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壊れた妹と見えない束縛  作者: ケイト


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20/32

普通


 

 俺は限界だった。

妹の為だと自分に言い聞かせ、周囲の心無い言葉に晒されて、社会的に孤立させられていても耐えられた。

もちろんそれは全て妹の為でだし、それは今も変わらない。

だけどそんな辛い状況を一人で乗り切れる訳がない、俺には冬月さんが居てくれたから頑張れたんだと思う。

彼女が近くに居てくれるだけで、話を聞いてくれるだけで、俺は嬉しかった。

それ以上を求めてしまった結果は……これだ。


 あの一件があってから、俺は冬月さんの店に行ってはいない。

クビだと言われたからじゃなくて、もう会わす顔も無ければ……会いたいと思わなくなったんだ。

自分に全てを話してくれる人じゃないと信用できない。

異常なのは自分が一番理解している。

妹のように、誰かに依存しないと生きていけない精神状態のまま、妹を守らないといけない。


 壊れてしまった俺は、大切な家族を守る事から逃げてしまったんだ。

妹が嫌がると分かっていながら、俺の前で大切にしていた部活を捨ててくれた恋歌の覚悟と優しさに浸っていたかった。

 

「……兄さん、大丈夫ですか?」

 

 平日の昼間、俺は学校をサボって自宅にいる。

今まで感じなかった人への恐怖に襲われて、誰を信用したらいいのか分からなくて、学校に行く気にはなれなかった。

元々信用できる人なんて居ないはずなのに、どうしてこんな事を考えてしまうのかは分からない。

それでも、俺の隣に座る妹と、恋歌の前では少し落ち着いていられる。

 

「学校、休ませちゃって悪いな」

 

「兄さんとお家デートだと思えば大した事ありません! むしろご褒美です!」

 

 妹は俺を裏切らない。

何故なら、彼女は俺しか頼れる人を知らないし、他の男を恐怖の対象としか捉えていないからだ。

だからずっと、俺の隣にいてくれる。


「そうだな、デートだ、実の妹とお家デートだな……ふふっ……いったいどれだけの家庭でデートをしているのか分からないが、デートだな」

 

「……兄さん、元気出して下さい」

 

 妹だって辛いはずだ。

恋歌から俺と付き合う事になったとメッセージが飛んできて、恋歌と揉めていたが最終的にはいつも通り俺に接してくれる。

 

「俺は大丈夫だよ、ゆうか」

 

「少し痛いぐらい私に抱きついて言うセリフではありませんよ、兄さん」

 

「……そう……だな」

 

 俺の部屋で、俺は今妹を後から抱きしめている。

普通の兄妹らしくないのは分かっている。

それでも、恋歌が学校に行っている間の一人の時間には耐えられない。

誰かのぬくもりに触れていないと俺自身がどうにかなってしまいそうだったんだ。

 

「何故……震えているのですか?」

 

 妹が近くにいるのに、俺の手は震えていた。

指摘されるまで分からない程度の震えだが、妹が幻覚やトラウマに苦しむ際のそれに酷く似ている。

 

「……覚えていますか? あの事件があってから、私には兄さん以外の男性が恐怖の対象でしかありませんでした」

 

「お前が悪い訳じゃないだろ、アレは完全に被害者側だ」

 

「それはもちろんですよ、でもあの時は絶望と混乱と私を守ってくれる唯一の人である兄さんをどうにか自分の物にしようと必死でした、兄さんの幸せを考えず、私は自分を守る為に兄さんの幸せをぶち壊したんです」

 

「満月さんと別れた時の話してんのか、もういいよ、気にしてない」

 

「兄さんには悪い事をしました、今も兄さんが苦しんでいるのに……私は……私は……」

 

 妹を抱きしめる手に冷たいものが当たり、その後すぐに温かくて柔らかい彼女の手が触れる。


「兄さんが苦しんでいるのに、兄さんに彼女ができた事が嫌だとか、今兄さんが私を求めてくれているとか、そんな身勝手な事しか考えられないんです!」

 

 俺の腕の中の美少女、妹迫ゆうか。

兄である俺から見ても可愛い女の子に部類される。

成績優秀、スポーツ万能、友達だって多くて、異性からの人気も凄まじい。

誰にでも分け隔てなく向ける太陽のような彼女の笑顔も魅力の一つだろう。

そんな妹が今、泣いている。

 

「兄さんが苦しんでいるのに、私はそれを喜んでいる、本当に兄さんが好きなら、幸せを願うべきなのに……」

 

 感じてはいけない感覚が俺を襲う。

妹が俺の事だけを考えてくれている。

今の彼女の脳内は、全て俺で埋め尽くされている。

体も、心も、思考も、全て俺が支配している。

妹相手に絶対に感じてはいけない、それは理性では分かってる。

それでも、それがたまらなく嬉しかった。

絶対に妹は俺を裏切らないという安心感、俺以外の存在が彼女の中には存在しない優越感、俺の事で泣くほど苦しんでくれている現状が、俺には心地よかった。

 

「兄さん……恋歌と付き合うのは認めます、私達が普通の兄妹に戻る為、私が壊してしまった兄さんの幸せをもう一度拾い上げる為にも……心がはち切れそうで、吐き気もしますが……」

 

 だが、これに流されてはいけない。

俺も妹も、普通の兄妹になる為に動く時が来たんだ。

強い病的な依存を乗り越えようと、妹は俺を見送ろうとしている。

妹の為に全てを捨て、彼女を守る事に全てを注いだ俺も、彼女の後押しを受けているのだから、前に進むべきだ。

 

「私は、兄さんと恋歌を応援しています」

 

「……ありがとな」

 

 どうにか現状を変えたい、だけど妹が悲しむかもしれない、現状が悪化するかもしれない。

そんな事を考え、動くのをやめてを繰り返した俺がようやく、進むべき時が来たんだ。

 

「でも……今日は……このまま一緒に寝てもいいですよね」

 

「……ああ、ほらもっとこっちこい、布団から出たら寒いだろ」

 

「兄さん……私、頑張りますから、もう一度、もう一度普通の家族に戻りましょうね」

 

 俺は妹を抱きしめて、妹も俺を抱きしめる。

足は絡まり、簡単にはここから出られそうにない。

一つの布団の中で、もうこれから感じてはいけない、求めてはいけない暖かさを全身で感じつつ、眠りにつく。

 

「おやすみなさい、兄さん」

 

「おやすみ、ゆうか」

 


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