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妹の笑顔に引き込まれそうで


 

 妹は家族だ、異性だが、そういう対象に見ている訳じゃない。

と言うより、見れない。

妹や姉が居ない人に分かりやすく言うなら、君は母親を異性として見る事が出来るのかって話になる。

どうだ、無理だろ?

血の繋がりは強固な家族としての絆を結ぶが、それと同時に男女の関係を避けるように働いている。


 恋歌は俺と妹の事情を知っているのに、他の奴らみたいな変な勘違いをされたのがショックだった。

俺が恋歌なら分かってくれると勝手に思い込んでいたと言われればそれまでだけど、彼女との繋がりは四月からあるし、そこそこ仲良くしていたつもりだったんだけど……。

 

「兄さん? 怖い顔してますよ、どうしましたか?」

 

「ん、いや別に何も……あるな、ゆうか、少しだけ我慢しろよ」

 

 下校中、知らない男二人組が向い側からやってくる。

ふざけた色の髪、チャラチャラしてて似合っていないアクセサリーを身に着けて、カッコいいと思い込んでいるのかダサいピアスまでつけてやがる。

そんなカスみたいな奴らが、ゆうかを見てやがる。

二日に一回程度の頻度で、こういう面倒なイベントが発生するんだよな。

 

 もし、仮に万が一いや億が一、あいつらが良い奴らだったとする。

だとしても、俺はあんなのを絶対に認めない。

ゆうかに近づけさせる訳にはいかない。

話しかける事も許せない、妹は俺が守るんだ。

だけど手を握っているのが見えているにも関わらず、こっちに近付いてくる。

 

「……あっ……に……にいさ……」

 

 ガタガタと妹が震え始めた。

きっと気持ち悪い目線が自分の体を舐め回すように流れているのだと分かってしまったんだろう。

さっきまでの綺麗な顔から血の気が引いていて、とてもじゃないが見ていられない。

アイツらはあの時の奴らと同じようなタイプの男だ、学校には居ないタイプだから、妹が怯えるのは仕方ない。


「大丈夫だ、じっとしてろよ」

 

「は、はい」

 

 暴力は最後の手段だ。

今はどんな手を使ってでも妹に話しかける事を止めなければならないが、それは本当に最後の手段。

そうなると、次に考えられるのは話しかける事すら出来ない雰囲気を出す事だ。

険悪な雰囲気はダメ、寄ってくる可能性が高い。

ならラブラブしているのは……よし、これでいこう。

 

「お前、本当に可愛いよな」

 

「兄さん!? ま、まだ家じゃないですよ!? 何して……」

 

 壁側を歩く妹に一歩近寄り、彼女の頬に手を置く。

艶のある肌は触っていてとても心地よくて、さっきまでの血の気の無い表情が少しづつだが赤くなっていくような気がする。

そのまま手を動かして次は髪を触ると、とてもサラサラで肌と同じくとても触り心地がいい。


「お前に触れたいって気持ちが抑えられなかっただけだ、嫌だったか?」

 

「い、嫌じゃないですよ!? でもそのいきなりで驚いたと言いますか、積極的な兄さんにはまだ慣れないと言いますか何と言いますか……」

 

「ほら、目閉じろ」

 

「に、にゃにをするのですか!?」

 

 男共が近くに来ている。

俺が妹に迫っているのを見てつまらなさそうな顔をしてやがる。

ざまぁみろと笑ってやりたいが、まだ話しかけてくる可能性は残されているので油断は出来ない。


「開けててもいいぞ、恥ずかしがるお前も可愛いし」

 

「閉じます! 閉じますからそれ以上恥ずかしい事を言わないで下さい!」

 

「いい子だ、ゆうか」

 

「ひゃいっ!」

 

 こんな時、妹の長い髪がとても役に立つ。

額を合わせているだけだが、彼女の髪を少し手繰り寄せれば、横から見ればキスしているように見えるだろう。

クックック、どうだ、これでもまだ話しかけようとするのか?

ま、しないわな。

男どもはガックリと肩を落として、さっきまで妹を見ていた目とは違う目で、俺を見てやがる。

 

 きっと羨ましいとか、見せつけやがってとか、そんな事しか考えていないだろうが、それはどうでもいい。

今はもう妹に視線が向いてない。

つまり、俺の完全勝利って事だ。

今日も妹を守れたな、うん、頑張った!

 

「もう目を開けていいぞ、ゆうか」

 

「……え?」

 

「男共は追い払った、もう大丈夫だ」

 

「えーっと、ありがとうございま……す?」

 

「守るって言っただろ、礼なんていい」

 

 既に妹の震えも無くなった。

さっきまでの表情と違い、少し落ち込んでいるような暗い顔を見せているが、少なくとも怯えてはいない。

何て言うか、彼女の今の顔はバイトが連続した時の俺みたいな顔をしてやがる。

こういう所に血の繋がりを感じる、自分で言うのも何だかとても似ているんだよ。

まぁこれを言えば怒りそうだから何も言わないけどね。

 

「期待してたのに……兄さんがキスしてくれるって……兄さんの物にされるんだって覚悟してたのに……」

 

「兄妹なんだからそんな事ならないっての」

 

「むー! 女の子を弄ぶなんて悪い男ムーブは止めて下さい! 兄さんじゃなきゃ蹴り飛ばしてますよ!」

 

 ……何だ。

何か引っかかる。

普通の会話をしているだけなのに……。

 

「兄さん以外の男性なら……」

 

「……ッ」

 

 まただ。

魚の小骨が喉に刺さって中々取れない時みたいな感覚に襲われる。

妹が他の男と一緒になるのは当たり前の話で、あんな事件が無ければきっと彼氏の一人ぐらい作っていたに違いない。

兄としてそれに何か言う事があってはならない。

それは間違っている。

分かっているのに、妹が誰かの隣に居る事を拒絶する俺が心の奥に潜んでやがる。

 

「まだ男はダメだ、お前を傷つけるかもしれねぇだろ、絶対にダメだ」


「おっやー、兄さんさてはさては、私が兄さん以外の男性の話をしたのが気に食わなかったんですかねー?」


「……んな事ねぇよ」

 

「大丈夫ですよ、私は兄さん一筋です!」

 

 妹と特別な関係なんて望んでない。

これは本心で、そこに嘘偽りは何一つ無い。

なのに、俺はさっき、男共からゆうかを守った時に優越感を感じていて、妹が俺以外の男の話をして嫌な気持ちになってしまった。

二つの相反する考えが、俺の中にある事を確認してしまったんだ。

 

 きっと、あの事件が俺にとってもトラウマになっているに違いない。

クズに妹を渡すぐらいなら俺が……とか、普通は考えない事なのに思考に混ざり込んで消えてくれないし。

何より俺も妹に似て、彼女に関わろうとする男が信用出来なくなっている。

 

「そうかよ」

 

「ちょっと、冷たいですよ、兄さん!」

 

 違う。

妹の事が好きな訳じゃない。

俺一筋だと言われて少し嬉しくても、これは違うんだ。

もしかしたら恋歌は意識せずに出ていた俺のこの中身について注意をしてくれていたのかもしれない。


 恋人を作る事は出来ない。

妹の側で、彼女を守らないといけない。

まだ俺は正常だ、妹を妹だと認識している。

でも、これがいつまで続くか分からない、終わりの見えないこの状況で、俺はいつまで勝機を保てるのだろうか?

 

少なくとも、今はまだ冬月さんが魅力的な女性に見えているし、冬月さんを彼女にしたいとか現実にはならない妄想をする事があるから大丈夫だろうけど、彼女に拒絶されたら俺は……。

 

「兄さん」

 

「ん?」

 

「大好きです、愛してますよ、兄さん!」

 

妹の笑顔に引き込まれそうで、おかしくなってしまいそうだ。

 



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