーレム
「これ以上ないくらいよくできました。魔王様、ほめてくれるでしょうか?」
戦士が前に出て斧を取り出して振り上げるのが見える。
「めんどくせぇな、ただの土塊だろ?ぶっ壊しちまえばいいだろ」
「じゃあ頼んだ」
「早めに頼む」
「え、こういうのって報告案件じゃ…。中に人とかも…」
僧侶だけが冷静な中かまわず戦士が斧を振り下ろす。
「うおおおぉぉぉ!!」
「あ、あれ?えぇ!?ゴーレム様!防御魔法を!!」
「グオオォォォォ!!!」
攻撃をされた箇所に魔力を注ぎこみ土塊を集めて固め、魔力で補強して壊されないよう強化する。
崩されないよう補強を行うたびに自信の構成に必要な魔力を使用するためゴーレム自身が崩れていく。
だが1度は耐えられる、そう宣言された通り攻撃が終わっても無事であることを確認する。
しかしすぐ2回目の振り下ろしが来るのが見える。
「え、2回目!?」
「グ、グオオォォォォ!!!」
「ゴーレム様!く、私のありったけの魔力も一緒に!」
ボロボロと崩れていくゴーレム。
そして
「た、耐えました!耐えましたよ!」
何とか耐えたことによる安堵のため息がでる。
もうこれ以上は無理である。
「く、これは無理かもな、崩しても時間がかかるしダンジョンにそのまま入った方が早い」
「ほんとか~?」
勇者が軽く剣を振り下ろしてみる。
「あ」
「グ」
ゴーレムが完全に崩れる。
「ゴーレム様あぁぁぁ!!!」
「グオオォォォォ!!!」
補強していた魔力の途切れによってとてつもない轟音とともに連鎖的にダンジョンがどんどん崩されていく。
「うぅ…どうしてこんな…」
「崩れたな。さ、進もう」
意気揚々と瓦礫となったダンジョンを進んでいく勇者一行に涙を流しながら見送るしかなかったのである。
「ゴーレム様…私の力作ダンジョンが…」




