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壊れた妹と見えない束縛  作者: ケイト


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愛の鎖



 兄さんは今頃……ボーッと授業を受けているのでしょうか。

それとも、真面目に勉強しているのでしょうか。

何にせよ、三十分に一回のメッセージは忘れないようにしないといけませんね。


『朝の洗濯終わりました、これから私も朝ごはんを食べます』


 よし、これでいいでしょう。

心配性な兄さんは私の事を本当に気にかけてくれています。

ですが十五分に一度、何をしているかメッセージを送るのはやりすぎだと思います。

まあ確かに、一人にするのが不安だって優しさは嬉しいですが、流石にやりすぎです!

抗議したら三十分に一回になりましたけど、これでもまだ多いような気もします。

そういえば、満月さんもよく『あーしの事好きなのは分かるけど、あんたの兄ってけっこー……アレだよね』と言っていましたね。


「私の兄さんの初めての彼女……うぅ、思い出すだけで頭が痛くなってきました……はぁ、私も朝ごはん食べたら勉強しよっかな」


 私は今、学校に通っていません。

勿論辞めたとかそんなのじゃなくて、ただ登校していないだけなんです。

勿論これには深い理由があります!

まず私が居なければ兄さんと恋歌は登下校に昼食と二人きりになるイベントが盛りだくさん。


「うぅ……つらいです」


 二人がイチャイチャしているところを想像すると……頭と胃がキリキリと痛みますがこれでいいんです。

兄さんと恋歌がもっと仲良くなってくれればいいなって理由が一つ。

そしてもう一つの理由は私が学校に行かない事を兄さんが望んだからです。

理由は恋歌を優先していると私を守れないからだと聞いていますが、正直こればかりは仕方ない事です。


「……ハァ、恋歌と兄さんが二人きりになれる時間を作るって事は、自ずと私が一人になってしまうのは分かりますけど、むむむ」


 私が男性の視線にこんなにも怯えなければ、一人で登校出来れば良かったのですが、無理な物は無理です。

家でもくもくと勉強するのは嫌いじゃありませんが、この生活が始まってから一週間です、飽きてきました。

少しぐらい外出をしたいと思う自分がいながらも、未だに外で一人だとあの時の恐怖が自分の内側から襲ってきます。


 自分の力では絶対に勝てない存在に襲われるあの感覚。

私の体を自分の欲望のはけ口にしようとするあの悪意。

人としての尊厳を踏みにじり、個人ではなく楽しむための道具として"消費"されそうになるあの絶望感。

決して忘れる事ができません。

そして、そんな所に颯爽と現れて、その全ての悪から私を助けてくれた王子様こそ、兄さんです。


「あんな状況で助けられたら……実の兄でも好きになっちゃいますよ」


 私の中の強い男を求める女として遺伝子に組み込まれた自然な本能と感情の両方が、兄を異性として求めてしまっています。

それを理性と理論で押さえ込むのは、簡単な事じゃありません。

この恐怖に、少しでも抗わないといけない。

私が強くならないと、私の愛した人が幸せになれない。


「私だって、強い兄さんの妹なんです!」


 千里の道も一歩から。

まずは、見晴らしが良くて物陰が無い近くの公園に行ってみましょう。

歩いて五分程度の場所ですが、これなら今の私にぴったりです!


 スニーカーを履いて、髪をまとめました。

大丈夫です、あの時と違って私には太陽の明るさと人の目がついています。


「……すぅ……はぁ……よし、行きます!」


 一人で玄関から外に出る。

普通の人にとっては普通の事ですが、私にとってはまるで大冒険に飛び出すような、とても勇気の必要な事。

気のせいか少し玄関が重いような気もします。

ですが、私は……絶対に諦めません。


「外……だ」


 隣を見ても兄さんはいない。

それでも散歩をする老夫婦や、走る車。

私は……ついに一人で外に出られたんですね!


 見慣れた風景です。

それでも、私の成長……いえ、私が少しづつ元昔のような普通に戻りつつある事を祝ってくれているような気がします。

こんなにも気分がいいのは久しぶりです!

少しランニングしながら公園に向かいましょう!


 白い息を吐きながらのランニング。

教室から見る事しかできなかった恋歌のような姿をしているような気がします。

なんて気持ちがいいのでしょうか。

恋歌が何故陸上部を辞めたのかまるで分かりません!


 そんな気持ちで走っていると、すぐに公園についてしまいました。

よし、これならもっと遠くまで……。


 スマホが震えています。

前の連絡から三十分経っていないはずですが……。

スマホの電源ボタンに触れ、画面を見ると、そこには兄さんからの数十回以上の着信と、百を越えるメッセージが来ていると通知がありました。


『大丈夫か』


 大丈夫……?

何がでしょうか。


『何で家から出たんだ』


「何故……私が家の外に出た事が分かるのでしょう」


 直感でしょうか?

いえ、それにしてはあまりにもタイミングが良すぎます。


『誰か来たのか? 何で公園にいる?』


 それに、場所まで言い当てています。

メッセージには、私が何分前に家から出たとか、今どこにいるのかが細かく書かれていて。

私を何かしらの……おそらくスマホのGPS で追跡しているのは明らかでした。

私だってここまでしなかったのに、兄さんは私の許可無く……ここまでするのですね。


 兄さんは、私を、監視している。

私を誰にも渡すまいと、独占欲をむき出しにして、求めてくれている。

これまで向けてほしくて努力したのに手に入らなかった物が今、私の手の中にある!


「えへへ、兄さん」


 満月さんが呆れつつも喜んでいた気持ちが今分かりました。

好きな人が私を見てくれている。

その事実が、感情の高まりが押さえていた何かを弾き飛ばします。

この見えない鎖のような束縛が、私と兄さんを繋いでくれている。


『今向かってる』


「待ってますからね、兄さん」


 きっと、この鎖は断ち切ることができません。

私だけが切ろうとしても、兄さんだけでもダメ。

二人が別の方向を同じ志で引っ張らないと、絶対に切れない。

これは、兄さんなりの愛なんです。

なら、私はそれに答えないといけません。

こんなにも兄さんから離れようとしている私を縛るこの愛の鎖の強度と、私を引き込む力強さにうっとりしてしまいます。


「あ、そうです! いいことを思い付きました」


 兄さんを試すような事をする私を許して下さい。

叱って下さい、もっと縛って下さい。

そして、もっと苦しんで下さい。

これから私は最低な事をします、兄さんを苦しめて、兄さんを孤立させるでしょう。

恋歌にも……もう、友達じゃいられなくなりますね。


 それでも、その全てを乗り越えてなお私を縛ってくれるのなら……。


「兄さんはもう、私の物です」


 兄さんは変わってしまった。

でも、変わったのは兄さんだけじゃありませんでした。

私も兄さんと同じく、いえ、私はこの絡み付く愛に壊されてしまったのです。

 

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