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第3話「実験と絆の境界線」

―――研究記録:003

被験体01の行動観察と精神状態解析。

実験継続のリスクと恩恵の天秤。


日没の森は黄金色に染まる。静寂の中に、私は被験体01のそばで膨大なデータを眺めていた。

彼女は微睡みながらも、以前より明確に動きに意志を感じさせる。


「単なる被験体ではなく、思考する存在。とはいえ、私の役割は実験者であり、育成者だ。」


魔術回復薬の効果は目覚ましいが、まだ完全復活には程遠い。心拍、呼吸、筋肉反応は正常範囲内だが、神経系の完全復旧には時間を要する。


「命を預かること。それは即ち、倫理と狂気の狭間に立つことでもある。」


小屋の書棚から手に取ったのは、古代の魔術理論書。

「古代種ドラゴン」と呼ばれる被験体01は、記録に残る最強の存在であるが、その力の全容は未解明のままだ。


今日の実験は『刺激反応テスト』である。

軽い魔力の閃光を発し、彼女の反応を解析する。


瞬間、彼女の赤眼が光を捉え、かすかに体を捻じらせた。

これは単なる反射ではない。意志的な反応の兆候だ。


「興味深い。彼女は確実に“感じて”いる。私の問いに少しずつ答えを返してくれる。」


静かに近づき、私は囁く。


「あなたの気持ちは?痛みは?恐怖は?」


被験体01は答えなかった。だが、その瞳に一滴の涙が光るのを見逃さなかった。


涙。その奇跡的な感情の証が、研究の価値を遥かに超えていることを私は知っていた。


■ 心理観察メモ:フィロ・レミグレイ


知性を持つ極限存在との共同生活は、冷徹な科学者の感情を揺さぶる。

絆は次第に強くなり、実験者と被験体の立場を揺るがす。

科学の“冷たさ”と人の“温もり”が交錯する、危うい均衡点。


■ 研究メモ:倫理と感情の狭間


実験継続下での感情芽生えは「異常」か「進化」か。

新たな魔術理論の構築にはこの境界線の解明が不可欠。

被験体01の感情表出は世界の魔術理論に革新を起こす可能性がある。


その時だった。

小屋の外から樹木のざわめき。誰かが近づいてくる。

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