海王の意地
「えぇ!?ロンギ様、そこまで…。私、お礼をしに!」
「今はやめといたほうがいい。あなたにはやるべきことがあるでしょう?」
これ以上刺激を与えるとほんとに死んでしまいそうだ。
「そう…ですね」
「それで現在どれくらい?」
「魔術自体は問題ないんですがあまり芳しくはないですね。質のいい魔法石がないことが原因です」
「魔法石か…」
ハルさん筆頭ハーピィ部隊やリッチーさん率いるアンデットさんたちにも協力してもらって探してはいるがどうしても品質が足りない。
「では私が海王様にお尋ねしましょう」
小さなタコのような生物がいつの間にか部屋の入口に立っていた。
前来た小さいイカの魔族より丁寧だ。
「あ、海王さんの部下の方ですね、すみません、この後直接お伺いしようと思っていたんですが」
「魔法石、持っていらっしゃるんですか?」
アーサーが尋ねる。
「わかりませんが地上の魔法石よりは品質がいいものは多いかと」
「ではお願いします、それと…」
「ケンタウロスの件ですね、存じています。彼らが人族の領域に行くには海を渡らなければなりません。海王様はあまり心配していらっしゃらないようですが」
「いや、彼らは一度はまると簡単に抜け出せないような沼をどういう原理か軽々と走り、底まで落ちた後無理やり抜け出すということをしでかしています。海もわたるかもしれません」
2日戦い通しで今現在でも走っていて何も堪えてないのもおかしいし。
というかこれで海渡れたら空飛べそうだな…。
「ご迷惑をおかけすることになりますのでこれを…」
そう言ってアーサーは魔法石を差し出す。
「海王様が使う固有魔法を強化する魔法石です。前にそのようなものが欲しいとおっしゃっていたので」
「ふむ…ありがたくいただきましょう。しかしなるほど、でしたらこの件は我々海の魔族が引き継ぎましょう」
「えっでも…」
「ご安心を、海王様の力は絶大です。それに魔王には勇者の時の借りがあると」
「いやあれは勇者の方がおかしい強さで」
「では朗報をお待ちください」
「あっ!ちょっと待っ…」
転移で行ってしまう。
…やばいかもしれない。
海王さんまた暴走して悪化させるんじゃ。
海にて
「とどまっておるな、やはり陸の者にはこの海を渡るのは不可能」
「どうするよ!こんなんじゃ人間を殺戮なんてできねぇぞ!」
物騒な声が聞こえる中あるケンタウロスが前に出る。
「待ちな!俺がやり方を教えてやる!まず右足を出す!そして右足が沈まないうちに左足を出す!そうすりゃ海なんて余裕だぜ!」
「さすが兄貴!早速やってみようぜ!」
彼らはバカだった。だがそれゆえに実行をしてしまう。
「なにいぃ!!??」
「ヒャッハー!!このまま人族の集落まで行くぜぇ!!」
海王が驚きケンタウロス100頭が海を駆ける。
イルカと並走しながらものすごい勢いで海を渡っていく。
「させぬわぁ!!」
そうして海王の固有魔法で作った触手を何層にも重ねケンタウロスの行進を阻止しようとする。
「勇者との戦いで学んだ拘束、味わうがいい!!」
1本ずつではおそらくすぐにちぎられるが触手同士を絡ませアーサーからもらった魔法石も使い魔力で補強する。
そしてそれを何層にも固めケンタウロスたちの行く先を妨害する。
「なんだぁこいつは!?」
「構わねぇ!突撃だぁ!」
そうして無理やり通ろうとして触手が千切られかける。
「ぐ…なんというパワーだ、しかし何としてもここで止める!」
そして渾身の力を籠める。
「ぬおおおぉぉぉ!!!」
魔力を全力で開放し、周りにいる仲間と協力して思いっきり上へと投げ飛ばした。
そしてケンタウロスたちが見えなくなる。
海王はこれ以上ないほどの仕事をした。
勇者パーティの戦士に匹敵するほどの攻撃力を持つケンタウロスたちを投げ飛ばしたのだ。
途方もない快挙だ。
そう、進行方向でなければ。
「あっ!!」
「海王様…」
魔法石がピシッとひびが入る音が聞こえた。
…
「兄貴!あそこ!海を越えたぜ!」
かすかに陸が見える。
さすがに物理法則を無視して海を渡るのには体力を消耗するのかスピードは落ちているようだ。
「あいつがいなきゃやばかったかもなぁ!ここからは殺戮のショータイムだぜ!!」
魔法石の件を含めその報を聞いて青ざめるアーサー
「あ、しょ、しょうが…ないです…よ…」
その夜、アーサーは人知れず泣いた。




