第1話「辺境の森の銀獣少女」
―――研究記録:001
被験体01(ドラゴン少女)発見。外傷多数。意識不明。速やかな介抱が必要。
黒く深い闇を裂き、銀の髪がぽつりと光った。
「……ふむ。やはり、面白い。」
冷静な観察眼が、細部まで少女を映し出す。
森の奥深く、辺境と呼ばれる世界の果て。そこで、私はひとり、身を隠すように研究を続けている。
天才と謳われたはずの私が、王都から追放されたその理由は、ひとえに「倫理なき実験主義」にある。
だが、私は後悔していない。科学とは、真実への飽くなき探求だ。
「被験体01……あなたの存在は、この退屈な世界に新たな問いを投げかける。もちろん、実験にはリスクが伴うが、それは進化の代償でもある。」
たしかに、人の目には「異常」かもしれない。だが、私にとっては、それこそが真理の断片だ。
傷だらけの彼女の胸にゆっくりと手を置く。体温は低いが、確かに生きている。呼吸は浅い。だが、その確固たる存在感は紛れもなく「世界最強」と呼ばれた古代種のものだった。
「銀髪に赤眼、呼吸困難、古代種……まだ眠っている状態だな。起こしてみせる。」
ふと彼女がかすかにまぶたを動かす。まるで私という未知の世界に触れ、興味を示しているかのように。
私は朗読するように呟いた。
「研究は冷徹に。しかし感情は捨てない。これが、私フィロ・レミグレイの哲学。」
辺境の森に、魔法の光がゆらりとともる。
それは、小さな祈りでもあり、実験の始まりでもあった。
心理観察メモ:フィロ・レミグレイ
理論主義者でありながら、情動の起伏も持つ私。
冷静な科学者として「被験体01」を育てるが、実験を重ねるたび、未知の感情にも似た絆が芽生えつつある。
研究に没頭しすぎて、狂気の淵に触れたかもしれない。しかし、それこそが真の愛の形なのだろう。
シーン:記録1 — 介抱
彼女の体に必要な魔法の回復薬を調合しつつ、私は実験的な魔術理論を応用してみる。
「再生補助薬A-λ。これの効果測定を同時に行う。データ収集、開始。」
薄暗い小屋の中、魔法陣の光と薬品の匂いが入り混じる。
彼女はわずかに目を開いたが、言葉はない。眼差しだけが、深い知性を語っていた。
「なぜ、あなたは私の前に現れたのだろう……」
私の問いに自然と答えるかのように、彼女はゆっくりと首を傾げた。
世界の片隅、辺境の森。ここから物語は始まる。