第4話「迫り来る影、そして選択」
―――研究記録:004
被験体01の精神・身体状態安定。未知の接近者の確認と対処。
夕暮れ前、木々のざわめきはますます大きくなった。
私は被験体01の側に寄り添いながらも、神経を尖らせて外の音に耳を傾ける。
「視界確保。魔法感知ネットワーク起動。」
暗闇の森に魔法の網を張り巡らせ、接近者の属性を探る。
対象は人間か――否、何者かがこちらの存在を察知し、接近している。
「……おそらく王都の探査団か、あるいは私の過去を知る者かもしれない。」
被験体01は依然として静かに横たわっている。彼女の目は赤く煌き、覚醒の予兆を見せ始めている。
「君の存在の秘密を奪われるわけにはいかない。」
私は一瞬の逡巡の後、決断する。
「被験体01、意識の共有テストを開始する。」
これは高度な魔術的精神連携実験――彼女の意識に私の思考を送り込み、より連動した情報交換を目指すものだ。
成功すれば接近者への対抗策や防衛手段を再構築できる。
微細な呪文と精神波が交錯し、彼女の意識の扉がゆっくり開く。
彼女の赤い瞳が静かに私を見る。
「……あなたは、私の味方か?」
その問いに私は微笑みながら答えた。
「もっとも頼れる“研究者”であり“保護者”だ。」
精神の共鳴により、彼女の力の端緒がわずかに動き出す。
だが同時に、外の足音は近づき、影は深くなる。
シーン:迫る訪問者
小屋の扉がゆっくりと開いた。そこに現れたのは、王都の正規魔術探査官だった。
冷ややかな視線で私と被験体01を睨む。
「フィロ・レミグレイ……あなたを王都は逃したかもしれないが、私たちは見逃さない。」
彼の言葉に、私の胸の中で狂気の炎が微かに揺れた。
戦いか、それとも交渉か。
この瞬間こそ、私の研究と育成の成否を大きく左右するだろう。
「ならば、立ち合ってもらおう。私はこの少女の“研究者”であり、“保護者”なのだと。」
闇に光る少女の赤眼が答える。
「私が、私の意思で――」
心理観察メモ:フィロ・レミグレイ
被験体01との意識共有は成功したが、それは同時に彼女の力と私の狂気の境界を曖昧にした。
接近者との対峙により、科学と感情、倫理と愛情の葛藤は激化する。
私はただの研究者ではない。彼女の保護者としての覚悟も必要だ。
研究メモ:精神共有実験の可能性と危険性
精神共有は未知の領域。被験体の精神に影響を与える可能性もあるが、得られる知見は計り知れない。
この実験の成否が、今後の育成方針を決定するキーポイントになる。
外の世界は動き始め、辺境の小屋は静かな戦場と化す。