婚約者がいる僕に毎日ラッキースケベを仕掛けてくる男爵令嬢、実は恋愛クラッシャーだった件
僕は公爵家の嫡男で、王女――エリシア殿下と婚約している。そんな僕の学園生活は、ある日、派手に崩れた。
「わっ!」
通学路を急いでいると、横から飛び込んできた何かが僕にぶつかった。パンをくわえた少女。僕は尻もちをつき、彼女も転んだ。
目の前にピンクのドレスと金髪の縦ロール。まるで童話から抜け出したかのような姿。しかし、現実は童話と違って――スカートの中が、思いっきり見えていた。
「あっ、す、すまない…!」
彼女の悲鳴と同時に、僕はそそくさと顔を背けた。
それが、男爵令嬢リリア・ブランシュとの出会いだった。
「転校生を紹介する」
教室に入ってきた教師の言葉で、僕は頭を抱えた。案の定、今朝の彼女だった。
「あっ、あなたは!」
「君は、パンツ……!」
クラスが凍った。教師の顔も引きつっていた。リリア嬢と僕は同時に顔を真っ赤に染めた。
結果、教師の気まぐれで彼女は僕の隣の席に。そこから悪夢――いや、地獄のような毎日が始まった。
リリア嬢とのラッキースケベ事件が日常化していた。
転んだ拍子に顔が彼女の胸に。暗闇では柔らかな感触に思わず手が。部屋を開けたら下着姿。毎日が修羅場だった。
最初は偶然かと思った。でも、彼女はなぜか胸元を強調する服ばかり着て、しょっちゅう僕に触れてきた。
気づけば、王女との婚約すら揺らいでいた。
「……俺、どうしたらいいんだろう」
相談した相手は、幼馴染のレイラ。
「はあ? あの子、ぜーんぶ計算よ。胸もフェイク。気を引くためにやってるに決まってるじゃない」
「えっ……?」
僕は唖然とした。信じたくなかった。だって、リリア嬢は無邪気で可愛くて――。
だが、僕は探偵を雇った。
そして、知った。
彼女は前の学園で、数々のカップルを壊してきた“恋愛クラッシャー”。婚約者持ちの男に接近しては誘惑し、破局させることで快感を得ていたらしい。
僕は決意した。
「すまない、リリア嬢。君とはもう関わらない」
「な、なんですってえぇぇぇぇぇ!? このクズ! 童貞野郎!」
令嬢の語彙とは思えぬ罵倒に、僕は背筋を凍らせた。
後日、エリシア殿下とのデート中、突如現れたリリア嬢が僕に飛びついてきた。
「私を捨てるなんてひどい! 肉体関係まで持ったのに!」
辺りが静まり返る。
「ち、違う! 僕はただ、偶然胸に顔が……スカートの中が……!」
喋れば喋るほど泥沼に。リリア嬢は泣きながら演技を続ける。
「ひどいよ……私、処女だったのに……!」
「…………」
僕は顔面蒼白。終わった。
すると――
「ぷっ……あははははっ!」
隣でエリシア殿下が笑い出した。
「ふふ、ごめんなさい、我慢できなかったの。レイラから全部聞いていたのよ」
「えっ?」
「まさか本当に探偵まで使って調べるとは思わなかったけど……誠実なのね、あなた」
リリア嬢は顔を真っ赤にして、その場から走り去った。
それから、リリア嬢は転校していった。今度こそ、誰にも告げずに。
「あなた、本当にバカね」
レイラが呆れた顔で言った。
「でもまあ、ちゃんと自分で決めたのは偉かったと思うわ」
「……ありがとう、レイラ。お前のおかげだ」
「でも私としては、あの王女様より、もっと良い相手がいると思うけどなあ」
「……は?」
「さ、知らなーい」
そう言ってレイラは僕の頬を軽くつねった。
風が吹いて、空は晴れていた。
おわり