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壊れた妹と見えない束縛  作者: ケイト


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束縛




 私の兄さんは素敵な人です。

頭が良くて運動もできる、少し女の子の気持ちを察するのが苦手な所もありますが、そんな欠点すら可愛く見える程の魅力を持ち合わせています。


 優しくて、頼れる、素敵な兄です。

そう、実の兄、血の繋がった家族です。

正真正銘本物の家族、私が愛してはいけない人です。

もしこの見えない壁がなければ、兄さんを手に入れる為にどんな事も……。


「昔はそんな風には見えなかったんだけどなぁ……」


 私が大学生三人に襲われそうになった事件よりも前、私は兄さんを今みたいな目で見ていませんでした。

頭が良い事は認めてはいましたが、私に対して特別優しかった訳でも、頼れる兄として映っていたわけでもありません。

だからこそ、恋歌から兄さんに惚れたから紹介してほしいと言われた時も、暗い感情を持つ事はなく。


『本気ですか? 言っておきますが、兄さんは恋歌の思っているよりもポンコツですよ』


 そう言いつつ、既に彼女がいる兄さんに恋歌をぶつけたらどうなるのだろうかとニヤニヤしていたのを覚えています。

一年以上前から兄さんを好きだった恋歌は今、妹の友達から彼女に昇格し、私もなんとか兄さんから離れようとしています。


 全ては、普通の兄妹に戻るために。

兄さんの、普通の幸せの為に、今まで迷惑をかけ続けた私が頑張らないといけないんです。


「兄さん、起きてください」


「……ハッ! い、今何時だ!?」


「もうすぐ八時です、私が起こさなければ遅刻でしたね」


 兄さんの部屋でお寝坊さんを起こして、私は一階に戻って朝食を広げます。

ご飯派の兄さんの為に朝から作ったおにぎりと、昨日の残りの味噌汁を温めて、ゆっくりと待つこの時間が嫌いじゃありません。

だって、まるで結婚した夫婦みたいじゃないですか?


「違いますね……これは普通の兄妹の朝です、そんな風に考えてはいけません!」


 頭と心は別物と言いますが、それを今痛い程実感しています。

だって、ついさっき普通の兄妹になると考えていたのに、今は兄さんのパートナーになった気でいますから。


「ゆうか、俺の制服どこ行ったか分かるか!?」


「リビングに置いてありますよ、しっかりとアイロンもかけましたからね!」


「サンキュ! 流石俺の妹は他のとは違うね」


 下着にシャツだけの兄さんが階段から降りてきました。

お礼を言うのと同時に、私の頭を撫でています。


「またそんな格好で……兄さんが家でこんなにもだらしない人だと恋歌が知ったらどう思うでしょうか」


「恋歌は……そうだな、気を付ける」


 なんでしょう、この歯切れの悪い返事。

恋歌とうまく行ってないのでしょうか。

そこまで相性が悪いようには見えませんし、思えません。


「ほら、早く食べて下さい」


 目の前で着替え終わった兄さんは、私の用意した朝食を全て平らげました。

女性の私からすれば少し多いぐらいにしたのですが、どうやら物足りない様子です。

明日はおにぎり三つにしてみましょう。


「行ってくる」


「はい、行ってらっしゃい!」


 行ってくると言った兄さんはすぐに動きません。

それとは違い、私は二歩程兄さんに近づいて...…行ってらっしゃいのキスをしそうになった所で踏みとどまりました。

あまりにも自然に待たれていたので……危なかったですね。


「す、すいませんでした……つい癖で……」


 私が謝ると、兄さんはとても寂しそうな顔をしながらボソッと。


「……今日も無しか」


 そうやって、私に聞こえるような大きさの声で呟きました。

どうしてそんな事を言うのでしょうか。

私がこんなにも我慢しているというのに、誘うような発言は止めて欲しいです。


「ほら、早く行かないと恋歌が待ってますよ」


 恋歌の事で歯切れが悪くなった時も、今この瞬間も、私の頭の中は兄さんの事でいっぱいになっています。

兄さんと恋歌が別れてくれれば、まだ私にもチャンスがあるのではないか、兄さんは私のキスを求めてくれているのではないか。

兄さんは、私の事を求めてくれているのではないか。

そんな邪な気持ちを、どんな感情で押さえ込んでいると思っているのでしょうか。


「……行ってくる」


 兄さんは変わりました。

良くも悪くも、以前とは別人です。

私が兄さんを求めていた時にはどこか一歩引いた対応をされていましたが、今ではその立場が逆になりつつあります。

どうしてその対応を、今さらするのでしょうか。

私が何度、どれだけ兄さんと男女の関係になりたいと願っていたと思っているのでしょうか。

私が求めた際には引いていく、私が引けば迫ってくる。

はっきりとダメだって言わないといけないのに……。


「ゆうか」


「むー! もしかして靴まで履いてから忘れ物に気づいたんですか!? まったくもう」


 私が兄さんに背中を向けた瞬間、後ろから抱きつかれました。

驚きと嬉しさが混じった感情は、体を動かすには遅すぎて、そのまま私の頬に兄さんの暖かい唇が当たりました。


「に、にいしゃんにゃにしてるんですか!」


「俺がしたかったからしただけだよ、んじゃ行ってくる!」


 緊張で目をグルグルにした私を見てから、兄さんは学校に行きました。

その表情はさっきまでとは違い、とても満足そうな、幸せそうな顔をしていました。



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